上 下
148 / 417
亮平 編

じゃあ、三人でどうです?

しおりを挟む
「探したんだぞ。どこへ……」

 歩み寄ってくる亮平はすぐ尊さんに気づき、彼が〝誰〟なのか、ピンときたらしい。

 亮平が複雑な表情で固まっていると、尊さんは微笑んで挨拶をした。

「初めまして。朱里さんのお兄さんの亮平さんですね。私は彼女とお付き合いしております、速水尊と申します」

「あ……、ああ、初めまして。上村亮平と申します」

 喧嘩を売られると思っていたのに、意外にも尊さんが明るく挨拶してきたから、亮平は調子を崩している。

 私も一瞬心配してしまったけれど、やっぱり尊さんは大人だ。

 一時の感情で突発的に行動しないし、怜香さんによって鍛えられた鋼のメンタルがあるから、亮平ごときでは動じない。……のだと思う。

 内心ムカついてはいるだろうけど、彼はそれを表に出さない大人だ。

「今日、朱里さんからは『実家に向かう』と伺っていました」

 それを聞き、亮平の顔がまた強張る。

「私と結婚する事をご家族に伝えるためと聞いていましたが、緊張していたと思います。お義兄さんに横浜まで連れてきてもらって、息抜きになったんじゃないでしょうか」

 うおおう……。尊さん、すっごいギリギリのところを攻めてる。

 亮平が独断で私を横浜に連れてきたのを「知ってるぞ」と言っておきながら、それを責めずフォローしている。

 この一言で、尊さんは精神的に亮平より優位に立った。

 もしも尊さんが気の短い人なら、義兄になる人であっても「心配させんなゴラァ!」ってなっていたかもしれない。

 そこまでいかなくても、普通なら険悪な雰囲気になってもおかしくない。

(だって心配して電話を掛けてくれたのに、出た瞬間、亮平が取り上げて切ったもんなぁ……)

 心の中で呟いた時、スマホをとられたままなのを思いだした。

「あっ! スマホ返して!」

 慌てて手を突き出すと、亮平はスマホを返してくれた。

 危ない……。忘れていた訳じゃなかったけど、忘れるとこだった。

 尊さんは私がスマホをポケットに入れるのを確認してから、亮平にニコッと笑いかけた。

「飯、食いましたか?」

「いや……」

「じゃあ、三人でどうです? もう昼過ぎですし、中華街に来ておいて何も食べずに帰るのは勿体ないので」

 攻めるなぁ!

 私はびっくりして目を丸くし、尊さんを見るけれど、彼は悠然と微笑んだままだ。

 まるで「俺に任せておけ」と言われているみたいで、そんな態度をとられたら逆らう気持ちもなくなる。

(尊さんが一緒なら怖くない。……むしろ尊さんがなんとかしてくれるなら、頼りたい)

 彼が何も考えずこんな事を提案したと思えない。

 それにこれは『攻撃こそ最大の防御』……なのかな。

「……分かりました」

 少しの間呆けていた亮平は、しぶしぶ了承する。

「じゃあ行きましょうか。好きな料理ありますか? 俺は点心が食いたいですね」

「私は小龍包食べたい」

「亮平さんは?」

 尊さんは私の手を握り、私と亮平の仲を裂くように真ん中を歩いている。

 もうその態度からバッチバチなんだけど、あくまで物腰柔らかだ。

 これが大人の戦い方なのかな。……思ってたよりこっちのほうがずっと怖いかも。

「あー……、麺類、かな。麻婆豆腐も……」

「あっ、麺! 私、あれがいいな。あれ」

 とっさに名前が出てこず、私はシュッシュッシュ、と何かを削るジェスチャーをする。

「刀削麺か?」

 尊さんに言われ、私はうんうんと頷く。

「そう! それ! 食べてみたかったけど、機会がなかったので」

「じゃあ、刀削麺のある店を探しましょうか。他の中華は大体あると思うので」

「いいですよ」

 尊さんの提案に、亮平は大人しく従った。

 スマホでお店を検索したあと、三人でお店のあるほうへ歩き始める。

「こうやって二人で中華街に来るって事は、兄妹仲はいいんですか?」

 尊さんが笑顔でぶっ込み、私は思わず横を向いて「うわぁ……」と顔を強張らせる。

 亮平は少し黙っていたけど、苦しい言い訳をする。

「悪くはないと思います」

 すっごい微妙だな……。良くはないのは確かだけど。

「そうですか。さっき朱里さんに電話を掛けた時、お兄さんが電話を切ったんですよね? お取り込み中だったんでしょうけど、邪魔してしまってすみません」

 尊さんの切り込みが凄くて、私は変な汗を掻いていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R18】もう一度セックスに溺れて

ちゅー
恋愛
-------------------------------------- 「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」 過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。 -------------------------------------- 結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

男友達を家に入れたら催眠術とおもちゃで責められ調教されちゃう話

mian
恋愛
気づいたら両手両足を固定されている。 クリトリスにはローター、膣には20センチ弱はある薄ピンクの鉤型が入っている。 友達だと思ってたのに、催眠術をかけられ体が敏感になって容赦なく何度もイかされる。気づけば彼なしではイけない体に作り変えられる。SM調教物語。

【R-18】悪役令嬢ですが、罠に嵌まって張型つき木馬に跨がる事になりました!

臣桜
恋愛
悪役令嬢エトラは、王女と聖女とお茶会をしたあと、真っ白な空間にいた。 そこには張型のついた木馬があり『ご自由に跨がってください。絶頂すれば元の世界に戻れます』の文字が……。 ※ムーンライトノベルズ様にも重複投稿しています ※表紙はニジジャーニーで生成しました

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

【R18】鬼上司は今日も私に甘くない

白波瀬 綾音
恋愛
見た目も中身も怖くて、仕事にストイックなハイスペ上司、高濱暁人(35)の右腕として働く私、鈴木梨沙(28)。接待で終電を逃した日から秘密の関係が始まる───。 逆ハーレムのチームで刺激的な日々を過ごすオフィスラブストーリー 法人営業部メンバー 鈴木梨沙:28歳 高濱暁人:35歳、法人営業部部長 相良くん:25歳、唯一の年下くん 久野さん:29歳、一個上の優しい先輩 藍沢さん:31歳、チーフ 武田さん:36歳、課長 加藤さん:30歳、法人営業部事務

処理中です...