219 / 778
元彼との決着 編
〝クールな上村さん〟
しおりを挟む
「……落ち着いたか?」
「……はい」
五分経つ頃には平静さを取り戻した私は、バッグからティッシュを出して洟をかむ。
そして尊さんの手を握り、はぁ……、と溜め息をついた。
「……とっさに手が出るって、あれが昭人の本性だったんでしょうか」
「残念ながらそうだと思う。多分だけど、付き合っていた時、朱里は彼と喧嘩しなかっただろ? 中村さんからもそういう話は聞かなかったし」
尋ねられ、私は昔を思い出して頷く。
「そうですね。私は昭人に特に期待していなかったので、嫌な事をされても直してほしいと思わなかったし、文句を言った事がなかったように感じます。自分の悩みで一杯一杯になっていたから、昭人の事で一喜一憂したくなかったんです」
私の言葉を聞き、尊さんは頷く。
「昭人は〝できた彼氏〟として振る舞うのは得意だったので、イベントを大切にしたしプレゼントもくれました。だから周りに羨ましがられたし、『それなら文句を言う必要はないんだ』と思って、『自分は恵まれている』と満足できたんです」
泣き疲れた私は、尊さんにもたれかかって溜め息をつく。
「お互い、相手の本性を知らなかったんでしょうね……。私は本当に好きな人になら冗談を言いますし、バカップルみたいな事もします。狙ってしてるんじゃなくて、好きだから自然に出ちゃうんです」
「ん」
尊さんは私の手をキュッと握る。
「でも私は昭人にデレなかったし、昭人がキレたらどうなるかも知りませんでした。……いや、知ろうとも思わなかった。……好きになったら相手の事をもっと知りたいって思うものなんでしょうけど、私は告白されてOKしたあとも、自分のペースを崩さなかったんです。それまでの生活リズムに昭人が加わった感じで、彼氏っていうより行動を共にする人って言ったほうが正しかったのかも……」
そこまで言ったあと、我ながら「おかしいな」と自嘲する。
「……ていうか私、あれだけ好き……だと思っていたはずなのに、今こんなに掌返しして……。いいのかな。いや、昭人の嫌だったところ、本当に嫌いだったのでハッキリ言えてせいせいしてるんです。恋人として大切にされてるというより、連れて歩いていたらステータスの上がるアクセサリーみたいな扱いを受けていて、『嫌だな』って思っていたから、全部言えて良かった。……でも……」
昭人と会うと決めたあと、まさかこんな修羅場になると思っていなかった。
私の思い出の中の〝昭人〟は、草食系男子で感情表現が薄く、いつもクールで大人……という印象があったからだ。
今日、未練を見せて加代さんを悪く言った辺りから、私は『え? この人何? 昭人の皮を被った別人?』と思って混乱してしまっていた。
まるで〝昭人〟をコーティングしていたメッキがボロボロと剥がれて、姿を現した本当の彼が見た事もない姿をしたモンスターに思え、驚き、恐怖を覚えたのだ。
「……そりゃあ、あんなふうに復縁を迫られたら、誰だって怯えるだろ。俺から見ても、完全にヤベー奴だった。店の中でよくキレずに接する事ができたよ。朱里は偉い」
尊さんに慰められ、頭を撫でられ、私は細く長く息を吐いていく。
「今、戸惑ってた事についてだけど、朱里は今まであまり人と関わらないで生きてきただろ? だからその分、人とぶつかる機会が少なかったんだと思う。仕事ではちゃんと意見を言えているけど、もっとドロドロした……、友達や彼氏と泣きながら喧嘩するとか、泥沼、修羅場……とか、経験してこなかったろ」
言われて、私はコクンと頷いた。
「……家庭の問題があったから、〝外〟の人とのいざこざで悩みたくなくて……」
「朱里の平和主義で優しい性格は、人とぶつからないように生きてきたから形成されたと思ってる。悪い言い方をすると、あまり人と関わらないようにしたから、〝クールな上村さん〟と思われたかもしれねぇけど」
「確かに……」
苦い顔をして頷いたけれど、尊さんはすかさずフォローしてくれる。
「でも、それっていい事だと思うんだ。誰だってエンカウントするたびにガンガン戦うより、平和な人生を歩みたいもんだ。心のエネルギーも限りがあるし、学業や仕事とか大切なもんがある以上、田村に感情を割いていられなかった。……ただ、ぶつからなかった分、駄目な奴を見極める目を養えなかったし、誰かから強い負の感情をぶつけられた時、どう対応したらいいか分からなかったんじゃないかな、って思う」
「……そう、かもしれませんね」
自分の人生がイージーモードだったとは言わない。私には私の事情がある。
ただ、同級生が放課後に恋バナをしているような、告白し、告白されて悩むとか、他クラスの子に嫉妬するとか、彼氏を盗られたとか、そういう経験はなかった。
むしろ感情を大きく上下させるのが苦手で、恋愛で一喜一憂する彼女たちを遠くから眺め『青春だなぁ……』と一歩引いたところから見ていた。
本当は昭人にイラッとしていたのに、喧嘩したくないから我慢して、彼の嫌なところも見なかったふりをして、自分を押し殺し続けていたんだ。
「……はい」
五分経つ頃には平静さを取り戻した私は、バッグからティッシュを出して洟をかむ。
そして尊さんの手を握り、はぁ……、と溜め息をついた。
「……とっさに手が出るって、あれが昭人の本性だったんでしょうか」
「残念ながらそうだと思う。多分だけど、付き合っていた時、朱里は彼と喧嘩しなかっただろ? 中村さんからもそういう話は聞かなかったし」
尋ねられ、私は昔を思い出して頷く。
「そうですね。私は昭人に特に期待していなかったので、嫌な事をされても直してほしいと思わなかったし、文句を言った事がなかったように感じます。自分の悩みで一杯一杯になっていたから、昭人の事で一喜一憂したくなかったんです」
私の言葉を聞き、尊さんは頷く。
「昭人は〝できた彼氏〟として振る舞うのは得意だったので、イベントを大切にしたしプレゼントもくれました。だから周りに羨ましがられたし、『それなら文句を言う必要はないんだ』と思って、『自分は恵まれている』と満足できたんです」
泣き疲れた私は、尊さんにもたれかかって溜め息をつく。
「お互い、相手の本性を知らなかったんでしょうね……。私は本当に好きな人になら冗談を言いますし、バカップルみたいな事もします。狙ってしてるんじゃなくて、好きだから自然に出ちゃうんです」
「ん」
尊さんは私の手をキュッと握る。
「でも私は昭人にデレなかったし、昭人がキレたらどうなるかも知りませんでした。……いや、知ろうとも思わなかった。……好きになったら相手の事をもっと知りたいって思うものなんでしょうけど、私は告白されてOKしたあとも、自分のペースを崩さなかったんです。それまでの生活リズムに昭人が加わった感じで、彼氏っていうより行動を共にする人って言ったほうが正しかったのかも……」
そこまで言ったあと、我ながら「おかしいな」と自嘲する。
「……ていうか私、あれだけ好き……だと思っていたはずなのに、今こんなに掌返しして……。いいのかな。いや、昭人の嫌だったところ、本当に嫌いだったのでハッキリ言えてせいせいしてるんです。恋人として大切にされてるというより、連れて歩いていたらステータスの上がるアクセサリーみたいな扱いを受けていて、『嫌だな』って思っていたから、全部言えて良かった。……でも……」
昭人と会うと決めたあと、まさかこんな修羅場になると思っていなかった。
私の思い出の中の〝昭人〟は、草食系男子で感情表現が薄く、いつもクールで大人……という印象があったからだ。
今日、未練を見せて加代さんを悪く言った辺りから、私は『え? この人何? 昭人の皮を被った別人?』と思って混乱してしまっていた。
まるで〝昭人〟をコーティングしていたメッキがボロボロと剥がれて、姿を現した本当の彼が見た事もない姿をしたモンスターに思え、驚き、恐怖を覚えたのだ。
「……そりゃあ、あんなふうに復縁を迫られたら、誰だって怯えるだろ。俺から見ても、完全にヤベー奴だった。店の中でよくキレずに接する事ができたよ。朱里は偉い」
尊さんに慰められ、頭を撫でられ、私は細く長く息を吐いていく。
