177 / 780
その後の動き 編
側にいてくれ
しおりを挟む
《従妹だよ》
「へっ?」
予想外の返事があり、私は声を上げる。
《ちえり叔母さんの話をしただろ。小牧ちゃんは彼女の長女。父親は呉服屋『しののめ』の社長で、兄は常務。母親はピアノ教室の講師……って環境で、『私は料理が好きだから!』って自分の道を貫いて、小料理屋を開いた人》
「へええ……」
感心していると、尊さんはちょっと微妙な顔になる。
《小牧ちゃんがそういう感じで自分の進路を決めちまったから、次女の弥生ちゃんがピアノ講師になった訳だけど……。好きでやってはいるみたいだけど、ちょっと姉を恨んでるところはあるかな》
「あー、なるほど。……でもそれでピアノ講師になったって、凄いですね。音大出たんですよね?」
《そう。聴かせてもらった事あるけど、相当うまいよ》
ピアノをやってる尊さんがうまいって言うんだから、相当なんだろう。いや、プロだし。
「いいなぁ、私もそのお店行きたい」
《ん、今度一緒に行こう。誘うつもりでいたけど、色んな事があって失念してた》
「密かに噂になってたから、〝いい人〟なのかと思ってました」
《いやいや、んなまさか。一回誰かに見られて聞かれた事があったけど、従妹だって説明して詮索されたり、小牧ちゃんに迷惑をかけたくねぇから黙ってただけだ》
「そっかー」
安心した私は胡座をかき、クッションをモフモフと両手で潰す。
「異性的な関係じゃないって確認したから言えるのもありますけど、尊さんにそうやって親しく話せるいとこさんがいるの、嬉しいです」
《ありがと。小牧ちゃん、妹と少しギスギスしてるって言ったけど、根深い感じじゃないんだ。本人はピアノも仕事も好きでやってる。ただ学生時代にコンクールに出た時とか、小牧ちゃんがカラッとした性格だからか、励まし方が……合わなかったんだろうなぁ。『私がこれだけプレッシャーを抱えているのは、誰のせいだと……!』……って》
「あっ、なるほど! そっち」
なんとなく想像できて、私はポンと手を打つ。
姉妹でも正反対の性格に生まれる事は珍しくなく、生き方や性格の違いに、イラッとしてしまう事はあるとよく聞く。
《弥生ちゃんも姉の店にはよく行くし、兄貴の大地も通っていて、兄妹仲はいいよ。大地は三十歳で新婚ホヤホヤ》
「へぇ、いいですね! そういうの。素敵」
《結婚式に呼んでもらったけど、弥生ちゃんがピアノを披露して、なかなか感動的だった》
とても優しい顔をしている尊さんを見て、私は嬉しくなってしまう。
彼が親戚の結婚式に行ったとか、普通の幸せをちゃんと味わっていた事を知れて本当に良かった。
《それで、俺のほうも話ぶった切るけど》
「はい」
《朱里のマンション、更新時期はいつだ? 大体は一か月前に連絡のはずだけど、たまに二、三か月前までってところもあるし、そこんトコどうなってる?》
「あ……、その話……」
以前から尊さんに『一緒に住もう』と言われていたけれど、いつ本当に動き出したらいいか分からず、私からは話題にできずにいた。
彼の提案は勿論嬉しいし、今すぐ一緒に生活したい。
でも『本当にいいのかな?』と遠慮する気持ちがあって、躊躇っていたのも事実だ。
《朱里? ……どうだ? 本当に俺の所に来ないか?》
スマホの向こうで、尊さんが優しく笑って尋ねてくる。
――嬉しい。
実家を出てからずっと、『これからどうなるのかな?』っていう不安を抱きながら過ごしていた。
でもこんな私に向かって、両腕を広げて『飛び込んでおいで』って言ってくれる人が現れるとは思っていなかった。
「……いいんですか?」
ほんの少し震える声で尋ねると、尊さんは柔らかく笑った。
《今さら何を言ってんだよ。手の届くところにいてくれたほうが、俺も安心できるから、側にいてくれ》
(『側にいてくれ』ってええええ!! 一生側にいる!!)
