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実家に挨拶 編

サプライズ

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 翌日、尊さんは花束を持って私の家にやってきた。

「何ですか!? これ!」

 花束はピンクを基調としているけれど、くすんだピンクを主体にしているので甘すぎず大人っぽい。

 加えてグリーンがかった白のスプレーバラや白とピンクが混じったシルバーデイジー、毛糸で作ったボンボンのようなピンクのピンポンマム、フワフワッとしたスモークグラスなどで花束が構成されていた。

 私はお花の種類に詳しくないけど、尊さんがお店の人に聞いたらしく、教えてくれた。

「すごーい! 可愛い! お洒落! どうしたんですか? 非誕生日?」

 思わず大好きな『不思議の国のアリス』ネタを披露してしまったが、尊さんはクスクス笑って首を横に振る。

「そう言いたかったけど、昨日飲み会も含め色々嫌な思いをしただろうから、明るい気持ちになってほしいと思って」

 ああもう! 速水クオリティ!

「好き!!」

 私は花束をテーブルの上に置き、尊さんにギュッと抱きついた。

「俺も好きだよ」

 彼は私を抱き締め返し、少し顔を離すと甘く微笑み、チュッチュッと優しいキスをくれた。

 もうそれだけで嬉しくて堪らなくなった私は、彼の胸元に顔を埋めてぐりぐりと額を押しつける。

「……しゅき……。しゅきぴすと」

「お、最上級きたな」

 語彙力がなくなってとろけた私を見て笑った尊さんは、「花瓶あるか?」と尋ねてくる。

 それを聞き、私はハッと顔を上げた。

「……な、ないです……。たまに一輪だけ買って、百均で買った一輪挿しに飾る事はあるんですが」

 こんな立派な花束を飾るに相応しい、お洒落な花瓶は持っていない。

「……と思って奥様、なんとここに花瓶が。イマナラナント」

 彼が少し高めの声で言って紙袋を差しだしてくるので、私はお腹を抱えて笑う。

「痒いところに手が届きすぎ! ありがとうございます!」

 紙袋の中にはラッピングされた箱があり、開けると透明な花瓶が入っていた。

「シンプルだから何にでも合わせやすいと思う」

 花瓶は口が少しすぼまって開いている、いわゆるラッパ型と呼ばれる形だ。

 確かにこれだと花束を生けるのに、中で茎が交差しても底のほうが広がっているから、綺麗に飾れるかもしれない。

「私、初心者なんですがうまくできるかな? ……篠宮家の尊さんとお付き合いするなら、お花とか習ってたほうがいいんでしょうか?」

「興味があれば習う、でいいと思うけど。それに、ブーケの場合は花屋さんがセンスよく纏めてくれてるから、このままスポッと入れてもいいと思う」

「なるほど」

 私はひとまず花瓶の中身を流しで軽く洗う。

「面倒かもしれないけど、一日一回水を替えてあげると長持ちするから」

「分かりました。ちゃんとお世話します」

「今日、これから用事があるから、俺がサッとやっちゃうな」

 そう言って、尊さんは洗い物用のボウルに水を張り、紙袋に入っていた花鋏で花の茎の下をパチンパチンと斜めに切っていった。

「これ、水切りっていって、必ず水の中で切ってやってくれ。空気に触れると水を吸う管に空気が入って、うまく水を吸えなくなる。斜めにやるのは面積を広くするため。繊維を横にぶつ切りするより、斜めのほうが切れやすいってのもある」

「へえ!」

 感心した私は、突然始まった速水フラワー教室に真剣に耳を傾ける。

「長持ちさせる栄養剤も持ってきてるけど、一番は毎日水を替える事。植物であっても生き物だから、放っておくと水中にバクテリアが増えて管が詰まり、吸水が悪くなる。だから可能なら毎日水を替えて一、二センチ水切りしてやるとベストだ」

「分かりました。お花、習ってたんですか?」

 尊さんは手早く水切りを終えると、花を花瓶に生けてバランスを整える。

「一応、お茶も含めて基本は習ったよ。こういうのは華道っていうよりアレンジメントだけど」

「あっ、なるほど」

 確かに篠宮家のお坊ちゃまなら、お茶やお花に精通していてもおかしくない。

 幾ら彼が怜香さんに冷遇されていたとしても、亘さんが教えておくべきマナーや嗜みなどは一通り教えたんだろう。

(という事は風磨さんもそういうのできて、きっとエミリさんも秘書としてマナーとかはきっちりしてそうだよなぁ……)

 尊さんの兄カップルを思いだし、私はうんうんと頷く。

「……そういえば、三ノ宮春日さん、その後なにか言ってきました?」

「えっ? なんで急に彼女? ……あぁ、習い事関連で連想ゲームしたか?」

 彼は一瞬驚いたあとにすぐ納得し、花瓶を飾るのに一番良さそうな場所を探しつつ言う。

「一応連絡先は交換したけど、特に連絡はない。以前彼女が言った通り、貸しを返してほしいならビジネスのほうだろうし、連絡があるとすれば会社にだと思う」

「……なら良かった」

 日陰に花瓶を置いた尊さんは、ホッと溜め息をついた私を見て微笑む。

「……妬いた?」

「……妬きますよ。尊さんの周りはいつも美女ばかりですもん」

 少し唇を尖らせて言うと、彼は私を抱き締めてチュッと額にキスをしてきた。

「正直、三ノ宮さんは怖くて付き合えねぇよ。確かに美人だけど、結婚したら絶対尻に敷かれるな」

(結婚した時の事なんて、ちょっと考えたんだ)

 それだけでもジリジリしてしまった私は、尊さんから視線を逸らす。

 すると彼はクスッと笑い、私の頭を撫でてきた。

「俺の頭の中は朱里で一杯なのに、お前はそうやって妬いてくれるんだよな。可愛くて食っちまいたいな。このモチモチほっぺとか」

 そう言って尊さんは、はむはむと私の頬を食んできた。
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