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見守るようになった理由 編
環境が変わった先、それぞれの出会い
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夜、処方された薬を飲んでベッドに横になり、暗い天井を見て溜め息をついた。
俺がここまで朱里に執着しているのは、その存在のせいだ。
名前、年齢、彼女そのものが気になって仕方がない。
『どうして……』
理由を知りたくて必死に考えようとしたが、答えが出ない。思い出せない。
まるで周囲一面真っ白な霧に覆われているなか、全力で扇風機を回しているのに、一向に霧が晴れない感じだ。
思いだしたくないから自己防衛反応が働いているのだと、自分でも理解している。
無理に思いだせば、きっと精神的にボロボロになるだろう。
(今は必要ない事なんだ)
俺は自分に言い聞かせ、なるべく何も考えないようにして眠ると努力した。
そのあと中村さんから、定期的に朱里の様子を教えてもらった。
彼女は朱里の写真や動画を頻繁に送ってくれ、それらを見ていると朱里自身とやり取りをしている気持ちになる。
その後、朱里は情緒的に安定しているようだ。
朱里の父親が亡くなったのは中学一年生の時で、彼女が自殺未遂をしたのが中二の冬。
中村さんから連絡を受けているうちに一年が経ち、彼女たちは中学校を卒業した。
二人が通っているのは中高一貫校なので、中村さんは進学したあとも変わらず報告を続けてくれた。
まだ先の話だが、彼女は大学も朱里と同じところを受けるつもりらしい。
自分の進路や人生を優先するより、好きな人の側にいて守り続けたいのだとか。
将来どんな仕事に就くかは朱里次第になるとはいえ、彼女は成績がいいので、ある程度の会社には入れると踏んでいるようだ。
『むしろ私が朱里についていけるよう、頑張らないと』
そう言った中村さんは、毎日朱里と一緒に勉強を頑張っているそうだ。
高校生になったあと、朱里の環境に変化が起こった。
朱里は高校一年生の時に田村昭人という男子生徒と同じクラスになり、告白されたらしい。
報告を聞いた俺は、何とも言えない気持ちになった。ずっと遠くから見守っている娘が、顔も知らない男と付き合い始めたと聞いたような感覚だ。
さらなる変化として、朱里の母親が再婚した。
母子家庭だった二人の生活が安定するのは歓迎だが、継父には連れ子がいて、兄と妹は朱里と年齢が近いと聞いた。
(絶対なんかあるだろ……)
その状況を想像しただけで、俺は頭を抱えてしまった。
中村さんも同じ事を考えたようで、今まで以上に朱里の相談に乗ると言っていた。
いっぽうその頃、俺は篠宮フーズに入社していた。
どうせこの家、会社からは逃れられないと諦め、他の新入社員と一緒に毎日を淡々と過ごすようになる。
せめて家に帰ったら安らげるように、住居は三田の少しいいマンションに引っ越した。
会社に勤めるに当たって、俺は速水尊と名乗る事になった。
『私たち夫婦の実子である風磨が跡継ぎになるのは当たり前よ。でも浮気相手の息子が篠宮の姓を名乗り、風磨と同じ道を歩むのは耐えられないわ』との事だ。
親父は怜香の意見を受け入れ、俺はこの会社で働くならどんな立場でも同じだと思い、諾々と受け入れた。
だがいい事もあり、会社に入ってすぐ出会いがあった。
同じ班に配属されたのは、宮本凜という名前の、サッパリとした性格の女性だ。
『速水くんは、今日もかったるそうな顔をしてるなぁ』
朝、始業前にぼんやりとスマホを見ていると、宮本にバシッと肩を叩かれた。
『いてーよ、馬鹿力』
『鍛え方が足りないんじゃない?』
宮本はカラカラと笑い、隣の席に座る。
彼女はスラッとした長身で、黒いストレートロングヘアを一本に縛っている。
スリムな体型で脚が長く、パンツスーツがとてもよく似合っていた。
それまでの俺は何回も女性に告白され、本気ではない付き合い方をしては、理由もなく別れていた。
だから女性を見ると、あまり関わりたくない、面倒だという気持ちが先立つ。
なのに宮本と話していると、とても心地いいし楽だ。
色恋の事など考えずポンポン言い合い、宮本も俺を男として見ず、ただの同僚として付き合ってくれている。だからこそ、宮本とはこのままの関係でいたいと願っていた。
なのに意識するほど、彼女の女性らしさに気づいてしまう。
一本縛りにした首に掛かる柔らかそうな後れ毛に、白く細いうなじ。
どれだけ威勢が良くても、側にいると自分より背が低く華奢な体型だと思い知る。
他の男性社員は『宮本は美人だけど女として見られないわ』と笑い交じりに言い、俺はその言葉を聞いて内心で安堵していた。
俺がここまで朱里に執着しているのは、その存在のせいだ。
名前、年齢、彼女そのものが気になって仕方がない。
『どうして……』
理由を知りたくて必死に考えようとしたが、答えが出ない。思い出せない。
まるで周囲一面真っ白な霧に覆われているなか、全力で扇風機を回しているのに、一向に霧が晴れない感じだ。
思いだしたくないから自己防衛反応が働いているのだと、自分でも理解している。
無理に思いだせば、きっと精神的にボロボロになるだろう。
(今は必要ない事なんだ)
俺は自分に言い聞かせ、なるべく何も考えないようにして眠ると努力した。
そのあと中村さんから、定期的に朱里の様子を教えてもらった。
彼女は朱里の写真や動画を頻繁に送ってくれ、それらを見ていると朱里自身とやり取りをしている気持ちになる。
その後、朱里は情緒的に安定しているようだ。
朱里の父親が亡くなったのは中学一年生の時で、彼女が自殺未遂をしたのが中二の冬。
中村さんから連絡を受けているうちに一年が経ち、彼女たちは中学校を卒業した。
二人が通っているのは中高一貫校なので、中村さんは進学したあとも変わらず報告を続けてくれた。
まだ先の話だが、彼女は大学も朱里と同じところを受けるつもりらしい。
自分の進路や人生を優先するより、好きな人の側にいて守り続けたいのだとか。
将来どんな仕事に就くかは朱里次第になるとはいえ、彼女は成績がいいので、ある程度の会社には入れると踏んでいるようだ。
『むしろ私が朱里についていけるよう、頑張らないと』
そう言った中村さんは、毎日朱里と一緒に勉強を頑張っているそうだ。
高校生になったあと、朱里の環境に変化が起こった。
朱里は高校一年生の時に田村昭人という男子生徒と同じクラスになり、告白されたらしい。
報告を聞いた俺は、何とも言えない気持ちになった。ずっと遠くから見守っている娘が、顔も知らない男と付き合い始めたと聞いたような感覚だ。
さらなる変化として、朱里の母親が再婚した。
母子家庭だった二人の生活が安定するのは歓迎だが、継父には連れ子がいて、兄と妹は朱里と年齢が近いと聞いた。
(絶対なんかあるだろ……)
その状況を想像しただけで、俺は頭を抱えてしまった。
中村さんも同じ事を考えたようで、今まで以上に朱里の相談に乗ると言っていた。
いっぽうその頃、俺は篠宮フーズに入社していた。
どうせこの家、会社からは逃れられないと諦め、他の新入社員と一緒に毎日を淡々と過ごすようになる。
せめて家に帰ったら安らげるように、住居は三田の少しいいマンションに引っ越した。
会社に勤めるに当たって、俺は速水尊と名乗る事になった。
『私たち夫婦の実子である風磨が跡継ぎになるのは当たり前よ。でも浮気相手の息子が篠宮の姓を名乗り、風磨と同じ道を歩むのは耐えられないわ』との事だ。
親父は怜香の意見を受け入れ、俺はこの会社で働くならどんな立場でも同じだと思い、諾々と受け入れた。
だがいい事もあり、会社に入ってすぐ出会いがあった。
同じ班に配属されたのは、宮本凜という名前の、サッパリとした性格の女性だ。
『速水くんは、今日もかったるそうな顔をしてるなぁ』
朝、始業前にぼんやりとスマホを見ていると、宮本にバシッと肩を叩かれた。
『いてーよ、馬鹿力』
『鍛え方が足りないんじゃない?』
宮本はカラカラと笑い、隣の席に座る。
彼女はスラッとした長身で、黒いストレートロングヘアを一本に縛っている。
スリムな体型で脚が長く、パンツスーツがとてもよく似合っていた。
それまでの俺は何回も女性に告白され、本気ではない付き合い方をしては、理由もなく別れていた。
だから女性を見ると、あまり関わりたくない、面倒だという気持ちが先立つ。
なのに宮本と話していると、とても心地いいし楽だ。
色恋の事など考えずポンポン言い合い、宮本も俺を男として見ず、ただの同僚として付き合ってくれている。だからこそ、宮本とはこのままの関係でいたいと願っていた。
なのに意識するほど、彼女の女性らしさに気づいてしまう。
一本縛りにした首に掛かる柔らかそうな後れ毛に、白く細いうなじ。
どれだけ威勢が良くても、側にいると自分より背が低く華奢な体型だと思い知る。
他の男性社員は『宮本は美人だけど女として見られないわ』と笑い交じりに言い、俺はその言葉を聞いて内心で安堵していた。
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