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初デート 編

上位互換の上書き

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「なんだよ」

 彼は甘い声で言い、もう一度私の喉をくすぐった。

「……ううん、何でもないです」

 ――あれは、私だけの秘密にしておこう。

 心の中で呟き、私は背中を向けたまま小さく微笑んだ。

「話は戻るけど、クリスマスはお前とゆっくり過ごしたいから、その前に会ってもらう」

「……はい」

 言われて、現金にも嬉しくなってしまった。

「……へへ」

「なんだよ」

「……いや、今年もクリぼっちかと思ってたんですが、意外なところで拾う神がいたな、って」

「あー、去年フラれたんだっけか」

「そう! しかも誕生日に言わなくてもいいと思いませんか!? 何も言わないから期待して当日のサプライズを待ってたら……。…………あああああ! 腹立ってきた!」

「落ち着け」

「ひゃんっ」

 尊さんが私の耳元で言い、耳たぶをしゃぶってきたので私はつい悲鳴を上げてしまった。

「……毎年、田村クンとどんなふうに過ごしてたワケ?」

 興味なさそうに尋ねられ、私は「はーっ」と溜め息をついて答える。

「……フレンチとかイタリアンとか、毎年美味しそうなお店を見つけてコース料理を食べました。で、ちょっといいホテルに泊まって、美味しいケーキを食べて、プレゼント交換を……」

「普通だな」

「……いや、恋人のデートとしては普通かもしれませんけど、当時は楽しかったんですよ」

「……普通だけど、俺も同じプランでいくか」

「え?」

 てっきり彼の事だから、昭人がしなかった事をするのだと思っていた。

「上位互換の同じ事をして、上書きするに決まってるだろ」

「うっわ……、性格悪い……」

「何を今さら」

 尊さんは軽やかに笑い、私もそんな彼に慣れてきて、思わず笑ってしまっていた。





 十分温まってお風呂から上がったあと、今度はきちんと体を拭いて、スキンケアをする。

 その間、尊さんは私の髪をドライヤーで乾かしてくれた。

(……昭人はこういうの、やってくれなかったな)

 付き合っていた頃、彼はいい彼氏でいてくれたけれど、尊さんほど私を甘やかしてはいなかった。

 昭人は私の大人びたところに惹かれたと言っていたから、私を甘やかす発想はなかったんだと思う。

 その反動で加代さんみたいに可愛くて、ちょっと手が掛かりそうな人を選んだんだと思うけど。

(……あぁ。もう戻れないと分かっていても、あの二人の事を考えるとムカムカするな)

 溜め息をつき、鏡越しに真剣な顔で私の髪を乾かしている尊さんを見る。

(……いい男だな)

 見た目は申し分ないぐらい格好いい。

 ちょっと気怠そうで、やる気があるんだかないんだか分からない雰囲気をしているけど、そこがいいという女性社員もいる。

 身長は高いし体もしっかり鍛えていて、私好みのいい体。

 高収入で頭も良くて、実は社長の息子。性格は悪いけど、私とは気が合うと思う。

 ……捨てる神あれば拾う神あり。彼に拾われて良かったじゃない。

 私は自分に向かって語りかけ、鏡の中の自分に小さく微笑みかける。

「尊さん、宜しくお願いします」

 私は彼に向かって小さな声で告げる。

 けれどその声はドライヤーの音にかき消され、尊さんの耳には届かなかった。





「おやすみ」

「おやすみなさい。……あの、今度お泊まりデートする時は挽回しますので」

 やっぱりエッチを途中で終わらせてしまったのは、申し訳ない。

「いいって。あんま気にすんな」

 尊さんは私の頭をクシャッと撫で、こちらを向いて横臥すると、私の脚に脚を絡めて息を吐く。

「……久しぶりにゆっくり眠れそ……」

 そう言った彼の言葉を聞いて、「普段眠れないんですか?」と聞こうかと思ったけれど、安眠させてあげたいと思ってやめておいた。

「おやすみなさい」

 私はもう一度小さく言い、尊さんの胸板に顔を寄せて目を閉じた。



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