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恵 編
私はあなたを否定しないよ
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「……結婚はさ、色んな形があると思う」
言いながら、私は尊さんに『じゃあ、まじめに結婚するか?』と言われた日の事を思いだした。
あの時の尊さんは、ずっと見守ってきた私の気をどうやって引こうか、一生懸命考えながら話していたと思う。
でも彼が語った言葉は、あらかじめ用意されていたものではない。
疑問に思った事を彼は自分の考えで応え、最終的に私を納得させてくれた。
私は尊さんを尊敬しているし、彼の達観した物の見方に憧れている。
そう感じるようになった原因がつらい過去にあるのは事実だけど、茨の道を乗り越えて今の強くてタフな彼がいる。
脆いところもあるけれど、弱さも交えたのが尊さんの強さだ。
――私も彼のようになりたい。
心の中で祈り、彼のような強くしなやかな在り方で、不安がっている親友を宥められたらと願った。
「一般的な事を言うなら、『結婚は好きな人としたほうがいい』ってなるかもしれない。私も、親友には好きな人と幸せになってほしい。……でも、世の中色んな形の結婚があると思う。事実婚にすると決めた人、お互い好きな人は別にいるのに形だけ結婚してる人、早く離婚したいと思っているけど、経済的に自立できないとか、家事がまったくできないとかで一緒にいる夫婦とか、何らかの利害が一致して、性交渉しないし恋愛感情も持たないけど結婚した人とか、……本当に、夫婦の数だけ事情があると思う」
「……そうだね」
私の言葉を聞き、恵は小さく頷く。
「だから私は恵の結婚観を否定しない」
そう言うと、彼女は静かに目を見開いて呼吸を止め、ゆっくりと、安堵して息を吐いていった。
恵の様子を見て、私はしっかり頷く。
――私はあなたを否定しないよ。
心の中でもう一度言葉を重ね、私は微笑んだ。
「でも、仮にも法的な夫になる人だから、間に合わせで相手を見つけてほしくない。一緒にいて安らげて、『ただいま』って家に帰ってその人がいて、安心できる人と結婚してほしい。私だって親友に幸せでいてほしいんだよ」
彼女の好きな人は自分だと分かっているのに、なんて残酷な事を言っているんだろう。
恵の望む未来を与えられないと分かっていながら、私は彼女に〝二番目〟の道を示すしかできない。
――〝一番〟をあげられなくてごめんね。
――でも恋人・夫と親友は比べられない。
――男性の一番は尊さんだけど、女性の一番は恵だから。
恵への想いを言葉にすればするほど、陳腐なものになってしまいそうで怖い。
だからあとは、ありったけの想いを込めて彼女を見つめ、手を握った。
恵はしばらく黙って私を見ていたけれど、泣き笑いすると「っはぁ……!」と溜め息をついた。
「朱里には敵わないなぁ~。ちょっとでも嫌な事を言うなら、嫌いになって諦められるのに、どこまでも私の好きな朱里なんだもん。……朱里はずっと、私の心を救い続けてくれる」
彼女は想いを偽らず口にしているけれど、先ほどよりずっと吹っ切れた様子だった。
それから私の手をそっと放すと、ニカッと笑った。
「中学生の時からこの話をしないで、ずっと一人で抱えていたから重くなっちゃったのかも。……はー……。でも面と向かって色々話せてスッキリしたわ。やっぱ朱里の事、好き」
開き直ったように明るく言うので、つられて私も笑ってしまう。
「私も好きだよ!」
『好き』の意味は違うと二人とも分かっている。
でも私たちの関係は、一つ掛け違えたままでいい。
それが〝正解〟の場合もある。
「ちょっと、スッキリついでに肉食おうか! 牛いこうよ牛! あっ、ジビエも良くない? 蝦夷鹿だって」
「美味しそう! お肉に貴賤なし! なんでも美味しくいただく!」
両手でドンドンとテーブルを叩く真似をすると、恵が爆笑した。
「肉の申し子だよ~!」
笑い合った時、テーブルの上に置いてあったスマホが通知を知らせる。
「あっ、ちょいごめん」
恵に断って手帳型ケースを開くと、尊さんから連絡が入ったところだった。
「誰?」
恵に何気なく尋ねられ、私は曖昧に微笑む。
「尊さん」
「ふーん……。……呼べば?」
