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元彼との決着 編
〝クールな上村さん〟
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「……落ち着いたか?」
「……はい」
五分経つ頃には平静さを取り戻した私は、バッグからティッシュを出して洟をかむ。
そして尊さんの手を握り、はぁ……、と溜め息をついた。
「……とっさに手が出るって、あれが昭人の本性だったんでしょうか」
「残念ながらそうだと思う。多分だけど、付き合っていた時、朱里は彼と喧嘩しなかっただろ? 中村さんからもそういう話は聞かなかったし」
尋ねられ、私は昔を思い出して頷く。
「そうですね。私は昭人に特に期待していなかったので、嫌な事をされても直してほしいと思わなかったし、文句を言った事がなかったように感じます。自分の悩みで一杯一杯になっていたから、昭人の事で一喜一憂したくなかったんです」
私の言葉を聞き、尊さんは頷く。
「昭人は〝できた彼氏〟として振る舞うのは得意だったので、イベントを大切にしたしプレゼントもくれました。だから周りに羨ましがられたし、『それなら文句を言う必要はないんだ』と思って、『自分は恵まれている』と満足できたんです」
泣き疲れた私は、尊さんにもたれかかって溜め息をつく。
「お互い、相手の本性を知らなかったんでしょうね……。私は本当に好きな人になら冗談を言いますし、バカップルみたいな事もします。狙ってしてるんじゃなくて、好きだから自然に出ちゃうんです」
「ん」
尊さんは私の手をキュッと握る。
「でも私は昭人にデレなかったし、昭人がキレたらどうなるかも知りませんでした。……いや、知ろうとも思わなかった。……好きになったら相手の事をもっと知りたいって思うものなんでしょうけど、私は告白されてOKしたあとも、自分のペースを崩さなかったんです。それまでの生活リズムに昭人が加わった感じで、彼氏っていうより行動を共にする人って言ったほうが正しかったのかも……」
そこまで言ったあと、我ながら「おかしいな」と自嘲する。
「……ていうか私、あれだけ好き……だと思っていたはずなのに、今こんなに掌返しして……。いいのかな。いや、昭人の嫌だったところ、本当に嫌いだったのでハッキリ言えてせいせいしてるんです。恋人として大切にされてるというより、連れて歩いていたらステータスの上がるアクセサリーみたいな扱いを受けていて、『嫌だな』って思っていたから、全部言えて良かった。……でも……」
昭人と会うと決めたあと、まさかこんな修羅場になると思っていなかった。
私の思い出の中の〝昭人〟は、草食系男子で感情表現が薄く、いつもクールで大人……という印象があったからだ。
今日、未練を見せて加代さんを悪く言った辺りから、私は『え? この人何? 昭人の皮を被った別人?』と思って混乱してしまっていた。
まるで〝昭人〟をコーティングしていたメッキがボロボロと剥がれて、姿を現した本当の彼が見た事もない姿をしたモンスターに思え、驚き、恐怖を覚えたのだ。
「……そりゃあ、あんなふうに復縁を迫られたら、誰だって怯えるだろ。俺から見ても、完全にヤベー奴だった。店の中でよくキレずに接する事ができたよ。朱里は偉い」
尊さんに慰められ、頭を撫でられ、私は細く長く息を吐いていく。
「今、戸惑ってた事についてだけど、朱里は今まであまり人と関わらないで生きてきただろ? だからその分、人とぶつかる機会が少なかったんだと思う。仕事ではちゃんと意見を言えているけど、もっとドロドロした……、友達や彼氏と泣きながら喧嘩するとか、泥沼、修羅場……とか、経験してこなかったろ」
言われて、私はコクンと頷いた。
「……家庭の問題があったから、〝外〟の人とのいざこざで悩みたくなくて……」
「朱里の平和主義で優しい性格は、人とぶつからないように生きてきたから形成されたと思ってる。悪い言い方をすると、あまり人と関わらないようにしたから、〝クールな上村さん〟と思われたかもしれねぇけど」
「確かに……」
苦い顔をして頷いたけれど、尊さんはすかさずフォローしてくれる。
「でも、それっていい事だと思うんだ。誰だってエンカウントするたびにガンガン戦うより、平和な人生を歩みたいもんだ。心のエネルギーも限りがあるし、学業や仕事とか大切なもんがある以上、田村に感情を割いていられなかった。……ただ、ぶつからなかった分、駄目な奴を見極める目を養えなかったし、誰かから強い負の感情をぶつけられた時、どう対応したらいいか分からなかったんじゃないかな、って思う」
「……そう、かもしれませんね」
自分の人生がイージーモードだったとは言わない。私には私の事情がある。
ただ、同級生が放課後に恋バナをしているような、告白し、告白されて悩むとか、他クラスの子に嫉妬するとか、彼氏を盗られたとか、そういう経験はなかった。
むしろ感情を大きく上下させるのが苦手で、恋愛で一喜一憂する彼女たちを遠くから眺め『青春だなぁ……』と一歩引いたところから見ていた。
