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元彼との決着 編
尊さんを悪く言うな!
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怒気を孕んだ低い声で言ったのは――、尊さんだ。
「な……っ、なんでお前がいるんだよ!?」
驚いた昭人は悲鳴じみた声を上げ、一歩下がる。
「お……っ、俺が朱里と会うのを知ってつけてたのか!? 随分嫉妬深い彼氏だな! 朱里、こんな奴とは別れたほうがいいぞ。あとで絶対後悔するから!」
昭人はずっと見られていた気まずさをごまかすように、尊さんを非難しだす。
「俺は朱里の婚約者だ。元彼が自分の女に会いたいなんて言ったら、警戒するの当たり前だろ。バカかお前」
「あんた、朱里の上司だろ。知ってるんだからな。上司の立場を利用して迫ったんだろうけど、こいつが好きなタイプはあんたみたいな男じゃないんだよ。どうせ傷心の朱里に声を掛けて、強引に迫っ……」
昭人がそこまで言った瞬間、カッとなった私はバンッと彼の頬を叩いていた。
「尊さんを悪く言うな!」
私は涙を流し、昭人を怒鳴りつける。
「~~~~っ、もうやめてよ! あんた、いつからそんな風になっちゃったの?」
私はしゃくり上げ、声を震わせて尋ねる。
「昭人がお兄さんに劣等感を抱いている話は聞いていたし、昔からちょっと斜に構えたところがあるのも知ってた。カッコつけだし、自分は他の奴より優れてるって、人を見下してるところもある。私が家族について話す時も『自分の両親は健在だし離婚もしない』っていう、安全圏からの、上から目線で私を慰めてた。知ってるんだから!」
――そう、分かっていた。
――私はずっと、昭人の本性を知っていた。
気づいていたけれど、彼が〝嫌な人〟だって認めたら別れたくなるし、好きじゃなくなるから、心の中で黙殺していた。
でも学生時代の私は、昭人がどんな人であろうが、彼に依存してなんとか自分を保つのに必死だったのだ。
新たにまともな彼氏を作る気力なんてなかった私は、昭人を好きだと思い込む事で、自分は幸せなのだと言い聞かせていた。
けど今は「違う」と自信を持って言える。
本当に素敵な彼氏を知った以上、まがいものには「ノー」を言わなければならない。
でなければ、過去の私が可哀想だ。
「昭人は物腰柔らかで優しくて温厚な人だけど、その余裕は『自分は成績優秀で顔もいいし、周りとは違う』という自信からきてる。〝胸が大きくて美人な彼女〟がいれば、友達に自慢できてもっと自分に自信が持てたんじゃない? だから彼女を大切にしていた……んじゃなくて、大切にする自分に酔ってた」
心のダムを決壊させた私は、側に尊さんがいる事に勇気をもらい、思っていた事をすべてを吐き出す。
今まで昭人の前で泣いた事なんてなかったし、ずっと抱えていたモヤモヤを〝なかった事〟にしていたけれど、今言わなきゃ!
グズグズに弱くなったところを嫌いな相手に見せたとしても、側に尊さんがいるなら大丈夫。
「いつも昭人はさり気なく上からだったし、彼女を大切にするかどうかより、周りに〝理想のカップル〟と思われるかを重視してた。もともとお洒落なものが好きだったから、お金を持つようになって身につける物や飲食店にこだわったのは分かる。でも私はブランドやワイン、グルメの話をされても分からなかったし、『知らない』って言った時に小馬鹿にされるのが嫌だった。高級な飲食店で店員さんに偉そうな態度をとられるのも、恥ずかしくて嫌だった」
私に思い切り否定され、昭人は目を見開いて顔を強張らせている。
「美術館に行った時、私は場の雰囲気も含めてじっくり展示品を楽しみたかったのに、昭人は知識をひけらかしてペラペラ喋っていた。事前に調べたのは偉いと思う。でもその場の空気を大切にするとか、もっと考える事はあるでしょ? 静かな中、昭人の声ばっかり響いていて、私、一緒にいて恥ずかしかったんだから」
尊さんが溜め息をつく音が聞こえる。
「……それに飲食店に行っても、昭人が大切にするのはご飯を食べる事より、映える写真を撮れるかどうかだった。私のご飯も含めてこだわりの構図で撮りたいもんだから、撮影が終わる頃にはいっつもご飯が冷めてた。それで『見た目はまぁまぁだけど、大して美味くないね』って言ってて、ほんっとうに嫌だった」
