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篠宮家 編

妬くなよ

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「勿論です。私は風磨さんしか愛しませんから」

 彼に確認されたエミリさんは、微笑んで頷く。

「そうだ。こいつ、俺がエミリに傾くかも……って心配してるんだけど、ちょっと励ましてくれる?」

「ちょっ……っ、何言ってるんですか! あの、そ、そうじゃなくて……!」

 いきなり尊さんが爆弾をぶっ込んでくるので、私は目を剥いて彼のジャケットの袖を引っ張った。

 その様子を見た風磨さんとエミリさんに、クスクス笑われてしまう。

「尊さんは相変わらず意地悪ですね」

 エミリさんに言われ、尊さんはニヤリと笑う。

 私は彼女が尊さんの〝素〟を知っているのかと、キョトンとして尋ねた。

「え……、この人の性格が悪いって知ってるんですか?」

「朱里、言い方」

 尊さんがボソッと言って突っ込む。

 何回も「俺は性格悪い」って言ってるくせに、こういう時、いっちょまえに気にするんだな……。

 そしてエミリさんは、まったく動じずに微笑む。

「良かった。朱里さんは尊さんの性格が悪いって、ちゃんと知ってたんですね」

 エミリさん、分かってる……。

 私は彼女にシンパシーを感じ、コクリと頷いた。

「あ、『〝知ってる〟感を出す女』って不快に感じたらごめんなさい。私、風磨さんとは入社してすぐに付き合って、もう六年の付き合いになるの」

「六年! それは凄いですね! むしろ今までどうして結婚しなかったのか……、あっ」

 言ってしまってから、自分が失言したと気づいた。

 結婚できるなら、とっくにしてるだろう。あの母親がいたからできなかった訳で……。

 けれど風磨さんもエミリさんも、気を悪くした様子はなく笑っている。

「だから尊さんとも相応の付き合いがあるの。少し訳アリの兄弟だけれど、風磨さんはいい人だし、尊さんはひねくれているけれど悪い人じゃない。彼は私たちの仲に気づいても、お母様には言わずにいてくれた。その干渉しすぎない対応には、本当に感謝しているの」

 確かに尊さんなら、あまり関わらずに放置していそうだな。

 むしろ、関わって面倒になるのを避けた……とも言えるけど。

「母は僕が二十四歳の頃から、頻繁に見合い話を持ってくるようになった。由緒正しい家の令嬢や、大企業の社長の娘……。見せられた見合い写真は数え切れない」

 風磨さんが言い、水を一口飲む。

「『仕事が楽しいから』と言って断り続けて『自分でいい人を見つける』とも言った。けど、正直あまりいい縁がなくて、積極的に女性と関わりたくないと思っていた。……こう言うと自慢のように聞こえるが、女性に好かれやすいんだ。でも彼女たちは僕の家や会社、外見や金や、持っている車とか……そういうものしか見ていない」

 彼は悲しげに言い、溜め息をつく。

「それでも独り身は寂しいし、……言いづらいけど、性欲もあった。誰かと付き合いたいという願望は持っていて、でも立場上、軽率な行動はできない。合コンは気が進まないし、どこに行けば、本当に自分を想ってくれる女性と付き合えるか、まったく分からなかった」

 すべてを兼ね揃えた男性の悩みを聞き、私は溜め息をついた。

 セレブは何にも困らないと思っていたけど、贅沢な悩みを持ってるんだなぁ。

 仕事にもお金にも困っていなかったら、やっぱり愛を求めるんだろう。

 でも〝本物〟しか欲しくない。

「エミリが入社してすぐ彼女に惹かれた。彼女も僕を気にしてくれて、そうなるのが決まっていたように交際し始めた。彼女とは価値観も何もかもすべてが合った。本当にエミリ以上の女性はいない。だから絶対に結婚したいんだ」

「そこまで思えるの、素敵ですね。憧れちゃう」

 私がそう言うと、尊さんがゆーっくりこちらを向いて、ジーッと見つめてきた。

 妬くなよ。

 いつも言われている事を言ってやりたいけど、今は駄目だ。

 視線も合わせないぞ。

 私が頑なな態度を取っていると、尊さんは小さく舌打ちして前を向いた。

 ……あとが恐いな。

「母はずっと、尊の母親に嫉妬し続けているのだと思う。尊が篠宮家に来てから、母の様子はどんどんおかしくなっていった。もともと少し高慢なところはあったが、誰かに理不尽な事を強いる人ではなかったと思う」

 風磨さんが言ったあと、前菜が運ばれてきたので、私たちは食事を始めた。

「俺がこうやって母を庇えば、尊は何も言えなくなるな。……すまない」

「いいよ。子供が生まれて十三年目で〝弟〟がいると知れば、そりゃ怒り狂うだろう。確かに俺は、あの人に母親らしい態度をとられた事はない。でも衣食住に困らなかったし、いい大学にも行けたし、環境は恵まれていたと思うよ」

 尊さんはいつもと変わらない、落ち着いた態度で答える。

「俺が篠宮フーズで大人しくしているのは、他の会社に入ればあの人の影響でパワハラに遭うと予想したからだ。余計なストレスを感じるぐらいなら、怜香さんの目が届くところで従順にやってたほうが楽だろ?」

 ……それは聞いてなかった。
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