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亮平 編

アリなんだと思ってた

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「それ」

 指を挿されてカップホルダーを見ると、紙袋に包まれた何かとスムージーがあった。

「エッグタルトとミックスベリーのスムージー、好きだろ」

「………………ありがと」

 へたに〝家族〟だから、好みを知られているのがムカつく。

(普通に仲良くできていたら、素直に笑顔で『ありがとう』って言えるのに)

 私は心の中で呟き、溜め息をつく。

「できたてを買ったから、温かいうちに食べたら?」

「…………ありがと」

 食べ物に罪はない。

 私は溜め息をつき、カサカサと音を立ててエッグタルトを半分出すと、食べかすを零さないように気をつけながら齧り付いた。

 フワッと卵の香りが口内に広がり、美味しくて思わず表情が緩む。

(おいし……)

 味わっていると、亮平が話しかけてきた。

「年末年始、彼氏と過ごしてたわけ?」

「……そうだけど」

 私は溜め息をついて返事をする。

「どんなふうに?」

 あー、もう。なんであんたに言わないといけないの。

「……詳しく言う義理はないと思うけど。亮平だって、彼女とどう付き合っているか聞かれたら嫌でしょ?」

 置き換えで言えば納得してくれると思ったけれど、意外な事を言われた。

「別れたけど」

「は?」

「去年の秋に別れた」

 ……気まずい。

「…………そう。……そのうち次の彼女できるんじゃない?」

 慰める言葉が思いつかない私は、そう言ったあとエッグタルトを食べて誤魔化す。

 そのあとしばらく、亮平は何も言わずに運転を続けていた。

(気まずいながらも慰めたんだから、何か言えよ)

 だからこいつと過ごすと、色んな意味で妙な空気になって嫌だ。

 私は無言でエッグタルトを食べ、スムージーも飲む。

 イライラしていたけど、好きな物を食べると少し気持ちが和らいだ。

(まぁ、せっかく気を利かせてご馳走してくれたし、なかった事にしてやるか)

 決めたあと、指で口端の食べかすを確認しつつお礼を言った。

「ごちそうさま。美味しかった」

「俺さ、血が繋がってないし、朱里ならアリなんだと思ってた」

「……………………は?」

 いきなり、脈絡もなくそんな事を言われ、私はギョッとして目を見開き、ギギギ……と右側を見る。

 亮平はいつもと変わらない表情のまま、前を見てハンドルを握っていた。

「再婚相手として親父に若菜わかなさんを紹介された時、一緒にいたお前はまだ高校一年生だったけど、可愛いなと思ってたんだ」

 若菜とは母の事だ。

「キモッ!」

 反射的に言葉が口をついて出て、そのあとヤバイと思ってドッと変な汗が出た。

「二歳差なら、年齢的にキモくはないと思うけど」

「~~~~いや、そうじゃない。血の繋がりはないとはいえ、家族になる相手にそういう事考えるやつ無理!」

 悪寒が走った私は、自分を抱き締めるように腕を回し、高速で二の腕をさする。

「そういう言い方する事ないだろ。俺だって〝父の再婚相手の連れ子〟を好きになる性癖なんて持ってない。……朱里だから可愛いと思って好ましく思ったんだ」

 亮平は少しムッとして否定するけれど、だからといって納得できるはずがない。

「……っていうか、今さらやめてよ。〝家族〟になって十年近く経って、その間にお互い彼氏彼女いて付き合っていたのに、私が結婚するかもって言ったらそれ? 嫌がらせでしょ」

 苛立って言うと、亮平は溜め息をつく。

「自分でもどう気持ちの折り合いをつければいいか分からなかったんだ。普通に考えて継妹に恋をするなんて変だろ。親からなんて言われるか分からないし。それにお前は父親の死を引きずって不安定だったし、変に悩みの種を増やすわけにいかなかった」

「いっちょまえに気遣うふりができるなら、そのまま一生黙っててよ」

 混乱した私は、スムージーのカップを両手で握り、ベコベコとへこませている。

「……だから、結婚するって言うから、一応気持ちを伝えておきたかったんだろ」

「~~~~だからって……。……あのさ、妙に近い距離で立たれたりとか、微妙にタッチしてくる感じとか、すごい気持ち悪かったんだけど」

「嫌だったなら悪いけど、俺だって魅力を感じる女には近づきたいよ」

「~~~~っ!」

 嫌すぎて、ジタバタして悶えたくなる。
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