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確かめ合う気持ち 編
大事なのは私の気持ちです
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「親父の事については、俺も成長と共に諦めてったな……。親のセックスを見るのは、ある程度あるあるなんじゃないか? そりゃあ、理解した時は呆れたし、親父への嫌悪が膨れ上がって、十代の頃はかなり冷たく当たった。……今は態度が軟化したっていうより、何も期待してないだけだ。怜香のせいで色んなもんを諦めて、意地を張り続けても何もなんねぇって分かったってのもあるし」
「……尊さんは大人ですよね。ひねくれてるけど、心のキャパはとても大きいです。そうならざるを得なかったといっても、……尊敬します」
「何も出ねーぞ」
彼は苦笑いし、私の頭をクシャクシャと撫でる。
「今度、ちえりさんにお会いしたいって言ったら、応じてくれるでしょうか?」
「セッティングできると思う。俺もちえり叔母さんには世話になったから、お前を紹介したい」
「はい!」
大切な人に紹介してもらえるのが嬉しく、私は笑顔になる。
そのあと、陰の協力者を思いだして溜め息をついた。
「……そのうち、恵とちゃんと話さないと」
「どうなんだろうな。『言わぬが花』って言葉もあるし」
「……そうですね」
中学生の時に恵にキスをされたのは、今もまだ鮮烈に覚えている。
彼女がクラスの人気者だったのに対し、私は悪目立ちしているだけの社交性ゼロの陰キャだった。
恵が私に興味を持ったと分かった時は、『一匹狼だから珍しいんだろうな』と思っただけだ。
私は父を亡くす前から一人行動を好んでいて、ボーッと考え事をする癖もあり、周りと足並みを揃える事ができなかった。
ほとんどのクラスメイトは『面倒だから関わらないでおこう』『面白くないやつ』『付き合いが悪い』と思っていただろう。
けど恵は面倒見がいいから、ずっと私を気に掛けてくれていたんだと思う。
それで私と話すきっかけができたから、そのまま付き合っていったんだと認識していた。
恵が尊さんに協力した理由はどうであれ、私にとって彼女は特別な人だ。
だから、傷つけるかもしれない事を話題にするなら、よく考えてからと思った。
彼女の話題になったからか、尊さんはばつが悪そうに笑う。
「悪かったな。……さっきも言った通り、俺は朱里の人生をねじ曲げた。お前がこうしてここにいるのは、運命じゃなくて俺が仕組んだからだ」
その言い方を聞いて、ムッとしてしまった。
「悪い事をしたような言い方をしないでください。私、怒ってるように見えます?」
私は「もう……」と言って、彼の鼻先にチュッとキスをした。
「ベタ惚れにさせておいて、今さら私の気持ちが分からないなんて言ったら、はっ倒しますよ?」
「お前を怒らせたら怖そうだ」
尊さんは困ったように笑い、私の髪を耳に掛けてキスしてくる。
「ん……」
はむはむと唇をついばまれ、私は幸せな心地になって尊さんを抱き締めた。
そのあと、パフッと彼の胸板に顔を押しつけ、目を閉じてぬくもりを感じる。
「……私、人生をねじ曲げられたなんて思ってませんからね」
「ん……」
自信なさげな返事をする尊さんを励ましたくて、私は彼の手を握って指を絡めた。
「就活していた時、親友と同じ会社に行けたら理想的だけど、そうはいかないって分かっていました。自分の人生を決めるんだから、学生の班決めみたいなノリで仕事に就けないって……」
当時は社会人になったら、当たり前に昭人や恵と別の道を歩むと思っていた。
「怜香さんにはバカにされましたが、私、通っていた大学に入るのに、けっこう頑張ったんです。そこから篠宮フーズという一流企業に勤められたのは、自分の努力が報われたからだと思っていました」
「……悪い」
謝った尊さんは、私の努力をコネ入社で踏みにじったと思ったのだろう。
「違います。大事なのは私の気持ちです。私は自分の努力が実ったと信じていました。会社に入ったあとも自力で頑張って、そこそこヒットした商品を手がけられました。さすがに、同じ部署になったあとまで干渉していないでしょう?」
「ああ、普通に上司として接していただけだ。お前は自力で頑張って、色んな事を勝ち取っていったよ」
そう言われ、私は安堵して微笑んだ。
