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長い一月六日 編

告発

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 伊形社長がタブレットを奪おうとしたが、尊さんが高いところへ掲げてしまう。

 画面には、伊形社長が二十代前半の女性と路上でキスしている写真が写っていた。

 うわぁ……、どこまでやるんだろ、この男。

「伊形さん……っ、あなた、私みたいな年上の女性が好みだと……っ!」

 怜香さんが顔を真っ赤にして怒っているけど、さすがに今キレるとこ、そこじゃないだろ。

 亘さんを見ると、とても凪いだ表情をしていた。

 これが自分が引き起こした事の顛末、罰だと悟っている顔だ。

 風磨さんやエミリさんも、ショックを受けながらも、すべてを受け入れる表情をしている。

 春日さんは少し離れたところに立ち、腕を組んで事の成り行きを見守っていた。

 その時、亘さんが前に進み出て口を開いた。

「場所を移そう。真実を暴露するには、ここは人の往来が多すぎる」

 言われて、尊さんは「そうだな」と同意してタブレットをスリープにした。

 そのあと、私たちは全員が座れてゆっくり話せる場所――スイートルームに移動した。





 スイートルームに入るなり、怜香さんが怒鳴った。

「尊! 一体どういう事なの!? こんな事をしてただで済む訳……!」

 そんな彼女の前にスッと歩み出たのは、春日さんだ。

 彼女は静かに微笑み、一歩怜香さんのほうへ進み出る。

「『息子との結婚をぜひ』と言って三ノ宮家へ釣書を送っておきながら、当の風磨さんには好きな人がいる。これをどう説明するおつもりですか?」

 唐突に別の話をされ、淡々と言われたからか、怜香さんは戸惑って怒りを引っ込める。

 同時に、春日さんの存在を失念していたのか、「まずい」という顔をした。

「私だって、好きな人がいる相手と結婚したいなんて思いません。もし私と風磨さんが結婚すれば、彼は結婚後もエミリさんのもとに通うかもしれませんね。……二人が本当に想い合っていたなら、知らないところで子供が生まれてもおかしくありません」

 暗に自分たちの関係を指摘され、怜香さんは顔色を失う。

「親はうまくいかなかった自分の人生を、子供にやり直させる事があると聞きましたが、あなたは自分の子供に同じ過ちを繰り返させるつもりですか?」

「い……、いえ……」

 怜香さんはすっかり気圧されている。

「どうか三ノ宮家を怒らせないでください。あなたの当てつけに付き合うほど、我が家も私も暇ではないのです」

 静かに言った春日さんは、二十七歳と思えない威圧感を放っている。

 身長は二人とも同じぐらいなのに、春日さんのほうがずっと大きく見えるような迫力があった。

(……怒らせたら駄目な人だった……)

 私は彼女の静かな怒りを目の当たりにして、無言でビビりちらかす。

 チラッと尊さんを見ると、にいって満足げな顔をしていた。

 けれどその表情にいつもの余裕はなく、どこか切羽詰まったような雰囲気がある。

 ――どうしたんだろう。

 疑問に思っていた時、風磨さんが「座ったらどうですか?」言い、尊さんを除く七人がソファに座った。

 怒髪天を衝くような勢いで怒っていた怜香さんだったけれど、春日さんの言葉を受けてすっかり気を削がれてしまったようだ。

 尊さんは全員が座ったのを確認してから、ゆったりとした足取りで皆の前を歩く。

「この場にいる全員の前で、俺は篠宮怜香の罪を告発する」

「罪ですって!?」

 一度は落ち着いたものの、怜香さんはそう言われて声を上げる。

 そんな継母を、尊さんは見る者を凍り付かせるような目で見た。

 視線を受けて怜香さんは一瞬視線を泳がせ、それでも反発しようと口を開き掛ける。

 ――が、それより前に尊さんが決定的な事を言い、怜香さんを指さした。

「俺の母親、速水さゆりはその女に殺された」

「何だって!?」

 叫ぶように言った亘さんが、妻を見る。

「殺してなんかないわ! あの事故はブレーキとアクセルを踏み間違えた老人が、勝手に母子をひき殺したんじゃない!」

 怜香さんは弾かれたように立ち上がり、ヒステリックに叫ぶ。

 瞬間、尊さんが「はっ」と嘲笑した。

「『勝手に』? 普通なら新聞記事になった出来事に対して、そんな言葉は使わないと思うが」

 尊さんは据わった目で怜香さんを見て、低い声で言う。

 ……いや、ちょっと待って? 母子? 子って何?

 尊さんは目の前にいて、ピンピンしている。

 ……という事は、彼の兄弟がいた? そしてお母さんが亡くなった時に一緒に死んだ?

 まだ知らされていなかった彼の秘密に触れ、私は全身に鳥肌を立たせ、変な汗を掻く。
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