「今、戸惑ってた事についてだけど、朱里は今まであまり人と関わらないで生きてきただろ? だからその分、人とぶつかる機会が少なかったんだと思う。仕事ではちゃんと意見を言えているけど、もっとドロドロした……、友達や彼氏と泣きながら喧嘩するとか、泥沼、修羅場……とか、経験してこなかったろ」
言われて、私はコクンと頷いた。
「……家庭の問題があったから、〝外〟の人とのいざこざで悩みたくなくて……」
「朱里の平和主義で優しい性格は、人とぶつからないように生きてきたから形成されたと思ってる。悪い言い方をすると、あまり人と関わらないようにしたから、〝クールな上村さん〟と思われたかもしれねぇけど」
「確かに……」
苦い顔をして頷いたけれど、尊さんはすかさずフォローしてくれる。
「でも、それっていい事だと思うんだ。誰だってエンカウントするたびにガンガン戦うより、平和な人生を歩みたいもんだ。心のエネルギーも限りがあるし、学業や仕事とか大切なもんがある以上、田村に感情を割いていられなかった。……ただ、ぶつからなかった分、駄目な奴を見極める目を養えなかったし、誰かから強い負の感情をぶつけられた時、どう対応したらいいか分からなかったんじゃないかな、って思う」
「……そう、かもしれませんね」
自分の人生がイージーモードだったとは言わない。私には私の事情がある。
ただ、同級生が放課後に恋バナをしているような、告白し、告白されて悩むとか、他クラスの子に嫉妬するとか、彼氏を盗られたとか、そういう経験はなかった。
むしろ感情を大きく上下させるのが苦手で、恋愛で一喜一憂する彼女たちを遠くから眺め『青春だなぁ……』と一歩引いたところから見ていた。
本当は昭人にイラッとしていたのに、喧嘩したくないから我慢して、彼の嫌なところも見なかったふりをして、自分を押し殺し続けていたんだ。
186
あなたにおすすめの小説
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
今さらやり直しは出来ません
mock
恋愛
3年付き合った斉藤翔平からプロポーズを受けれるかもと心弾ませた小泉彩だったが、当日仕事でどうしても行けないと断りのメールが入り意気消沈してしまう。
落胆しつつ帰る道中、送り主である彼が見知らぬ女性と歩く姿を目撃し、いてもたってもいられず後を追うと二人はさっきまで自身が待っていたホテルへと入っていく。
そんなある日、夢に出てきた高木健人との再会を果たした彩の運命は少しずつ変わっていき……
2番目の1番【完】
綾崎オトイ
恋愛
結婚して3年目。
騎士である彼は王女様の護衛騎士で、王女様のことを何よりも誰よりも大事にしていて支えていてお護りしている。
それこそが彼の誇りで彼の幸せで、だから、私は彼の1番にはなれない。
王女様には私は勝てない。
結婚3年目の夫に祝われない誕生日に起こった事件で限界がきてしまった彼女と、彼女の存在と献身が当たり前になってしまっていたバカ真面目で忠誠心の厚い騎士の不器用な想いの話。
※ざまぁ要素は皆無です。旦那様最低、と思われる方いるかもですがそのまま結ばれますので苦手な方はお戻りいただけると嬉しいです
自己満全開の作品で個人の趣味を詰め込んで殴り書きしているため、地雷多めです。苦手な方はそっとお戻りください。
批判・中傷等、作者の執筆意欲削られそうなものは遠慮なく削除させていただきます…
【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!
satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。
働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。
早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。
そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。
大丈夫なのかなぁ?
苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族恋愛~
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「こちら、再婚相手の息子の仁さん」
母に紹介され、なにかの間違いだと思った。
だってそこにいたのは、私が敵視している専務だったから。
それだけでもかなりな不安案件なのに。
私の住んでいるマンションに下着泥が出た話題から、さらに。
「そうだ、仁のマンションに引っ越せばいい」
なーんて義父になる人が言い出して。
結局、反対できないまま専務と同居する羽目に。
前途多難な同居生活。
相変わらず専務はなに考えているかわからない。
……かと思えば。
「兄妹ならするだろ、これくらい」
当たり前のように落とされる、額へのキス。
いったい、どうなってんのー!?
三ツ森涼夏
24歳
大手菓子メーカー『おろち製菓』営業戦略部勤務
背が低く、振り返ったら忘れられるくらい、特徴のない顔がコンプレックス。
小1の時に両親が離婚して以来、母親を支えてきた頑張り屋さん。
たまにその頑張りが空回りすることも?
恋愛、苦手というより、嫌い。
淋しい、をちゃんと言えずにきた人。
×
八雲仁
30歳
大手菓子メーカー『おろち製菓』専務
背が高く、眼鏡のイケメン。
ただし、いつも無表情。
集中すると周りが見えなくなる。
そのことで周囲には誤解を与えがちだが、弁明する気はない。
小さい頃に母親が他界し、それ以来、ひとりで淋しさを抱えてきた人。
ふたりはちゃんと義兄妹になれるのか、それとも……!?
*****
千里専務のその後→『絶対零度の、ハーフ御曹司の愛ブルーの瞳をゲーヲタの私に溶かせとか言っています?……』
*****
表紙画像 湯弐様 pixiv ID3989101
地味な私を捨てた元婚約者にざまぁ返し!私の才能に惚れたハイスペ社長にスカウトされ溺愛されてます
久遠翠
恋愛
「君は、可愛げがない。いつも数字しか見ていないじゃないか」
大手商社に勤める地味なOL・相沢美月は、エリートの婚約者・高遠彰から突然婚約破棄を告げられる。
彼の心変わりと社内での孤立に傷つき、退職を選んだ美月。
しかし、彼らは知らなかった。彼女には、IT業界で“K”という名で知られる伝説的なデータアナリストという、もう一つの顔があったことを。
失意の中、足を運んだ交流会で美月が出会ったのは、急成長中のIT企業「ホライゾン・テクノロジーズ」の若き社長・一条蓮。
彼女が何気なく口にした市場分析の鋭さに衝撃を受けた蓮は、すぐさま彼女を破格の条件でスカウトする。
「君のその目で、俺と未来を見てほしい」──。
蓮の情熱に心を動かされ、新たな一歩を踏み出した美月は、その才能を遺憾なく発揮していく。
地味なOLから、誰もが注目するキャリアウーマンへ。
そして、仕事のパートナーである蓮の、真っ直ぐで誠実な愛情に、凍てついていた心は次第に溶かされていく。
これは、才能というガラスの靴を見出された、一人の女性のシンデレラストーリー。
数字の奥に隠された真実を見抜く彼女が、本当の愛と幸せを掴むまでの、最高にドラマチックな逆転ラブストーリー。
初めから離婚ありきの結婚ですよ
ひとみん
恋愛
シュルファ国の王女でもあった、私ベアトリス・シュルファが、ほぼ脅迫同然でアルンゼン国王に嫁いできたのが、半年前。
嫁いできたは良いが、宰相を筆頭に嫌がらせされるものの、やられっぱなしではないのが、私。
ようやく入手した離縁届を手に、反撃を開始するわよ!
ご都合主義のザル設定ですが、どうぞ寛大なお心でお読み下さいマセ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる