168 / 417
恵 編
ベースを強くすればいいんじゃないか
しおりを挟む
「やだぁ~……。まじめな話のあとに、さりげなく惚気入れてくる男、やだわぁ……」
恵がげんなりした顔をし、生ハムをモシャモシャ食べる。
「速水尊はこういう男なんだよー」
私は「んふふ」と笑ってサラダの残りを取り皿にとる。
「でも説得力あるなぁ。私は尊さんや恵に強さっていうか、ちょっとやそっとの事じゃ揺らがない芯を感じて憧れてた。きっと考え方が根本的に違うんだろうね」
私は運ばれてきたサングリアの果実を、マドラーでクルクル回しながら言う。
そんな私の言葉を聞き、尊さんは小さく笑った。
「気にしちまう気持ちは分かる。寂しい時や〝誰か〟の言葉で勇気づけてほしい時って、スマホ開いてちょっと検索したら望む言葉が手に入る。凄く便利だし、孤独を癒すのに最適なツールだと思う。俺もかつては凄くその手の言葉を検索して、自分を励ましていた」
尊さんの過去を思いだし、私はコクンと頷く。
「それを間違えているとは言わねぇけど、最近は少し考え方を変えた。他人の言葉を見て『そうだよな』って自分に言い聞かせるのもアリだけど、気を抜くと何かがきっかけになってすぐ弱る。『じゃあ、そもそものベースを強くすればいいんじゃないか?』って思ったんだ」
「ベース……とは、人間性的な?」
尋ねると、尊さんは「そう」と頷く。
「ネットに頼らなくても、『俺ってこういう奴だし』って堂々と顔を上げて、二割の奴になんと言われても動じねぇ男になりたいって思った。そのためには、一にも二にもリアルで経験を積んで自分に自信を持つ事だ。シンプルな考え方だけど、筋トレして体を鍛えたら、性格悪ぃけど『俺はこれだけ鍛えてスーツを格好良く着こなしてるけど、お前は?』って思える。知識を得て金を増やしておいたら、心にもある程度余裕はできるし」
「わぁ……、できる男のサクセス理論つえぇ」
恵がぼやく。
「ぶっちゃけ、ネットの中でどれだけ〝強者〟になって他人に噛み付いても、情報開示されたら金のねぇおっさんでした、だったらあまりにも……だろ? ネットでどれだけ〝逆らったら怖い人〟認定されようが、リアルにはそんなに影響しねぇと思ってる。どんなにフォロワーがいようが、顔出しでもしてなきゃ道行く人はそいつの事をまったく気にしねぇし。ま、ある程度SNSの投稿を見てたら、その人の素は見えるかもしんねぇけどな。でもネットで出してる部分がそいつのすべてでもない」
「そうですね。普通に話してたフォロワーさんが、実は凄い人だったと知って、ビビった事は何回かありました。でもそういう人に限って、自我を前面に出して私生活や仕事を自慢したりしないんですよね」
私がフォロワーさんの話をすると、尊さんは「そう」と頷いた。
「本当にリアルが満たされてる人って、SNSをしなくても十分幸せだと思うぜ。いいねをもらったり、金を使った事を自慢しなくても、自分に誇りを持って堂々としていられるんだ。俺の友達にまったくSNSやらない奴がいて、連絡手段は電話かメールの奴がいるな。『煩わしくなくていい』って言ってる」
「確かに、そういう生き方はアリですよね。真の陽キャっぽい」
同時に、私はコンビニで買った物も《期間限定GETしました!》って投稿しちゃってるので、ちょっと恥ずかしくなった。
「まぁ、最初にいったように全部は否定しない。健康的にやれてるならいいんだ。俺がこういう考え方になったのも、昔、自分がかなりネガティブな使い方をしていたからであって」
尊さんは私の気持ちを見透かしたように言い、ポンポンと頭を撫でてくる。
「でも最近はネットの動きに疲れを感じるかな。鼻息荒く誰かを叩いて優越感に浸る奴がいるし、アルゴリズムで操作されて、見るものが偏って自分の世界が狭くなる。不愉快なものを見なくて済むのはありがたいし、好きなものを見られるのはいい事だ。でも無意識に狭めた世界での常識を見て、『皆が言ってる』と思い込むのは良くねぇよ」
「確かにそうですね。私、ラーメンばっかりいいねしてるから、タイムラインがラーメンだ……」
そう言うと、尊さんと恵は「ぶふぉっ」と噴きだしてしばらく肩を震わせていた。
しばし笑ってから、尊さんはドリンクメニューを手にして言う。
