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見守るようになった理由 編
私と友達になって
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そのあと、しばらく朱里と話さなかった。
いや、話せなかった。
けれど朱里はいつもと変わらず過ごしているし、私を気にする素振りも見せない。
だから悔しくなったし、これで彼女と縁が切れるのは嫌だと思った。
『朱里』
私はまた校舎裏へ行き、彼女に声を掛ける。
『ここに来るの久しぶりだね。怒ったと思った』
朱里は穏やかに微笑み、何事もなかったかのように本のページをめくる。
私はゆっくりと彼女に近づき、決意して告げた。
『私、朱里が好き。……でも、朱里の事が大切だからこそ、困らせたくない』
失恋宣言をして泣きそうになったけど、困らせないように精一杯笑って言った。
『ねぇ、私と友達になって。一生の親友になりたい。私は何があっても朱里を応援する。朱里が男の人と付き合って結婚しても、ずっと側で友達として支えたい』
『……ん』
その時の彼女の微笑みには、色んな意味が込められていた。
嬉しい、ありがとうもあるけれど、私にそう言わせてしまった申し訳なさもある。
だから、きちんとフォローしておいた。
『責任を感じなくていいからね。これは私が勝手に決めた事。もしかしたら、そのうち気持ちが変わるかもしれないし、その時はその時』
『そうだね。未来の事は分からない』
微笑み合ったあと、私は朱里の隣に座り、たわいのない話を始めた。
**
『……だから私、朱里の事が何より大切なんです』
中村さんは俺をまっすぐに見て言う。
話を聞いて、彼女の印象が変わった。
――私のほうが朱里を想っているのに、ポッと現れたあなたが彼女の命を救うなんて。
俺を見ている中村さんの目の奥に、そんな感情が宿っているように思える。
だから俺は、彼女の気持ちを尊重する言葉を選んだ。
『君のほうが朱里を守れる。だからこれから先、様子がおかしいと思う事があったら支えてあげてほしい』
『はい』
返事をした彼女から『言われなくても』という雰囲気を感じ、俺は小さく笑う。
『あと、一つ注意してほしいんだけど……』
そう切りだして、俺は彼女のSNSアカウントの事を打ち明けた。
勿論、ストーカーと思われないように『心配になって検索したら見つけた』という点は強調しておいた。
『マジですか? あの子ったら、もう……』
中村さんは悲鳴じみた声を上げ、大きな溜め息をつく。
『朱里って大人びていて、一人で大丈夫っていう雰囲気がありますけど、結構ボーッとしているし、抜けてるんですよ』
『何となく分かる』
俺は同意し、クスッと笑った。
中村さんに大切な事は伝えたし、関わりを断つならこれで終わらせれば良かった。
そうすれば良かったのに――、つい口が動いてしまった。
『……俺は朱里さんの事を妹のように思っている。目の前で自殺されかけたのがショックで、どうしても気になってしまう、もし中村さんさえ良ければ、これから定期的に朱里さんの様子を教えてくれないか?』
――何言ってんだよ。
言ってしまってから、俺はもう一人の自分に毒づく。
――中学生を気に掛けてどうする? 世間からロリコンだと思われて終わりだ。
すぐ後悔して言い直そうと思ったが、その時には中村さんが得心顔で頷いていた。
『分かりました。私も朱里を守りたいです。時には年上の意見が必要になる時もあるかもしれませんから、その時は相談に乗ってください』
『……あ、あぁ……』
俺は溜め息混じりに頷き、中村さんと連絡先を交換してしまった。
そのあとカフェから出て、車で彼女を家の近くまで送り、帰路についた。
いや、話せなかった。
けれど朱里はいつもと変わらず過ごしているし、私を気にする素振りも見せない。
だから悔しくなったし、これで彼女と縁が切れるのは嫌だと思った。
『朱里』
私はまた校舎裏へ行き、彼女に声を掛ける。
『ここに来るの久しぶりだね。怒ったと思った』
朱里は穏やかに微笑み、何事もなかったかのように本のページをめくる。
私はゆっくりと彼女に近づき、決意して告げた。
『私、朱里が好き。……でも、朱里の事が大切だからこそ、困らせたくない』
失恋宣言をして泣きそうになったけど、困らせないように精一杯笑って言った。
『ねぇ、私と友達になって。一生の親友になりたい。私は何があっても朱里を応援する。朱里が男の人と付き合って結婚しても、ずっと側で友達として支えたい』
『……ん』
その時の彼女の微笑みには、色んな意味が込められていた。
嬉しい、ありがとうもあるけれど、私にそう言わせてしまった申し訳なさもある。
だから、きちんとフォローしておいた。
『責任を感じなくていいからね。これは私が勝手に決めた事。もしかしたら、そのうち気持ちが変わるかもしれないし、その時はその時』
『そうだね。未来の事は分からない』
微笑み合ったあと、私は朱里の隣に座り、たわいのない話を始めた。
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『……だから私、朱里の事が何より大切なんです』
中村さんは俺をまっすぐに見て言う。
話を聞いて、彼女の印象が変わった。
――私のほうが朱里を想っているのに、ポッと現れたあなたが彼女の命を救うなんて。
俺を見ている中村さんの目の奥に、そんな感情が宿っているように思える。
だから俺は、彼女の気持ちを尊重する言葉を選んだ。
『君のほうが朱里を守れる。だからこれから先、様子がおかしいと思う事があったら支えてあげてほしい』
『はい』
返事をした彼女から『言われなくても』という雰囲気を感じ、俺は小さく笑う。
『あと、一つ注意してほしいんだけど……』
そう切りだして、俺は彼女のSNSアカウントの事を打ち明けた。
勿論、ストーカーと思われないように『心配になって検索したら見つけた』という点は強調しておいた。
『マジですか? あの子ったら、もう……』
中村さんは悲鳴じみた声を上げ、大きな溜め息をつく。
『朱里って大人びていて、一人で大丈夫っていう雰囲気がありますけど、結構ボーッとしているし、抜けてるんですよ』
『何となく分かる』
俺は同意し、クスッと笑った。
中村さんに大切な事は伝えたし、関わりを断つならこれで終わらせれば良かった。
そうすれば良かったのに――、つい口が動いてしまった。
『……俺は朱里さんの事を妹のように思っている。目の前で自殺されかけたのがショックで、どうしても気になってしまう、もし中村さんさえ良ければ、これから定期的に朱里さんの様子を教えてくれないか?』
――何言ってんだよ。
言ってしまってから、俺はもう一人の自分に毒づく。
――中学生を気に掛けてどうする? 世間からロリコンだと思われて終わりだ。
すぐ後悔して言い直そうと思ったが、その時には中村さんが得心顔で頷いていた。
『分かりました。私も朱里を守りたいです。時には年上の意見が必要になる時もあるかもしれませんから、その時は相談に乗ってください』
『……あ、あぁ……』
俺は溜め息混じりに頷き、中村さんと連絡先を交換してしまった。
そのあとカフェから出て、車で彼女を家の近くまで送り、帰路についた。
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