「えっ?」
あっけらかんと言われ、私はうわずった声を上げる。
言いながら、私は尊さんに『じゃあ、まじめに結婚するか?』と言われた日の事を思いだした。
あの時の尊さんは、ずっと見守ってきた私の気をどうやって引こうか、一生懸命考えながら話していたと思う。
でも彼が語った言葉は、あらかじめ用意されていたものではない。
疑問に思った事を彼は自分の考えで応え、最終的に私を納得させてくれた。
私は尊さんを尊敬しているし、彼の達観した物の見方に憧れている。
そう感じるようになった原因がつらい過去にあるのは事実だけど、茨の道を乗り越えて今の強くてタフな彼がいる。
脆いところもあるけれど、弱さも交えたのが尊さんの強さだ。
――私も彼のようになりたい。
心の中で祈り、彼のような強くしなやかな在り方で、不安がっている親友を宥められたらと願った。
「一般的な事を言うなら、『結婚は好きな人としたほうがいい』ってなるかもしれない。私も、親友には好きな人と幸せになってほしい。……でも、世の中色んな形の結婚があると思う。事実婚にすると決めた人、お互い好きな人は別にいるのに形だけ結婚してる人、早く離婚したいと思っているけど、経済的に自立できないとか、家事がまったくできないとかで一緒にいる夫婦とか、何らかの利害が一致して、性交渉しないし恋愛感情も持たないけど結婚した人とか、……本当に、夫婦の数だけ事情があると思う」
「……そうだね」
私の言葉を聞き、恵は小さく頷く。
「だから私は恵の結婚観を否定しない」
そう言うと、彼女は静かに目を見開いて呼吸を止め、ゆっくりと、安堵して息を吐いていった。
恵の様子を見て、私はしっかり頷く。
――私はあなたを否定しないよ。
心の中でもう一度言葉を重ね、私は微笑んだ。
「でも、仮にも法的な夫になる人だから、間に合わせで相手を見つけてほしくない。一緒にいて安らげて、『ただいま』って家に帰ってその人がいて、安心できる人と結婚してほしい。私だって親友に幸せでいてほしいんだよ」
彼女の好きな人は自分だと分かっているのに、なんて残酷な事を言っているんだろう。
恵の望む未来を与えられないと分かっていながら、私は彼女に〝二番目〟の道を示すしかできない。
――〝一番〟をあげられなくてごめんね。
――でも恋人・夫と親友は比べられない。
――男性の一番は尊さんだけど、女性の一番は恵だから。
恵への想いを言葉にすればするほど、陳腐なものになってしまいそうで怖い。
だからあとは、ありったけの想いを込めて彼女を見つめ、手を握った。
恵はしばらく黙って私を見ていたけれど、泣き笑いすると「っはぁ……!」と溜め息をついた。
「朱里には敵わないなぁ~。ちょっとでも嫌な事を言うなら、嫌いになって諦められるのに、どこまでも私の好きな朱里なんだもん。……朱里はずっと、私の心を救い続けてくれる」
彼女は想いを偽らず口にしているけれど、先ほどよりずっと吹っ切れた様子だった。
それから私の手をそっと放すと、ニカッと笑った。
「中学生の時からこの話をしないで、ずっと一人で抱えていたから重くなっちゃったのかも。……はー……。でも面と向かって色々話せてスッキリしたわ。やっぱ朱里の事、好き」
開き直ったように明るく言うので、つられて私も笑ってしまう。
「私も好きだよ!」
『好き』の意味は違うと二人とも分かっている。
でも私たちの関係は、一つ掛け違えたままでいい。
それが〝正解〟の場合もある。
「ちょっと、スッキリついでに肉食おうか! 牛いこうよ牛! あっ、ジビエも良くない? 蝦夷鹿だって」
「美味しそう! お肉に貴賤なし! なんでも美味しくいただく!」
両手でドンドンとテーブルを叩く真似をすると、恵が爆笑した。
「肉の申し子だよ~!」
笑い合った時、テーブルの上に置いてあったスマホが通知を知らせる。
「あっ、ちょいごめん」
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「誰?」
恵に何気なく尋ねられ、私は曖昧に微笑む。
「尊さん」
「ふーん……。……呼べば?」
「えっ?」
あっけらかんと言われ、私はうわずった声を上げる。
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