「『見たくねぇな』って思った時に見ない選択をできるならいいけど、人って疲れてる時や病んでる時に、余計にダラダラ見ちまう癖がある。生産的な事をするより、目の前にあるもんをただ眺めるほうが楽だからだ。それに情報をドバーッと浴びないと、世間に置いてかれるとか、半分強迫観念っぽくなってるんだよな」
「あー、それはあるかも。学生時代の友達とか同僚とか、ご飯食べながらスマホ見てて、『今、あんたとご飯食べてる私がここにいるんだけど……』ってなります」
恵が言ってるのは私以外の友達なんだろうけど、ちょっと心当たりのあった私は、しょんぼりして謝った。
「ごめん。私、一時、昭人の情報ばっかり追ってたな……。今思ったらめちゃキモい。恵は『やめなって』って止めてくれて、なんとかネトストするのやめられたけど、あれはヤバかった……」
それを聞き、尊さんが何回か頷いて言った。
「それはさ。簡単に得られる褒美だからだよ」
「褒美?」
精神的ダメージを負うのに褒美と言われ、私は首を傾げる。
恵がげんなりした顔をし、生ハムをモシャモシャ食べる。
「速水尊はこういう男なんだよー」
私は「んふふ」と笑ってサラダの残りを取り皿にとる。
「でも説得力あるなぁ。私は尊さんや恵に強さっていうか、ちょっとやそっとの事じゃ揺らがない芯を感じて憧れてた。きっと考え方が根本的に違うんだろうね」
私は運ばれてきたサングリアの果実を、マドラーでクルクル回しながら言う。
そんな私の言葉を聞き、尊さんは小さく笑った。
「気にしちまう気持ちは分かる。寂しい時や〝誰か〟の言葉で勇気づけてほしい時って、スマホ開いてちょっと検索したら望む言葉が手に入る。凄く便利だし、孤独を癒すのに最適なツールだと思う。俺もかつては凄くその手の言葉を検索して、自分を励ましていた」
尊さんの過去を思いだし、私はコクンと頷く。
「それを間違えているとは言わねぇけど、最近は少し考え方を変えた。他人の言葉を見て『そうだよな』って自分に言い聞かせるのもアリだけど、気を抜くと何かがきっかけになってすぐ弱る。『じゃあ、そもそものベースを強くすればいいんじゃないか?』って思ったんだ」
「ベース……とは、人間性的な?」
尋ねると、尊さんは「そう」と頷く。
「ネットに頼らなくても、『俺ってこういう奴だし』って堂々と顔を上げて、二割の奴になんと言われても動じねぇ男になりたいって思った。そのためには、一にも二にもリアルで経験を積んで自分に自信を持つ事だ。シンプルな考え方だけど、筋トレして体を鍛えたら、性格悪ぃけど『俺はこれだけ鍛えてスーツを格好良く着こなしてるけど、お前は?』って思える。知識を得て金を増やしておいたら、心にもある程度余裕はできるし」
「わぁ……、できる男のサクセス理論つえぇ」
恵がぼやく。
「ぶっちゃけ、ネットの中でどれだけ〝強者〟になって他人に噛み付いても、情報開示されたら金のねぇおっさんでした、だったらあまりにも……だろ? ネットでどれだけ〝逆らったら怖い人〟認定されようが、リアルにはそんなに影響しねぇと思ってる。どんなにフォロワーがいようが、顔出しでもしてなきゃ道行く人はそいつの事をまったく気にしねぇし。ま、ある程度SNSの投稿を見てたら、その人の素は見えるかもしんねぇけどな。でもネットで出してる部分がそいつのすべてでもない」
「そうですね。普通に話してたフォロワーさんが、実は凄い人だったと知って、ビビった事は何回かありました。でもそういう人に限って、自我を前面に出して私生活や仕事を自慢したりしないんですよね」
私がフォロワーさんの話をすると、尊さんは「そう」と頷いた。
「本当にリアルが満たされてる人って、SNSをしなくても十分幸せだと思うぜ。いいねをもらったり、金を使った事を自慢しなくても、自分に誇りを持って堂々としていられるんだ。俺の友達にまったくSNSやらない奴がいて、連絡手段は電話かメールの奴がいるな。『煩わしくなくていい』って言ってる」
「確かに、そういう生き方はアリですよね。真の陽キャっぽい」
同時に、私はコンビニで買った物も《期間限定GETしました!》って投稿しちゃってるので、ちょっと恥ずかしくなった。
「まぁ、最初にいったように全部は否定しない。健康的にやれてるならいいんだ。俺がこういう考え方になったのも、昔、自分がかなりネガティブな使い方をしていたからであって」
