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クリスマスデート 編
許します!
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「……っ信じられない……っ」
私は自分が下着姿なのも忘れ、目を見開いてワナワナと唇を震わせ、拳を握る。
「どうしてそんな事を言う権利があるんですか? そりゃ、夫が浮気した女性も、その子供も憎たらしいかもしれないけど……! そんな……っ、――――そんな事、人間が言ったら駄目な言葉です!」
私は絞り出すように言い、ボロボロと涙を零した。
「うぅー……」
尊さんは泣き始める私を見て苦笑いし、立ちあがる。
そして私を抱き締め、背中をさすった。
「悪かった。泣かせるつもりはなかった」
「ちが……っ、私が聞きたがったから……っ」
私は涙声で言い、ブンブンと首を横に振る。
尊さんは私の顔を覗き込み、指で涙を拭ってから、チュッと私にキスをしてきた。
「……こうなると思っていたから、今まで謝りたくても言えずにいた」
「全部言ってください! あなたが面倒な男だなんて、とっくに分かってるんです。今さら私に遠慮しないでください……っ」
泣きながら訴えると、彼は切なげに笑って「そうだな」と頷いた。
「……だから俺は、ムシャクシャして朱里に当たっちまった。『女ぐらい抱ける。悦ばせられる』と思って、お前を強引に抱いた」
後悔に満ちた声を聞き、もっと悲しくなる。
「……あれは、私にとって尊さんとのきっかけだったんです。結婚するのにきっかけなんてどうでもいいって言ったの、あなたじゃないですか。そりゃ最初は『酷い』って思ったし、嫌いになったけど……、結局は好きになった。あなたと結婚したいと思うようになった。~~~~っ、あなたが、私たちの出会いを否定しないで……っ」
彼に抱きついて嗚咽し始めると、尊さんは私を抱き締め、また背中をさすった。
「悪かった。……そうだよな。あれは俺たちの出会いだった」
しばらく私はメソメソと泣き、尊さんは黙ってあやしてくれていた。
また二人でソファに座り、私はジャケットから香る彼の香りに包まれながら、ボソッと言った。
「これからも、ムシャクシャしたら抱いてくださいよ。パートナーの役目だと思っていますから」
「アホか。恋人同士だろうが、怒りに任せたセックスを許容したら駄目だ。お前は俺の大切な女なんだから、そんな事を言わないでくれ」
言ってから、尊さんは溜め息をつく。
「……だから、付き合うようになってお前を大切に想うたびに、どんどん言い出せなくなっていったんだ。三十二歳にもなって自分の感情を制御できず、部下に当たった。……最低だ」
彼の横顔を見て、私は唇を引き結ぶ。
尊さんほど理不尽な目に遭っている人はいない。
〝普通〟に生きてこられなかった彼は、怜香さんに踏みつけられる人生から脱却して、私と結婚し、幸せになると決意した。
でも否定され続けた彼の価値観が、すぐに普通の人のようになる訳がない。
期待したら裏切られると教え込まれ、でも今、私に期待してくれている。
何度も間違えて、手ひどい結果を迎え、それでも幸せになりたいと足掻いている。
私だって未熟だし、三十二歳で部長の尊さんだって、人生百年を思えばまだ小僧だ。
――私たちは、これからも何度だって間違える。
でもそのたびに、厳しい罰を設けなくたっていい。
間違えたら正解を知って、何回だってやり直していけばいいんだから。
彼を罰する事ができる存在なんて、いやしない。
もし尊さんに「生きている事そのものが罪」なんて言う人がいたら、私がぶっ飛ばしてやる。たとえそれが、怜香さんであっても。
私は傷付いた彼を見て、バッと両腕を広げた。
「……なんだよ。ハグ?」
私はいぶかしむ尊さんに笑いかけ、ギュッと彼を抱き締めた。
「許します!」
言ってから少し顔を離すと、彼は目を丸くして驚いていた。
「私は尊さんを許します! あなたが申し訳なく思った相手は私。その私が『許す』と言っているんだから、これ以上悩む必要はありません」
「……でも……」
「悪いと思うなら、今度お酒とお肉、お寿司とスイーツをご馳走してください。それで完璧にチャラ!」
彼は少しの間ポカンとしていたけれど、屈託なく笑い始めた。
「……っ、お前……、最高だな! やっぱ好きだわ」
いつも皮肉っぽい笑い方しかしない尊さんが、心の底から笑ってる。
勝った!
彼を捕らえているドロドロとしたしらがみ、過去に、とりあえず一勝した。
尊さんを笑わせられて、とっても嬉しい。
私は偉業を成し遂げた気になり、めちゃくちゃどや顔をした。
私は自分が下着姿なのも忘れ、目を見開いてワナワナと唇を震わせ、拳を握る。
「どうしてそんな事を言う権利があるんですか? そりゃ、夫が浮気した女性も、その子供も憎たらしいかもしれないけど……! そんな……っ、――――そんな事、人間が言ったら駄目な言葉です!」
私は絞り出すように言い、ボロボロと涙を零した。
「うぅー……」
尊さんは泣き始める私を見て苦笑いし、立ちあがる。
そして私を抱き締め、背中をさすった。
「悪かった。泣かせるつもりはなかった」
「ちが……っ、私が聞きたがったから……っ」
私は涙声で言い、ブンブンと首を横に振る。
尊さんは私の顔を覗き込み、指で涙を拭ってから、チュッと私にキスをしてきた。
「……こうなると思っていたから、今まで謝りたくても言えずにいた」
「全部言ってください! あなたが面倒な男だなんて、とっくに分かってるんです。今さら私に遠慮しないでください……っ」
泣きながら訴えると、彼は切なげに笑って「そうだな」と頷いた。
「……だから俺は、ムシャクシャして朱里に当たっちまった。『女ぐらい抱ける。悦ばせられる』と思って、お前を強引に抱いた」
後悔に満ちた声を聞き、もっと悲しくなる。
「……あれは、私にとって尊さんとのきっかけだったんです。結婚するのにきっかけなんてどうでもいいって言ったの、あなたじゃないですか。そりゃ最初は『酷い』って思ったし、嫌いになったけど……、結局は好きになった。あなたと結婚したいと思うようになった。~~~~っ、あなたが、私たちの出会いを否定しないで……っ」
彼に抱きついて嗚咽し始めると、尊さんは私を抱き締め、また背中をさすった。
「悪かった。……そうだよな。あれは俺たちの出会いだった」
しばらく私はメソメソと泣き、尊さんは黙ってあやしてくれていた。
また二人でソファに座り、私はジャケットから香る彼の香りに包まれながら、ボソッと言った。
「これからも、ムシャクシャしたら抱いてくださいよ。パートナーの役目だと思っていますから」
「アホか。恋人同士だろうが、怒りに任せたセックスを許容したら駄目だ。お前は俺の大切な女なんだから、そんな事を言わないでくれ」
言ってから、尊さんは溜め息をつく。
「……だから、付き合うようになってお前を大切に想うたびに、どんどん言い出せなくなっていったんだ。三十二歳にもなって自分の感情を制御できず、部下に当たった。……最低だ」
彼の横顔を見て、私は唇を引き結ぶ。
尊さんほど理不尽な目に遭っている人はいない。
〝普通〟に生きてこられなかった彼は、怜香さんに踏みつけられる人生から脱却して、私と結婚し、幸せになると決意した。
でも否定され続けた彼の価値観が、すぐに普通の人のようになる訳がない。
期待したら裏切られると教え込まれ、でも今、私に期待してくれている。
何度も間違えて、手ひどい結果を迎え、それでも幸せになりたいと足掻いている。
私だって未熟だし、三十二歳で部長の尊さんだって、人生百年を思えばまだ小僧だ。
――私たちは、これからも何度だって間違える。
でもそのたびに、厳しい罰を設けなくたっていい。
間違えたら正解を知って、何回だってやり直していけばいいんだから。
彼を罰する事ができる存在なんて、いやしない。
もし尊さんに「生きている事そのものが罪」なんて言う人がいたら、私がぶっ飛ばしてやる。たとえそれが、怜香さんであっても。
私は傷付いた彼を見て、バッと両腕を広げた。
「……なんだよ。ハグ?」
私はいぶかしむ尊さんに笑いかけ、ギュッと彼を抱き締めた。
「許します!」
言ってから少し顔を離すと、彼は目を丸くして驚いていた。
「私は尊さんを許します! あなたが申し訳なく思った相手は私。その私が『許す』と言っているんだから、これ以上悩む必要はありません」
「……でも……」
「悪いと思うなら、今度お酒とお肉、お寿司とスイーツをご馳走してください。それで完璧にチャラ!」
彼は少しの間ポカンとしていたけれど、屈託なく笑い始めた。
「……っ、お前……、最高だな! やっぱ好きだわ」
いつも皮肉っぽい笑い方しかしない尊さんが、心の底から笑ってる。
勝った!
彼を捕らえているドロドロとしたしらがみ、過去に、とりあえず一勝した。
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