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亮平 編

あなたに分かるんですか?

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 この人、平和的にやっているようで、めっちゃ怒ってない?

 さっき『家族仲を壊すつもりはない』って言ったし、本当にそのつもりはないんだろう。

 でも『ギリギリのところを攻めないとは言ってない』と尊さんの態度が語っている。

 亮平も尊さんの攻めに感じるものがあるようで、言葉を慎重に選んでいる。

「……兄妹で大切な話をしていたので。運転中だったのもあり、つい」

「そうですか。ちなみに何を話していたのか、お聞きしても?」

 目当てのお店についたけど、順番待ちがあるので、私たちは待ちながら会話する。

「……朱里からある程度聞いているんでしょう? 僕たちは血が繋がっていないので、普通の家族より関係が複雑なんです」

「ええ、聞いていますよ。お兄さんの醸し出す距離感が少し苦手という事も」

 尊さんの言葉を聞いて、私は敵陣に入った将棋の駒がひっくり返った様子を思い出した。

 尊さんはゆっくりと着実に、亮平を追い詰めている。

 亮平はそれを聞いて諦めを感じたのか、溜め息をついたあと、ぶっちゃけだした。

「あなた、分かって言ってますよね? 割と『性格が悪い』って言われませんか?」

「ははっ、嫌ですねぇ……。そう見えますか?」

「見えますよ。若くてイケメンで部長なんて、純粋無垢とはいかないでしょう」

 ……おや、いつかの尊さんと同じ事を言ってる。分かる人には分かるのかな。

 亮平は中華街の景色を何とはなしに見ながら言った。

「嫌な男だと思うなら好きに罵倒してくださいよ。二人にとって俺は邪魔者なんでしょうから」

 亮平はとうとう自分の事を〝僕〟というのもやめ、本心を露わにする。

 それを聞いた尊さんは、少し考えてから言った。

「最初に朱里からあなたの事を聞いた時、『朱里は魅力的だから気持ちは分かる』と思いました。……でもあなたは迫り方を間違えました。女性に『気持ち悪い』と思わせるやり方じゃあ、継兄という立場もマイナスにしかなりません」

 尊さんも〝朱里さん〟というのをやめ、本音で話している。

 亮平は溜め息をつき、私をチラッと見る。

「……俺は最初から朱里に好かれていませんでした。『可愛い、仲良くなりたい』と思っても、彼女は心を開いてくれなかった」

 そう言われ、私は思わず口を挟んだ。

「だから、亮平が美奈歩の嫉妬心を考えていなかったからじゃない」

 私の言葉を聞いた尊さんは、上村家の大体の状況を把握したらしい。

「連れ子同士って複雑ですよね。仲良くなれる家庭もあれば、ギクシャクしたままのところもある。歩み寄ればいいんでしょうけど、分かり合えない時もある」

「あなたに分かるんですか?」

 亮平に疑うような目を向けられ、尊さんは意味深に笑う。

「私は父親が〝外〟に作った子供で、腹違いの兄がいます。その辺りの事情は、上村家のご家族とお会いした時にすべて話すつもりでいます。今言いたいのは、私はすべてに恵まれた存在ではない、という事です」

 予想外の言葉を聞いたからか、亮平は黙り込んだ。

「だから亮平さんが朱里に複雑な想いを抱くのを、ある程度理解します。私だっていきなりできた〝家族〟に魅力的で年齢の近い異性がいたら、どう接したらいいか分からず戸惑ったでしょう」

 思いのほか尊さんが歩み寄ったからか、亮平は距離感を図るように遠くを見て、何か考えていた。

「亮平さんは、朱里の事を一人の女性として愛していますか?」

 穏やかに尋ねられ、亮平はしばらく黙ったあと答える。

「……惹かれていたのは事実です。でもさっき車の中で朱里と話して気づいたように、ただ憧れていただけのようにも感じます」

「想いを錯覚してしまう事もあります。彼女は美しいし女性的な魅力がある。近くにいれば『もっと近づきたい、〝特別〟になりたい』と願ってしまう。それが愛なのか欲なのか分からないまま……。モニカ・ベルッチ主演の『マレーナ』はご存知ですか?」

 映画のタイトルを出され、亮平は頷く。

「マレーナは確かに魅力的な女性でしたね。……そして哀れな女性だ」

 ……やばい。あとで配信にないか探さないと。私だけ蚊帳の外だ。

「朱里が彼女のようとは言いません。ですが男は美しい女性を見ると、本人がどんな人か知らずに『自分のものにしたい』と願ってしまう面を持ちます。亮平さんだけを責めていません。今まで彼女に魅力を感じた男性全員に言えます」

 その映画を見た事はないけど、尊さんの言葉で何となく内容は察した。

「若く美しい女性を求める気持ちは、美しい絵画を欲する思いと似ています。作品ばかりに気を取られて家庭や仕事を疎かにすれば、その絵は争いの元になるでしょう。絵画は何も悪くないのに、『人を魅了する呪われた絵』と言われるのです」

 そう言われ、亮平は少し考えたあとに溜め息をつき、頷いた。

「……そうかもしれない」

 二人の話を聞きながら、私は「不思議だな」と感じていた。
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