私は一人で悶絶したあと、食い気味に言った。
「じゃあ、すぐ契約書確認して、明日不動産会社に連絡します!」
《おう。確認してからな》
はぁー……。あとちょっとすれば尊さんと結婚できるのか……。
……あれ? 姓は篠宮になるの? ……だよね。
頭の中で色々妄想したあと、グルッと一回りして通るべき問題に行き着いた。
「へっ?」
予想外の返事があり、私は声を上げる。
《ちえり叔母さんの話をしただろ。小牧ちゃんは彼女の長女。父親は呉服屋『しののめ』の社長で、兄は常務。母親はピアノ教室の講師……って環境で、『私は料理が好きだから!』って自分の道を貫いて、小料理屋を開いた人》
「へええ……」
感心していると、尊さんはちょっと微妙な顔になる。
《小牧ちゃんがそういう感じで自分の進路を決めちまったから、次女の弥生ちゃんがピアノ講師になった訳だけど……。好きでやってはいるみたいだけど、ちょっと姉を恨んでるところはあるかな》
「あー、なるほど。……でもそれでピアノ講師になったって、凄いですね。音大出たんですよね?」
《そう。聴かせてもらった事あるけど、相当うまいよ》
ピアノをやってる尊さんがうまいって言うんだから、相当なんだろう。いや、プロだし。
「いいなぁ、私もそのお店行きたい」
《ん、今度一緒に行こう。誘うつもりでいたけど、色んな事があって失念してた》
「密かに噂になってたから、〝いい人〟なのかと思ってました」
《いやいや、んなまさか。一回誰かに見られて聞かれた事があったけど、従妹だって説明して詮索されたり、小牧ちゃんに迷惑をかけたくねぇから黙ってただけだ》
「そっかー」
安心した私は胡座をかき、クッションをモフモフと両手で潰す。
「異性的な関係じゃないって確認したから言えるのもありますけど、尊さんにそうやって親しく話せるいとこさんがいるの、嬉しいです」
《ありがと。小牧ちゃん、妹と少しギスギスしてるって言ったけど、根深い感じじゃないんだ。本人はピアノも仕事も好きでやってる。ただ学生時代にコンクールに出た時とか、小牧ちゃんがカラッとした性格だからか、励まし方が……合わなかったんだろうなぁ。『私がこれだけプレッシャーを抱えているのは、誰のせいだと……!』……って》
「あっ、なるほど! そっち」
なんとなく想像できて、私はポンと手を打つ。
姉妹でも正反対の性格に生まれる事は珍しくなく、生き方や性格の違いに、イラッとしてしまう事はあるとよく聞く。
《弥生ちゃんも姉の店にはよく行くし、兄貴の大地も通っていて、兄妹仲はいいよ。大地は三十歳で新婚ホヤホヤ》
「へぇ、いいですね! そういうの。素敵」
《結婚式に呼んでもらったけど、弥生ちゃんがピアノを披露して、なかなか感動的だった》
とても優しい顔をしている尊さんを見て、私は嬉しくなってしまう。
彼が親戚の結婚式に行ったとか、普通の幸せをちゃんと味わっていた事を知れて本当に良かった。
《それで、俺のほうも話ぶった切るけど》
「はい」
《朱里のマンション、更新時期はいつだ? 大体は一か月前に連絡のはずだけど、たまに二、三か月前までってところもあるし、そこんトコどうなってる?》
「あ……、その話……」
以前から尊さんに『一緒に住もう』と言われていたけれど、いつ本当に動き出したらいいか分からず、私からは話題にできずにいた。
彼の提案は勿論嬉しいし、今すぐ一緒に生活したい。
でも『本当にいいのかな?』と遠慮する気持ちがあって、躊躇っていたのも事実だ。
《朱里? ……どうだ? 本当に俺の所に来ないか?》
スマホの向こうで、尊さんが優しく笑って尋ねてくる。
――嬉しい。
実家を出てからずっと、『これからどうなるのかな?』っていう不安を抱きながら過ごしていた。
でもこんな私に向かって、両腕を広げて『飛び込んでおいで』って言ってくれる人が現れるとは思っていなかった。
「……いいんですか?」
ほんの少し震える声で尋ねると、尊さんは柔らかく笑った。
《今さら何を言ってんだよ。手の届くところにいてくれたほうが、俺も安心できるから、側にいてくれ》
(『側にいてくれ』ってええええ!! 一生側にいる!!)
私は一人で悶絶したあと、食い気味に言った。
「じゃあ、すぐ契約書確認して、明日不動産会社に連絡します!」
《おう。確認してからな》
はぁー……。あとちょっとすれば尊さんと結婚できるのか……。
……あれ? 姓は篠宮になるの? ……だよね。
頭の中で色々妄想したあと、グルッと一回りして通るべき問題に行き着いた。
105
あなたにおすすめの小説
大丈夫のその先は…
水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。
新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。
バレないように、バレないように。
「大丈夫だよ」
すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
【完結】広間でドレスを脱ぎ捨てた公爵令嬢は優しい香りに包まれる【短編】
青波鳩子
恋愛
シャーリー・フォークナー公爵令嬢は、この国の第一王子であり婚約者であるゼブロン・メルレアンに呼び出されていた。
婚約破棄は皆の総意だと言われたシャーリーは、ゼブロンの友人たちの総意では受け入れられないと、王宮で働く者たちの意見を集めて欲しいと言う。
そんなことを言いだすシャーリーを小馬鹿にするゼブロンと取り巻きの生徒会役員たち。
それで納得してくれるのならと卒業パーティ会場から王宮へ向かう。
ゼブロンは自分が住まう王宮で集めた意見が自分と食い違っていることに茫然とする。
*別サイトにアップ済みで、加筆改稿しています。
*約2万字の短編です。
*完結しています。
*11月8日22時に1、2、3話、11月9日10時に4、5、最終話を投稿します。
拗れた恋の行方
音爽(ネソウ)
恋愛
どうしてあの人はワザと絡んで意地悪をするの?
理解できない子爵令嬢のナリレットは幼少期から悩んでいた。
大切にしていた亡き祖母の髪飾りを隠され、ボロボロにされて……。
彼女は次第に恨むようになっていく。
隣に住む男爵家の次男グランはナリレットに焦がれていた。
しかし、素直になれないまま今日もナリレットに意地悪をするのだった。
結婚して5年、冷たい夫に離縁を申し立てたらみんなに止められています。
真田どんぐり
恋愛
ー5年前、ストレイ伯爵家の美しい令嬢、アルヴィラ・ストレイはアレンベル侯爵家の侯爵、ダリウス・アレンベルと結婚してアルヴィラ・アレンベルへとなった。
親同士に決められた政略結婚だったが、アルヴィラは旦那様とちゃんと愛し合ってやっていこうと決意していたのに……。
そんな決意を打ち砕くかのように旦那様の態度はずっと冷たかった。
(しかも私にだけ!!)
社交界に行っても、使用人の前でもどんな時でも冷たい態度を取られた私は周りの噂の恰好の的。
最初こそ我慢していたが、ある日、偶然旦那様とその幼馴染の不倫疑惑を耳にする。
(((こんな仕打ち、あんまりよーー!!)))
旦那様の態度にとうとう耐えられなくなった私は、ついに離縁を決意したーーーー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる