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篠宮家 編

あれ、嫉妬しました?

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 最後に「低学歴」って本音が出たな……。

 ついでに「ブスの貧乏人」まで言ってくれたらフルコンボなのに。

 私は悔しい気持ちを、茶化して誤魔化そうとする。

「上村さん、申し訳なかった。妻はあの通り、気難しい性格をしている」

 意外にも社長が謝ってくれたので、私は「いえ」と首を横に振る。

「私と風磨は、君と尊の結婚に反対しない。むしろずっと今まで決まった女性と付き合わなかった尊が、ようやく見つけた女性なら祝福したいと思っている」

「ありがとうございます」

 社長とお兄さんは常識人なんだな。

 篠宮フーズは上場企業だし、経営者一族はかなり上流階級な人たちだ。

 私のような下々の存在に気を遣わない……と思いきや、以外と優しい。

 そんな私の気持ちを察したのか、風磨さんが苦笑いした。

「もしかしたら、社長や副社長といえばとっつきにくい、嫌みな存在と思っているかもしれないが、僕たちは自分の事を普通だと思っている。必要な時は惜しまず金を使うけど、一人だと牛丼店にも入るし、コンビニで〝おじゃがっこ〟も買う」

「あっ、〝おじゃがっこ〟美味しいですよね。私はチーズ味が好きです」

 好きなお菓子の話題が出てのっかると、風磨さんは笑顔になった。

「先ほど言ったように、秘書や一般社員を見下したりもしていない。人を学歴や生まれなどでも見ていない。大切なのは、その人の物の見方や価値観、為人ひととなりだと思っている。僕から見れば、上村さんは母に罵倒されても動じない、できた女性だ」

「ありがとうございます」

 こうやって話してみると、副社長、いい人だな。

 尊さんが弟として篠宮家に入ったあと、戸惑いながらも優しくしてくれたっていうのは、きっと本当なんだ。

 チラッと尊さんを見たけれど、彼はこれといった表情を浮かべず前を向いている。

「妻にはまた日を改めて話したほうがいいだろう。尊がせっかく見つけた女性なのに、彼女の一存で拒絶する訳にいかない。……それに私は、丸木さんとの話にも反対だった」

 社長が言ったあと飲み物が運ばれてきて、私たちはとりあえず、よく分からないまま乾杯した。

「……あの、失礼ですが、丸木さんって秘書の方ですよね?」

 そろりと尋ねると、風磨さんが苦笑いした。

「やっぱり社内で噂にはなってるか。でも隠すつもりはないからいいけど。……そうだよ。僕は秘書のエミリと恋人同士だ」

「応援しています」

「ありがとう」

 私がそういうと、風磨さんは人なつこい笑みを浮かべた。

 そのあと食事が運ばれてきた。

 当日になって怜香さんが食べずに帰ったので、彼女の分を三人で分けて食べるというのも変なので、キャンセルした分は尊さんが支払う事になった。

 ……どこまで迷惑掛けてんだ。

 そんな感じで、尊さんのご家族との挨拶が終わった。

 帰り際、風磨さんが声を掛けてきた。

「上村さん、もし良かったら今度エミリも加えて四人で会わないか? 情報共有をしておきたいんだ」

「はい、私は構いません」

 返事をすると、風磨さんは名刺の裏にプライベートの連絡先を書き、渡してくれた。

 尊さんと結婚するんだから、お兄さんと親しくなるのは当然だ。

 でもこれを知られたら、社内の女性ほぼ全員を敵に回すだろう。

(慎重に行動しないと)

「親父、兄貴、念には念を入れておくけど、朱里との事は内密に」

 最後に尊さんが念を押し、二人とも周囲には黙っておくと約束してくれた。





 日本料理店を出たあと、私たちは近くのカフェに移動した。

 尊さんはコーヒーのみだけど、私はどうせなのでパフェ活をする。

 彼に「すげぇ胃だな」と言われたけど構っていられない。低学歴によるやけ食いだ。

「悪かったな。ああなるとは分かっていたけど、やっぱりだった」

「いえ。ひとまずどんな人なのか、知る事ができて良かったです」

 まずは敵の情報を知らないと、対策も練られない。

「おいし」

 私はパクパクとパフェを食べつつ、向かいに座っている尊さんを盗み見する。

 彼は長い脚を組んで腕も組み、窓の外を見ている。

 ……なんか機嫌悪い? やっぱり怜香さんが爆発したから、気分悪くしたのかな。

「あの、怒ってます?」

 尋ねると、彼はチラリと私を見て頷いた。

「まぁな。誰かさんがやけに兄貴に好意的に接してたから」

「あれ、嫉妬しました?」

 そう言われて、一気にテンションが上がってしまった。
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