122 / 416
確かめ合う気持ち 編
側にいますし、支えます
しおりを挟む
「怜香さんが舞台から去った今、私たちの結婚に反対する人はいなくなったと思います。……でもそれだけじゃ済みませんよね」
気になっていた事を言うと、彼は真剣な表情で重々しく頷く。
「ああ、あいつがやらかした事がニュースになれば、篠宮フーズの株価は大暴落、バッシングされるだろう。母が社長の不倫相手と知られれば、父が叩かれるのは勿論、俺が婚外子である事も明るみになり、渦中の人となる」
これから訪れる事を予想し、私はギュッと尊さんの手を握った。
「側にいますし、支えます」
「……これから父や兄貴、役員たちが火消しに奔走するだろう。騒ぎが収まるまでは静かにしていたほうがいい。結婚式を挙げるまでは時間が掛かるし、式場や招待客などもまだ決まってない。会社ではしばらく今まで通り上司と部下を通して、ほとぼりが冷めた頃に式を挙げよう。何もこっちから周りを刺激する必要はないから」
「はい」
亘さんは特に大変な思いをするだろうけど、彼がすべての元凶でもあるんだから、しっかり責任を取ってほしい。
「……尊さんは大丈夫ですか?」
「ん?」
彼は優しい顔で尋ねてくる。
「今まで〝速水部長〟として過ごしてきたのに、実は社長の息子とか、社長夫人にお母さんと妹さんを殺されたとか……、噂の的になるでしょう」
「んー、ストレス耐性は強いからな。まったくダメージを負わない訳じゃないけど、俺には朱里がいる。それに糾弾されるべき〝悪〟は俺じゃないしな。むしろ、うまく立ち回れば俺は被害者の側で済むと思うけど」
そこまで言って、尊さんはニヤリと笑う。
「下手すれば、親父は辞任だな。後釜には風磨がつくかもしれねぇし、若すぎるって声が出たなら他の役員が社長になるだろう。不祥事があっても篠宮フーズはでけぇ会社だから、倒産の危機はない。今後の方針は上層部……、祖父さんたちの話し合い次第だな」
「お祖父さんって……、名誉会長?」
尋ねると、尊さんは鼻で笑う。
「そ、定年のない妖怪。死ぬまで会社から金をもらってるから、そりゃあ優雅なもんだよ。それも年収何千万の世界だ」
「ひえ……」
まさか定年がなく、そんなに大金をもらっている人がいると思わず、私は目を見開く。
「ひでー世界だろ? 妖怪は親父なんかよりずっと権力を持ってるからな。そいつらから見れば、親父なんてただの駒だ。あいつが辞任しても会社は困らないし、火消しができるなら喜んで辞任させるだろ。それで子会社かどこかに新しいポストを用意するんだよ」
「うわぁ……。天上人の闇……」
私のような平社員には分からない世界なので、ドン引きだ。
その時、部屋のチャイムが鳴った。
「お、ようやく来たか」
バスローブ姿の尊さんはソファから立ちあがり、出入り口に向かう。
そして服を持ってきたコンシェルジュさんと会話をしてから、紙袋を手にして戻ってきた。
「お前も着替えろよ。レストランの席を用意してくれるって言ってたから、気分転換に飯を楽しもうぜ」
「はい」
尊さんは気を遣ってくれてベッドルームで着替えるらしく、私はちょっと迷ってから洗面所で着替える事にした。
服を汚したと言われてもほんのちょっとで、濡れタオルでちょんちょん拭けば大丈夫な程度だ。
(でも気にしてるんだろうな。あそこまで弱った姿を見せてしまった訳だし)
ボロボロに傷付いて泣いて、嘔吐した彼を思いだすと胸の奥がギュッとなる。
紙袋に入っていたのは、百貨店に入っている系のブランド服だった。
値札は当然取られているけれど、トップス、ボトムスそれぞれ万は超える……と思う。
(いやいや、贈られた物の値段を考えたら失礼だ!)
私はピシャッと両手で頬を叩き、着ていた服を脱いで着替え始める。
替える必要がないのに、ストッキングまでお高級そうな新品が入っていた。
彼がコンシェルジュさんに伝えて買ってきてもらったのは、黒いハイネックの縦リブニットで、バルーンスリーブの手首がやや長めに絞ってある。それに合わせるボトムスは、ハイウエストで白と黒の千鳥格子柄のマーメイドスカートだ。
……うん、いや、こういう服好きだけど、さっき感情が乱れていた中で、よくここまで私にマッチした服を頼めたな……。さすがだ。しかもサイズピッタリじゃん。
(ニットは伸びるから、胸元気にしなくていいんだよな。ボトムはそれほど苦労しないんだけど)
スカートのウエストファスナーを上げながら思い、せっかく洗面所にいるのでうがいをした。
(ちょっとファンデよれてるかな。少しメイク直しするか)
もと着ていた服は紙袋に入れ、私はリビングダイニングに戻る。
「お待たせです。私、ちょっと化粧直し……、…………あぁ……」
私は着替えた尊さんの姿を見て、感嘆の溜め息をついてしまう。
気になっていた事を言うと、彼は真剣な表情で重々しく頷く。
「ああ、あいつがやらかした事がニュースになれば、篠宮フーズの株価は大暴落、バッシングされるだろう。母が社長の不倫相手と知られれば、父が叩かれるのは勿論、俺が婚外子である事も明るみになり、渦中の人となる」
これから訪れる事を予想し、私はギュッと尊さんの手を握った。
「側にいますし、支えます」
「……これから父や兄貴、役員たちが火消しに奔走するだろう。騒ぎが収まるまでは静かにしていたほうがいい。結婚式を挙げるまでは時間が掛かるし、式場や招待客などもまだ決まってない。会社ではしばらく今まで通り上司と部下を通して、ほとぼりが冷めた頃に式を挙げよう。何もこっちから周りを刺激する必要はないから」
「はい」
亘さんは特に大変な思いをするだろうけど、彼がすべての元凶でもあるんだから、しっかり責任を取ってほしい。
「……尊さんは大丈夫ですか?」
「ん?」
彼は優しい顔で尋ねてくる。
「今まで〝速水部長〟として過ごしてきたのに、実は社長の息子とか、社長夫人にお母さんと妹さんを殺されたとか……、噂の的になるでしょう」
「んー、ストレス耐性は強いからな。まったくダメージを負わない訳じゃないけど、俺には朱里がいる。それに糾弾されるべき〝悪〟は俺じゃないしな。むしろ、うまく立ち回れば俺は被害者の側で済むと思うけど」
そこまで言って、尊さんはニヤリと笑う。
「下手すれば、親父は辞任だな。後釜には風磨がつくかもしれねぇし、若すぎるって声が出たなら他の役員が社長になるだろう。不祥事があっても篠宮フーズはでけぇ会社だから、倒産の危機はない。今後の方針は上層部……、祖父さんたちの話し合い次第だな」
「お祖父さんって……、名誉会長?」
尋ねると、尊さんは鼻で笑う。
「そ、定年のない妖怪。死ぬまで会社から金をもらってるから、そりゃあ優雅なもんだよ。それも年収何千万の世界だ」
「ひえ……」
まさか定年がなく、そんなに大金をもらっている人がいると思わず、私は目を見開く。
「ひでー世界だろ? 妖怪は親父なんかよりずっと権力を持ってるからな。そいつらから見れば、親父なんてただの駒だ。あいつが辞任しても会社は困らないし、火消しができるなら喜んで辞任させるだろ。それで子会社かどこかに新しいポストを用意するんだよ」
「うわぁ……。天上人の闇……」
私のような平社員には分からない世界なので、ドン引きだ。
その時、部屋のチャイムが鳴った。
「お、ようやく来たか」
バスローブ姿の尊さんはソファから立ちあがり、出入り口に向かう。
そして服を持ってきたコンシェルジュさんと会話をしてから、紙袋を手にして戻ってきた。
「お前も着替えろよ。レストランの席を用意してくれるって言ってたから、気分転換に飯を楽しもうぜ」
「はい」
尊さんは気を遣ってくれてベッドルームで着替えるらしく、私はちょっと迷ってから洗面所で着替える事にした。
服を汚したと言われてもほんのちょっとで、濡れタオルでちょんちょん拭けば大丈夫な程度だ。
(でも気にしてるんだろうな。あそこまで弱った姿を見せてしまった訳だし)
ボロボロに傷付いて泣いて、嘔吐した彼を思いだすと胸の奥がギュッとなる。
紙袋に入っていたのは、百貨店に入っている系のブランド服だった。
値札は当然取られているけれど、トップス、ボトムスそれぞれ万は超える……と思う。
(いやいや、贈られた物の値段を考えたら失礼だ!)
私はピシャッと両手で頬を叩き、着ていた服を脱いで着替え始める。
替える必要がないのに、ストッキングまでお高級そうな新品が入っていた。
彼がコンシェルジュさんに伝えて買ってきてもらったのは、黒いハイネックの縦リブニットで、バルーンスリーブの手首がやや長めに絞ってある。それに合わせるボトムスは、ハイウエストで白と黒の千鳥格子柄のマーメイドスカートだ。
……うん、いや、こういう服好きだけど、さっき感情が乱れていた中で、よくここまで私にマッチした服を頼めたな……。さすがだ。しかもサイズピッタリじゃん。
(ニットは伸びるから、胸元気にしなくていいんだよな。ボトムはそれほど苦労しないんだけど)
スカートのウエストファスナーを上げながら思い、せっかく洗面所にいるのでうがいをした。
(ちょっとファンデよれてるかな。少しメイク直しするか)
もと着ていた服は紙袋に入れ、私はリビングダイニングに戻る。
「お待たせです。私、ちょっと化粧直し……、…………あぁ……」
私は着替えた尊さんの姿を見て、感嘆の溜め息をついてしまう。
37
お気に入りに追加
816
あなたにおすすめの小説
【R18】もう一度セックスに溺れて
ちゅー
恋愛
--------------------------------------
「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」
過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。
--------------------------------------
結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。
【R-18】悪役令嬢ですが、罠に嵌まって張型つき木馬に跨がる事になりました!
臣桜
恋愛
悪役令嬢エトラは、王女と聖女とお茶会をしたあと、真っ白な空間にいた。
そこには張型のついた木馬があり『ご自由に跨がってください。絶頂すれば元の世界に戻れます』の文字が……。
※ムーンライトノベルズ様にも重複投稿しています
※表紙はニジジャーニーで生成しました
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
【R18】鬼上司は今日も私に甘くない
白波瀬 綾音
恋愛
見た目も中身も怖くて、仕事にストイックなハイスペ上司、高濱暁人(35)の右腕として働く私、鈴木梨沙(28)。接待で終電を逃した日から秘密の関係が始まる───。
逆ハーレムのチームで刺激的な日々を過ごすオフィスラブストーリー
法人営業部メンバー
鈴木梨沙:28歳
高濱暁人:35歳、法人営業部部長
相良くん:25歳、唯一の年下くん
久野さん:29歳、一個上の優しい先輩
藍沢さん:31歳、チーフ
武田さん:36歳、課長
加藤さん:30歳、法人営業部事務
男友達を家に入れたら催眠術とおもちゃで責められ調教されちゃう話
mian
恋愛
気づいたら両手両足を固定されている。
クリトリスにはローター、膣には20センチ弱はある薄ピンクの鉤型が入っている。
友達だと思ってたのに、催眠術をかけられ体が敏感になって容赦なく何度もイかされる。気づけば彼なしではイけない体に作り変えられる。SM調教物語。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる