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初デート 編

分からないの

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 気持ちよさのなか、私は不安を抱いた。

 ――彼が求めているのが、私の体だけだったらどうしよう。

 名器だと言われたし、最初はセフレとも言われた。

 男性に心底愛された経験のない私は、――土壇場でビビってしまったのだ。

「朱里」

 尊さんが優しい声で名前を呼び、私の体を仰向けにさせる。

「……なに泣いてんだよ」

 彼はいつの間にか流れていた私の涙を拭い、その指を舐めた。

「ごめ……っ、なさい……」

「謝るなよ。どうしてほしい? 優しくしてほしい?」

 尊さんは私の上に覆い被さり、私の頬を両手で包んで額にキスをしてきた。

「……優しく……、……して。……愛されてるって、思いたい……」

 いたわるような眼差しで尋ねられたからか、私はポロッと本音を漏らしてしまった。

「ずっと……っ、愛されるって分からなかったの……っ。母は私を愛してくれたけど、途中から継父や新しい家族を気遣うようになって、理解してくれる人がいなくなったように感じた……っ。友達はいるけど、同性だし一番大切にすれば、彼女たちの彼氏にまで嫉妬してしまう。……だから……っ、昭人に依存していたけど……っ」

 私は震える手で目元を拭う。

「分からないの……っ! 好きってなに? 愛してるってどんな感情? エッチしてる時に、どう反応したらいいのか分からないの……っ! いやらしい事を言われて、胸が大きいとか、アソコの事とか言われて、……喜んでいいの?」

 今まで、誰にもこんな事聞けなかった。

 心の思うままに、嫌だったら嫌と言っていいと分かっている。

 けれど世間のカップルはどんなふうに愛し合い、どう〝普通〟に過ごしているのか分からない。

 私は昭人しか知らないし、恋愛経験は彼しかいない。

 昭人との付き合い方、セックスが間違えていたら、尊さんと過ごす時に誤った知識のまま望んでしまうかもしれない。

 ――何もかも、分からない。

 尊さんは声を震わせて泣く私の髪を、しばらく優しく撫でていた。

「……こうされるのは好きか? 気持ちいい?」

 頭を撫でられ、尋ねられる。

 私は無言でコクンと頷いた。

「じゃあ、これは?」

 尊さんは私の頬を両手で包み、額、鼻先、そして唇にキスをしてきた。

「……好き」

「なら、胸に触られるのは?」

 彼は私の乳房を包み、左右からすくい上げるように寄せ集め、円を描くように揉んでいく。

「……恥ずかしい……、けど……」

「恥ずかしい? 俺はとても綺麗だと思うけど。大きいのに胸の形が良くて最高だ。俺だけの宝物にして、これからずっと朱里の胸だけ愛でていきたい」

「……ずっと男の人に、やらしい目で見られてきたし、友達からはからかい混じりに『羨ましい』って言われてた。継妹にはハッキリとは言われなかったけど、『胸で男を誘惑してる』みたいな事を言われて……。あまりいいものと思えてなかった」

 小さな声で告白すると、尊さんが首を傾げた。

「それは全部他人の価値観だろ? ただの性欲や嫉妬だ。……朱里自身は自分の胸をどう思ってる? こんなにスベスベしてて綺麗なのに、手入れしてないなんて言わせないぞ」

「……保湿とか、……してるけど……」

 ボソッと呟くと、彼はクシャリと髪を撫でてきた。

「なら大切にしてるだろ。自分の体の一部なんだから、他人に何か言われたぐらいで動じるなよ。無責任な言葉でお前の価値を下げるな」

「…………っ」

 ポロッと新しい涙が零れる。

 ――今まで、こんなふうに言ってくれた人なんて、誰一人としていなかった。

 男の人は皆欲混じりの目で私を見て、昭人だって恋人の胸が大きい事を周囲に誇っていた。

 昭人はいつも私を見る時、絶対に胸元を見た。

 当時は昭人が喜んでくれるなら……と思ったけど、同時に「もしも私の胸が小さくても付き合ってくれたのかな?」と疑問を抱いた。

 そして昭人にとっての私の価値は、中身なのか胸なのか、他の何かなのか分からなくなっていった。

「……尊さんは……、私の胸、好き?」

 小さな声で尋ねると、彼は私の頬にキスをした。

「好きだよ。でもお前の胸だから好きだ。仮にお前がちっぱいでも、何も変わらない」

 改めて言葉にされて、ずっと抱えてきたわだかまりがスッと解けていった。

「朱里は可愛いよ。本当は不器用で、恋愛に慣れてなくて、体当たりするような恋しかできない。なのに強がって、傷付かないように必死に頑張ってる。……俺はお前のそういうところが好きだ。顔や体も好きだけど、歳を取ったらそれも変わっていく。若くていい体だから惚れたなら、十年、二十年経ったら捨てられる? んなアホな」

 尊さんは、フハッと笑い、私の髪をクシャクシャ掻き混ぜる。
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