隣で、尊さんが「ひでーな」と呟いた。
「な……っ、なんでお前がいるんだよ!?」
驚いた昭人は悲鳴じみた声を上げ、一歩下がる。
「お……っ、俺が朱里と会うのを知ってつけてたのか!? 随分嫉妬深い彼氏だな! 朱里、こんな奴とは別れたほうがいいぞ。あとで絶対後悔するから!」
昭人はずっと見られていた気まずさをごまかすように、尊さんを非難しだす。
「俺は朱里の婚約者だ。元彼が自分の女に会いたいなんて言ったら、警戒するの当たり前だろ。バカかお前」
「あんた、朱里の上司だろ。知ってるんだからな。上司の立場を利用して迫ったんだろうけど、こいつが好きなタイプはあんたみたいな男じゃないんだよ。どうせ傷心の朱里に声を掛けて、強引に迫っ……」
昭人がそこまで言った瞬間、カッとなった私はバンッと彼の頬を叩いていた。
「尊さんを悪く言うな!」
私は涙を流し、昭人を怒鳴りつける。
「~~~~っ、もうやめてよ! あんた、いつからそんな風になっちゃったの?」
私はしゃくり上げ、声を震わせて尋ねる。
「昭人がお兄さんに劣等感を抱いている話は聞いていたし、昔からちょっと斜に構えたところがあるのも知ってた。カッコつけだし、自分は他の奴より優れてるって、人を見下してるところもある。私が家族について話す時も『自分の両親は健在だし離婚もしない』っていう、安全圏からの、上から目線で私を慰めてた。知ってるんだから!」
――そう、分かっていた。
――私はずっと、昭人の本性を知っていた。
気づいていたけれど、彼が〝嫌な人〟だって認めたら別れたくなるし、好きじゃなくなるから、心の中で黙殺していた。
でも学生時代の私は、昭人がどんな人であろうが、彼に依存してなんとか自分を保つのに必死だったのだ。
新たにまともな彼氏を作る気力なんてなかった私は、昭人を好きだと思い込む事で、自分は幸せなのだと言い聞かせていた。
けど今は「違う」と自信を持って言える。
本当に素敵な彼氏を知った以上、まがいものには「ノー」を言わなければならない。
でなければ、過去の私が可哀想だ。
「昭人は物腰柔らかで優しくて温厚な人だけど、その余裕は『自分は成績優秀で顔もいいし、周りとは違う』という自信からきてる。〝胸が大きくて美人な彼女〟がいれば、友達に自慢できてもっと自分に自信が持てたんじゃない? だから彼女を大切にしていた……んじゃなくて、大切にする自分に酔ってた」
心のダムを決壊させた私は、側に尊さんがいる事に勇気をもらい、思っていた事をすべてを吐き出す。
今まで昭人の前で泣いた事なんてなかったし、ずっと抱えていたモヤモヤを〝なかった事〟にしていたけれど、今言わなきゃ!
グズグズに弱くなったところを嫌いな相手に見せたとしても、側に尊さんがいるなら大丈夫。
「いつも昭人はさり気なく上からだったし、彼女を大切にするかどうかより、周りに〝理想のカップル〟と思われるかを重視してた。もともとお洒落なものが好きだったから、お金を持つようになって身につける物や飲食店にこだわったのは分かる。でも私はブランドやワイン、グルメの話をされても分からなかったし、『知らない』って言った時に小馬鹿にされるのが嫌だった。高級な飲食店で店員さんに偉そうな態度をとられるのも、恥ずかしくて嫌だった」
私に思い切り否定され、昭人は目を見開いて顔を強張らせている。
「美術館に行った時、私は場の雰囲気も含めてじっくり展示品を楽しみたかったのに、昭人は知識をひけらかしてペラペラ喋っていた。事前に調べたのは偉いと思う。でもその場の空気を大切にするとか、もっと考える事はあるでしょ? 静かな中、昭人の声ばっかり響いていて、私、一緒にいて恥ずかしかったんだから」
尊さんが溜め息をつく音が聞こえる。
「……それに飲食店に行っても、昭人が大切にするのはご飯を食べる事より、映える写真を撮れるかどうかだった。私のご飯も含めてこだわりの構図で撮りたいもんだから、撮影が終わる頃にはいっつもご飯が冷めてた。それで『見た目はまぁまぁだけど、大して美味くないね』って言ってて、ほんっとうに嫌だった」
隣で、尊さんが「ひでーな」と呟いた。
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