「ならいいんです。すべてが自力ではなかったかもしれないけど、全部嘘な訳じゃない。私から『ズルさせて』とお願いした訳じゃないから、誰かに恥じる必要はありません。それでいいんです」
「……でも」
私は何か言いかけた尊さんの唇に、そっと人差し指を押し当てる。
「……尊さんは大人ですよね。ひねくれてるけど、心のキャパはとても大きいです。そうならざるを得なかったといっても、……尊敬します」
「何も出ねーぞ」
彼は苦笑いし、私の頭をクシャクシャと撫でる。
「今度、ちえりさんにお会いしたいって言ったら、応じてくれるでしょうか?」
「セッティングできると思う。俺もちえり叔母さんには世話になったから、お前を紹介したい」
「はい!」
大切な人に紹介してもらえるのが嬉しく、私は笑顔になる。
そのあと、陰の協力者を思いだして溜め息をついた。
「……そのうち、恵とちゃんと話さないと」
「どうなんだろうな。『言わぬが花』って言葉もあるし」
「……そうですね」
中学生の時に恵にキスをされたのは、今もまだ鮮烈に覚えている。
彼女がクラスの人気者だったのに対し、私は悪目立ちしているだけの社交性ゼロの陰キャだった。
恵が私に興味を持ったと分かった時は、『一匹狼だから珍しいんだろうな』と思っただけだ。
私は父を亡くす前から一人行動を好んでいて、ボーッと考え事をする癖もあり、周りと足並みを揃える事ができなかった。
ほとんどのクラスメイトは『面倒だから関わらないでおこう』『面白くないやつ』『付き合いが悪い』と思っていただろう。
けど恵は面倒見がいいから、ずっと私を気に掛けてくれていたんだと思う。
それで私と話すきっかけができたから、そのまま付き合っていったんだと認識していた。
恵が尊さんに協力した理由はどうであれ、私にとって彼女は特別な人だ。
だから、傷つけるかもしれない事を話題にするなら、よく考えてからと思った。
彼女の話題になったからか、尊さんはばつが悪そうに笑う。
「悪かったな。……さっきも言った通り、俺は朱里の人生をねじ曲げた。お前がこうしてここにいるのは、運命じゃなくて俺が仕組んだからだ」
その言い方を聞いて、ムッとしてしまった。
「悪い事をしたような言い方をしないでください。私、怒ってるように見えます?」
私は「もう……」と言って、彼の鼻先にチュッとキスをした。
「ベタ惚れにさせておいて、今さら私の気持ちが分からないなんて言ったら、はっ倒しますよ?」
「お前を怒らせたら怖そうだ」
尊さんは困ったように笑い、私の髪を耳に掛けてキスしてくる。
「ん……」
はむはむと唇をついばまれ、私は幸せな心地になって尊さんを抱き締めた。
そのあと、パフッと彼の胸板に顔を押しつけ、目を閉じてぬくもりを感じる。
「……私、人生をねじ曲げられたなんて思ってませんからね」
「ん……」
自信なさげな返事をする尊さんを励ましたくて、私は彼の手を握って指を絡めた。
「就活していた時、親友と同じ会社に行けたら理想的だけど、そうはいかないって分かっていました。自分の人生を決めるんだから、学生の班決めみたいなノリで仕事に就けないって……」
当時は社会人になったら、当たり前に昭人や恵と別の道を歩むと思っていた。
「怜香さんにはバカにされましたが、私、通っていた大学に入るのに、けっこう頑張ったんです。そこから篠宮フーズという一流企業に勤められたのは、自分の努力が報われたからだと思っていました」
「……悪い」
謝った尊さんは、私の努力をコネ入社で踏みにじったと思ったのだろう。
「違います。大事なのは私の気持ちです。私は自分の努力が実ったと信じていました。会社に入ったあとも自力で頑張って、そこそこヒットした商品を手がけられました。さすがに、同じ部署になったあとまで干渉していないでしょう?」
「ああ、普通に上司として接していただけだ。お前は自力で頑張って、色んな事を勝ち取っていったよ」
そう言われ、私は安堵して微笑んだ。
「ならいいんです。すべてが自力ではなかったかもしれないけど、全部嘘な訳じゃない。私から『ズルさせて』とお願いした訳じゃないから、誰かに恥じる必要はありません。それでいいんです」
「……でも」
私は何か言いかけた尊さんの唇に、そっと人差し指を押し当てる。
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