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見守るようになった理由 編

上村朱里さんとは友達?

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 朱里には申し訳ないが、友人に怪しまれるのを見越して、話す時には自殺未遂の事も含めて〝相談〟という体で打ち明けるつもりだった。

 俺はスマホを弄っているふりをして校門から少し離れた電柱の陰に立ち、学生たちをチラチラ見る。……我ながら本当にやべぇ。

(あ)

 やがて、見覚えのある茶色いダッフルコートに、チェックのマフラーを身につけ、風にロングヘアをなびかせた少女が校門から出てきた。

 平均より少し高めの身長の彼女は、間違いなく朱里だ。

 こちらに気づかないか息を潜めて見守っていたが、彼女は一緒に校門から出てきたショートヘアの友人に『バイバイ』と言って向こう側へ自転車を漕いでいった。

 友人はスマホを見ながら、こちら側に歩いてくる。

 ――仕方ない、今だ。

『すみません』

 勇気を出し、俺はショートヘアの少女に声を掛け、近づいた。

 俺は自分の容姿を客観的に理解している。

 恐らく、十人中八人は俺を見て『高身長のイケメン』と答えると思っている。

 だから愛想笑いをすれば、大抵の人には受け入れてもらえると踏んでいた。

 彼女も例外なく、自分に笑いかけてきた俺を見て〝男〟を意識し、立ち止まった。

『……な、何ですか』

 それでも〝知らない人に話しかけられた危機感〟はあるんだろう。彼女は学校のほうをチラッと見たあと、構わず歩き続ける。

 俺は付きまとっている様子を見せず、彼氏のように自然に彼女の隣を歩いた。

『今野朱里さんとは友達?』

 彼女の名前を聞き、ショートヘアの少女は目を見開き、歩を緩める。

『……どうして朱里の名前を……』

『大切な話があるから、少し付き合ってもらえないかな。不安なら人が大勢いる場所を選ぶし、時間はとらせない』

『でも……』

 少女はまだいぶかしがり、俺を胡散臭そうに見る。

『怪しむ気持ちは分かる。だが話したいのは朱里さんの命や、身の危険に繋がる事だ。……彼女、正月に愛知県に行ったと言っていなかったか?』

 彼女は目を見開き、驚いた様子で俺を見た。『どうして知っている?』という顔だ。

『俺は年末年始、一人で名古屋に行った。その時に偶然朱里さんと出会ったんだ。……彼女は旅先で、橋から飛び降りようとしていた』

 今度こそショートヘアの少女は、大きく息を吸って立ち止まった。

『……道理で……、様子がおかしいと思った……』

『君には言ってなかった?』

 穏やかに尋ねると、少女はコクンと頷いて提案してきた。

『場所を変えて話しませんか? 学校の周りはちょっと……』

『分かった。近くに車を停めているけど、中野を離れても大丈夫? 誓って変な事はしないし、もし様子がおかしいと思ったらすぐ通報して構わない。……でも一応、朱里さんの命を助けた男だと思って信頼してほしい』

『……分かりました。私、中村恵と言います。あなたは?』

『篠宮尊。二十歳の大学生だ』

 名乗ってから通っている大学名を伝えると、名のある大学だからか彼女の俺を見る目が変わった。

『じゃあ、行こうか』

 俺はポケットに手を入れて車のキーを確認し、駐車場に向かって歩き始めた。





 そのあと車で移動し、恵比寿に向かった。

 入ったのは以前来た事があるカフェで、店内に暖炉がある雰囲気のいい所だ。

『何でも注文していいよ』

『ありがとうございます』

 彼女はメニューを捲って迷ったあと、ニューヨークチーズケーキとカフェラテに決めた。

 俺はホットコーヒーを頼み、時間を確認してから一つ溜め息をつく。

 改めて中村さんを見ると、サラサラしたショートヘアと爽やかな顔立ちも相まって、スポーツが得意な皆の人気者という印象がある。

 勝手なイメージだが、中性的なので同性から人気がありそうに思えた。

『朱里が自殺しようとしていたって、本当ですか?』

 どうやって切り出そうか迷っていた時、先に中村さんが口を開いた。

 彼女はとても思い詰めた表情をしていて、親友なのに朱里の危機を知らなかった事へのショックが窺えた。

『……彼女がショックを受ける出来事に心当たりは?』

 尋ねると、中村さんはチラッと周囲を見てから小さめの声で答える。
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