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見守るようになった理由 編

恋のはじまり

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 その日から、私は昼休みになると朱里を探して校舎裏へ来るようになった。

 ずっと近づきたかった彼女と、図らずも個人的に話す事ができたのは嬉しかった。

 あの痴漢に感謝なんてしたくないけれど、あれが朱里と仲よくなるきっかけになったのは確かだ。

 今まで一匹狼を貫いてきた朱里にとって、いきなり纏わり付いてきた私は鬱陶しい存在だったかもしれない。

 でも彼女は迷惑がらず、私が話しかけたら普通に会話をしてくれた。

『朱里ってどうしていつも一人でいるの? いじめられてる?』

 気になっていた事を尋ねると、彼女は苦笑いした。

『……色々言われてるのは分かってるけど、これといったいじめはないよ』

『良かった……。何かあったら絶対に言ってね』

『ん、ありがと』

 そのあと彼女は何かを考えたあと、溜め息混じりに呟く。

『……私、小五の時に生理がきたの。割と早めでしょ』

『う、うん』

 いきなり生理の話になり、私はためらいながら頷く。

『周りの皆はまだきてなくて、私がトイレでナプキンを替えてると〝今野さん、生理きたみたい〟って噂されるようになった。……そのうち皆にもくるものなのにね。でもその頃から、自分が周りから浮いてるように感じた。いじめられてはないけど、珍しいものを見る目で見られる。この通り発育もいいほうだし、……余計にね』

 彼女はふっくらとした胸元に手をやり、自嘲する。

『だから、皆から物珍しく見られるのは慣れてるの』

 その横顔を見てドキッとした私は、とっさに変な事を口走ってしまった。

『わ、私は、朱里は女らしくて素敵だと思うな。ほら! 私はぺったんこだし、憧れがある! 触ってもいい?』

 驚いたように目を見開いた朱里を見て、私は内心『間違えたー!』と絶叫する。

 今どき、幼稚園児だって『水着ゾーンを人に触らせたらいけません』って教わってる。

 なのに私ときたら……。

『いいよ』

『え?』

 けれど朱里はあっさり承諾して、私の手を握るとふくよかな胸に押し当てた。

『わ……っ……』

 手がフワァッ……としたものに沈んでいき、私は身震いして感動を覚えた。

 私は男の子っぽい振る舞いをしていたからこそ、本当は誰かに素の自分を見せ、甘えたかったのかもしれない。

 だから、母性の象徴とも思える乳房の柔らかさを知って衝撃を受け、余計に朱里に魅力を感じた。

『凄い……』

 私は夢中になって朱里の胸をフワフワと包み、触る。それからゆっくり揉み始めた。

『変な感じ……』

 朱里は苦笑いし、私はハッとなって顔を上げた。

 すると彼女の美しい顔が目の前にある事に気づき、その美少女ぶりに意識を奪われてしまう。

 ――綺麗……。

 ――好き……。

 気がつくと私は吸い寄せられるようにして、朱里にキスをしてしまった。

 キスなんて勿論した事がない。でも知識としては知っている。

 私は夢中になって、朱里のふんわりとした唇に自分のそれを重ねる。

 抱き締めると、彼女からはほんのりと甘い、いい匂いがした。

 彼女は抵抗しなかった。

 だから私は懸命に唇を押しつけ、そのあとも朱里を抱き締め続けた。

 しばらく、フワフワと幸せな気持ちに包まれていたけれど、私は次第に我に返り、真っ青になっていった。

 ――ど、どうしよう……。勢いに任せてなんて事を……。

『……ご、ごめん……』

『いいよ』

 体を離すと、朱里はまったく動じず微笑んでいた。

『痴漢に遭って恐かったよね。誰かの優しさに縋りたくなるの、分かるよ』

 ――違う。

 そう言われた途端、自分の気持ちを否定された感覚になり、ショックを受けた。

 朱里を好きだと思ったからキスをしたのであって、自分の弱さを誤魔化すためじゃない。

『私、朱里の事を……』

 告白しようと思ったけれど、彼女は私の唇をそっと指先で押さえた。

 それだけで、理解してしまった。

 朱里はキスをした事は怒ってはいないけれど、私の気持ちを受け取るつもりはない。

 悟った途端、物凄い羞恥に襲われた。

 カーッと赤面した私は、『ごめん!』と叫んでパッと走って逃げてしまった。
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