尊さんは私の気持ちを見透かしたように言い、ポンポンと頭を撫でてくる。
「でも最近はネットの動きに疲れを感じるかな。鼻息荒く誰かを叩いて優越感に浸る奴がいるし、アルゴリズムで操作されて、見るものが偏って自分の世界が狭くなる。不愉快なものを見なくて済むのはありがたいし、好きなものを見られるのはいい事だ。でも無意識に狭めた世界での常識を見て、『皆が言ってる』と思い込むのは良くねぇよ」
「確かにそうですね。私、ラーメンばっかりいいねしてるから、タイムラインがラーメンだ……」
そう言うと、尊さんと恵は「ぶふぉっ」と噴きだしてしばらく肩を震わせていた。
しばし笑ってから、尊さんはドリンクメニューを手にして言う。
「『見たくねぇな』って思った時に見ない選択をできるならいいけど、人って疲れてる時や病んでる時に、余計にダラダラ見ちまう癖がある。生産的な事をするより、目の前にあるもんをただ眺めるほうが楽だからだ。それに情報をドバーッと浴びないと、世間に置いてかれるとか、半分強迫観念っぽくなってるんだよな」
「あー、それはあるかも。学生時代の友達とか同僚とか、ご飯食べながらスマホ見てて、『今、あんたとご飯食べてる私がここにいるんだけど……』ってなります」
恵が言ってるのは私以外の友達なんだろうけど、ちょっと心当たりのあった私は、しょんぼりして謝った。
「ごめん。私、一時、昭人の情報ばっかり追ってたな……。今思ったらめちゃキモい。恵は『やめなって』って止めてくれて、なんとかネトストするのやめられたけど、あれはヤバかった……」
それを聞き、尊さんが何回か頷いて言った。
「それはさ。簡単に得られる褒美だからだよ」
「褒美?」
精神的ダメージを負うのに褒美と言われ、私は首を傾げる。
40
お気に入りに追加
817
あなたにおすすめの小説
【R18】もう一度セックスに溺れて
ちゅー
恋愛
--------------------------------------
「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」
過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。
--------------------------------------
結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。
男友達を家に入れたら催眠術とおもちゃで責められ調教されちゃう話
mian
恋愛
気づいたら両手両足を固定されている。
クリトリスにはローター、膣には20センチ弱はある薄ピンクの鉤型が入っている。
友達だと思ってたのに、催眠術をかけられ体が敏感になって容赦なく何度もイかされる。気づけば彼なしではイけない体に作り変えられる。SM調教物語。
【R-18】悪役令嬢ですが、罠に嵌まって張型つき木馬に跨がる事になりました!
臣桜
恋愛
悪役令嬢エトラは、王女と聖女とお茶会をしたあと、真っ白な空間にいた。
そこには張型のついた木馬があり『ご自由に跨がってください。絶頂すれば元の世界に戻れます』の文字が……。
※ムーンライトノベルズ様にも重複投稿しています
※表紙はニジジャーニーで生成しました
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
【R18】鬼上司は今日も私に甘くない
白波瀬 綾音
恋愛
見た目も中身も怖くて、仕事にストイックなハイスペ上司、高濱暁人(35)の右腕として働く私、鈴木梨沙(28)。接待で終電を逃した日から秘密の関係が始まる───。
逆ハーレムのチームで刺激的な日々を過ごすオフィスラブストーリー
法人営業部メンバー
鈴木梨沙:28歳
高濱暁人:35歳、法人営業部部長
相良くん:25歳、唯一の年下くん
久野さん:29歳、一個上の優しい先輩
藍沢さん:31歳、チーフ
武田さん:36歳、課長
加藤さん:30歳、法人営業部事務
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる