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恵 編

変人の友人

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「ねぇ! 尊さんが今度紹介してくれるお友達って、独身ですか?」

「ん? あぁ」

 私の言いたい事を察した恵は、いやーな顔をする。

「ちょっとー、やめてよー」

「でも、ランドとか行くのに、恵と一緒に乗る人がいても良くない? 勿論、私も恵とペアで乗るけど!」

 この三人でお出かけしたら勿論楽しいと思うけど、三人ってとてもデリケートな人数だ。

 ハブにする気持ちはなくても、二人が会話していたら、残る一人は聞き役になるか「つまんね」って思う確率が高くなる。

 恵に嫌な思いをさせたくないあまり、尊さんを放置して恵とばっかり話すのは申し訳ない。

 尊さんは私たちを優先してくれるし、そんな事で不機嫌にならない大人だ。

 でもそうなれば、尊さんと一緒にいる意味がなくなってしまう。

 同行してただお金を出す役なんて、絶対に嫌だ。

 だから恵は不本意かもしれないけど、公平に会話をするためにもう一人を呼んでダブルデートにするのが一番いい案では……と思ったのだ。

 恵は私の提案を聞き、唇を尖らせて言う。

「朱里がそこまで言うならいいけどさ。でもその人に変な期待はさせないでね? 自惚れてるみたいで恥ずかしいけど、異性として見られても応えられないから」

「そんな短絡的な奴じゃないよ」

 尊さんは恵に言い、「写真あるかな……」と呟いてスマホを出した。

「えっ、写真あるんです?」

「あるかどうかって感じだけど、旅行に行った時なら……」

「えー、尊さんと旅行いいな」

 素直に嫉妬すると、彼はスマホを見ながらポンポンと私の頭を撫でた。

「なんていう人です?」

三日月涼みかづきりょう

 尊さんはスマホをスクロールしつつ答える。

「えーっ! カッコイイ名前! 二次元みたい」

「源氏名みたい」

 相変わらず恵の反応が冷たい……。

「なんのお仕事してるんですか?」

「ん? ボンボンだよ。ちゃんと働いていて実力のあるボンボンだけど。不動産会社の跡取りで、今は専務。俺と一緒に投資のノウハウを学んだから、投資家でもある」

「すご……。そんな人、女が放っておかないでしょ。ダブルデートなんてできないじゃないですか」

 恵が言うと、尊さんはサラッととんでもない事を言った。

「いや、あいつ変人だし」

「ノーモア変人!」

 尊さんが言った瞬間、恵が食い気味に言った。

 ……うん、恵にとっては尊さんも変人なんだろうけど、ストレートに言ったね……。

「どういう変人です?」

 尋ねると、尊さんはスクロールする手を止めて、斜め上の空間を見て考えた。

「うーん……、分かりやすい変人じゃねぇけどな。こうやってカフェとかで会話する分には、十分普通に受け答えできる。芸術家タイプなのかな……。いや、こう言ったら芸術家が変人だっていう事になりかねないから、語弊があるけど」

 うん……、なんか尊さんがスパッと言えないぐらいには、込み入った人みたいだ。

「具体的には?」

「俺は『レンコン』って言われたなぁ……」

「レンコン!?」

 訳が分からなくて、私は声を上げる。

「ちょいちょい、『お前ってレンコンだよな』って会話の途中で挟んだり、久しぶりに会ったら『やっぱりレンコンだわ』って言われた」

「その心は」

 私は謎かけのようにオチを求めてしまう。

「泥の中で耐え、いずれ美しい花を咲かせるでしょう」

「おおー!」

 彼の答えを聞き、私は思わずパチパチと拍手する。

「こういう感じで、関わった人を端的に……端的すぎる表現で表す時があるし、虫とかゲテモノもグイグイチャレンジするタイプだな。……一緒にフィリピンに行った時、あいつバロット食ってたな……。俺は無理だった……」

 そう言って、彼はガクリと項垂れる。

「バロットって?」

 目を瞬かせると、恵が渋面で言う。

「ほら、あの卵が孵化する寸前のアヒルの雛と卵が混じったやつ」

「おっほ」

 理解した瞬間、私は変な声を出していた。
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