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亮平 編

ナンパ

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 途中にあったコンビニで温かいほうじ茶を買い、海に向かってブラブラ歩く。

 昔来た時は楽しかったのになぁ……。

 来る相手と話す内容が違うだけで、こんなに気持ちが違うとは。

(また後日、仕切り直ししよう。尊さん、誘ってみようかな。上書きしてもらうのいいかもしれない)

 私はなるべく尊さんの事を考え、彼との楽しい思い出で頭の中を一杯にしようとする。

(好きだよ。尊さん。……好き。……好き、好き、好き、好き)

 一歩あるくごとに心の中で呟き、努めて頭から亮平を追い出そうとした。

 海辺につくまで何回の「好き」を心の中で言ったか分からない。

 やがて私は目の前に広がる海を見て、「はー!」と息を吐いた。

「きもちー」

 風が強くて寒いけど、鬱屈とした気持ちを吹き飛ばしてくれそうだ。

 私は海を望むベンチに座り、お茶のペットボトルを開けた。

 クピクピ……、と飲んで温かい息を吐き、呟く。

「……何やってるんだろ」

 これだったら会社で働いていたほうがマシだ。

 だって近くに尊さんがいるもの。

(好きでもない人に想われるのが、こんなに苦痛なんて)

 今までだって痴漢に遭ったし、ストーカーにも遭った。

 でも相手は関わりのない第三者で、ちゃんと対処すればなんとかなった。

(けど、亮平は結婚しても〝家族〟として顔を合わせなきゃいけない)

 憎んでいる訳じゃないし、いなくなってほしいとまでは思ってない。

 積極的に関わりたくないだけだ。

「もー……、やだ……」

 考え事をしながらお茶を飲み、脚を組んで寒さから身を守るように腕も組む。

 そのまま、私は目を閉じて潮騒に耳を澄ませた。





 どれぐらい、そうしていただろうか。

(……ちょっと寝てたかも)

 ふ……、と目を開けた時、同じベンチに人が座っているのを視界の端に認め、ギョッとしてそちらを見た。

「えっ?」

「かーのじょ、お茶しない?」

 軽薄なお決まりのセリフを口にして笑ったのは――、尊さんだ。

「えっ!? 何で!? なん……っ、えっ? えぇええっ!?」

 私は立ち上がり、周りの人が思わずこちらを見るほど大きな声を上げて驚きを表す。

「えぷしっ!」

 その途中で、横を向いて思いきりくしゃみをした。

「あーあ、もう……」

 尊さんは呆れたように言って笑い、立ちあがると自分のマフラーを私に巻いてくれた。

 ……あぁ、いい匂い。

「マフラーしてこなかったのか?」

「……だって、実家行くだけだったから」

「ほら、手も冷えてる」

 そう言って、彼は自分の黒い革製の手袋を私の両手に嵌めた。……あったかい。

「……へへへ。おっきい」

「体冷やすなよ」

 尊さんはポンと私の頭を撫で、空になったお茶のペットボトルを自分のコートのポケットに入れた。

「なんか体が温まるもんでも飲むか? ……ここにいるって事は、中華街でなんか食ったか?」

「ううん。何も」

 さっきはまったく食べたくなかったのに、隣に尊さんがいると思うだけで、現金にも空腹だと思えてきた。

 彼はゆっくり歩き出し、隣を歩く私は、ある事がしたくて手袋を片方脱いだ。

「はい、これ」

「ん?」

 私は尊さんの右手に手袋をキュッキュッと嵌め、彼の左手を握った。

「了解」

 私の意図を汲んでくれた尊さんは、クスッと笑って繋いだ手を自分のコートのポケットに入れる。

(好きだー!)

 私は悶えて足をバタバタさせたいのを堪え、俯いて思いきりニヤニヤした。

「……で、俺がここにいる理由だけど」

「はい」

 気になっていた事を言われ、私はニヤつく口元をキュッとすぼめて返事をする。
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