本当は昭人にイラッとしていたのに、喧嘩したくないから我慢して、彼の嫌なところも見なかったふりをして、自分を押し殺し続けていたんだ。
「……はい」
五分経つ頃には平静さを取り戻した私は、バッグからティッシュを出して洟をかむ。
そして尊さんの手を握り、はぁ……、と溜め息をついた。
「……とっさに手が出るって、あれが昭人の本性だったんでしょうか」
「残念ながらそうだと思う。多分だけど、付き合っていた時、朱里は彼と喧嘩しなかっただろ? 中村さんからもそういう話は聞かなかったし」
尋ねられ、私は昔を思い出して頷く。
「そうですね。私は昭人に特に期待していなかったので、嫌な事をされても直してほしいと思わなかったし、文句を言った事がなかったように感じます。自分の悩みで一杯一杯になっていたから、昭人の事で一喜一憂したくなかったんです」
私の言葉を聞き、尊さんは頷く。
「昭人は〝できた彼氏〟として振る舞うのは得意だったので、イベントを大切にしたしプレゼントもくれました。だから周りに羨ましがられたし、『それなら文句を言う必要はないんだ』と思って、『自分は恵まれている』と満足できたんです」
泣き疲れた私は、尊さんにもたれかかって溜め息をつく。
「お互い、相手の本性を知らなかったんでしょうね……。私は本当に好きな人になら冗談を言いますし、バカップルみたいな事もします。狙ってしてるんじゃなくて、好きだから自然に出ちゃうんです」
「ん」
尊さんは私の手をキュッと握る。
「でも私は昭人にデレなかったし、昭人がキレたらどうなるかも知りませんでした。……いや、知ろうとも思わなかった。……好きになったら相手の事をもっと知りたいって思うものなんでしょうけど、私は告白されてOKしたあとも、自分のペースを崩さなかったんです。それまでの生活リズムに昭人が加わった感じで、彼氏っていうより行動を共にする人って言ったほうが正しかったのかも……」
そこまで言ったあと、我ながら「おかしいな」と自嘲する。
「……ていうか私、あれだけ好き……だと思っていたはずなのに、今こんなに掌返しして……。いいのかな。いや、昭人の嫌だったところ、本当に嫌いだったのでハッキリ言えてせいせいしてるんです。恋人として大切にされてるというより、連れて歩いていたらステータスの上がるアクセサリーみたいな扱いを受けていて、『嫌だな』って思っていたから、全部言えて良かった。……でも……」
昭人と会うと決めたあと、まさかこんな修羅場になると思っていなかった。
私の思い出の中の〝昭人〟は、草食系男子で感情表現が薄く、いつもクールで大人……という印象があったからだ。
今日、未練を見せて加代さんを悪く言った辺りから、私は『え? この人何? 昭人の皮を被った別人?』と思って混乱してしまっていた。
まるで〝昭人〟をコーティングしていたメッキがボロボロと剥がれて、姿を現した本当の彼が見た事もない姿をしたモンスターに思え、驚き、恐怖を覚えたのだ。
「……そりゃあ、あんなふうに復縁を迫られたら、誰だって怯えるだろ。俺から見ても、完全にヤベー奴だった。店の中でよくキレずに接する事ができたよ。朱里は偉い」
尊さんに慰められ、頭を撫でられ、私は細く長く息を吐いていく。
「今、戸惑ってた事についてだけど、朱里は今まであまり人と関わらないで生きてきただろ? だからその分、人とぶつかる機会が少なかったんだと思う。仕事ではちゃんと意見を言えているけど、もっとドロドロした……、友達や彼氏と泣きながら喧嘩するとか、泥沼、修羅場……とか、経験してこなかったろ」
言われて、私はコクンと頷いた。
「……家庭の問題があったから、〝外〟の人とのいざこざで悩みたくなくて……」
「朱里の平和主義で優しい性格は、人とぶつからないように生きてきたから形成されたと思ってる。悪い言い方をすると、あまり人と関わらないようにしたから、〝クールな上村さん〟と思われたかもしれねぇけど」
「確かに……」
苦い顔をして頷いたけれど、尊さんはすかさずフォローしてくれる。
「でも、それっていい事だと思うんだ。誰だってエンカウントするたびにガンガン戦うより、平和な人生を歩みたいもんだ。心のエネルギーも限りがあるし、学業や仕事とか大切なもんがある以上、田村に感情を割いていられなかった。……ただ、ぶつからなかった分、駄目な奴を見極める目を養えなかったし、誰かから強い負の感情をぶつけられた時、どう対応したらいいか分からなかったんじゃないかな、って思う」
「……そう、かもしれませんね」
自分の人生がイージーモードだったとは言わない。私には私の事情がある。
ただ、同級生が放課後に恋バナをしているような、告白し、告白されて悩むとか、他クラスの子に嫉妬するとか、彼氏を盗られたとか、そういう経験はなかった。
むしろ感情を大きく上下させるのが苦手で、恋愛で一喜一憂する彼女たちを遠くから眺め『青春だなぁ……』と一歩引いたところから見ていた。
本当は昭人にイラッとしていたのに、喧嘩したくないから我慢して、彼の嫌なところも見なかったふりをして、自分を押し殺し続けていたんだ。
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