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初デート 編
お前のそういうところ好きだよ
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私は溜め息をつき、一口大にカットされたお肉を食べる。
美味しい。
……けど。
ゴクンと口の中にあったものを嚥下し、溜め息をついて涙を流す。
「……悪かった。お前と二人きりになりたくて飯に誘ったけど、こんな話をして食うもんじゃなかったな」
グスッと洟を啜った私の背中を、尊さんがポンポンと叩いてくる。
「……いえ。タダ飯ですし」
私は前方にある窓越しに夜景を睨み、もう一つお肉を口に入れた。
「ははっ、お前のそういうところ好きだよ。生命力を感じる。朱里はどんな状況になっても、諦めずに這いずって進む泥臭さがある。……俺はそういう『何が何でも』っていう意志の強さがないから、自分に欠けたものを持っているお前に惹かれたのかもな」
またこの人は笑う。
何があっても、どんなにつらく理不尽な事があっても、軽く笑って受け流してきたんだろう。
「……いつか、ちゃんと笑えるようになれたらいいですね。私が笑わせてあげたいです」
私がそう言うと、彼は一瞬驚いたように瞠目した。
そしてまたシニカルに笑う。
「そうなれたらいいな」
彼はそれ以上、自分の話をしなかった。
まだまだ、色んな話があると思う。
けれど一度に言っても私が混乱するだけだし、せっかくの食事が台無しになると思って、もう今日は何も言わないと決めたようだった。
「……おいし」
食後は苺を使ったデザートが出た。
尊さんはあまり甘い物が得意じゃないみたいで、「食べるか?」と自分の分も私に譲ってくれた。
すっかり食いしん坊認定されてるみたいで恥ずかしいけど、甘い物は別腹だし、今さら彼に恥じらいを持っても仕方がない。
「このあとどうする? どっか寄る? 帰る?」
コーヒーを飲んでいる尊さんに尋ねられ、私はぼんやりと夜景を見ながら考える。
「……私の話を聞いてもらってもいいですか?」
「勿論。ホテルで? お前の家?」
「じゃあ、ホテルで。ラブホでいいですよ」
「初めてお前とホテル行くっていうのに、安く済ませたくねぇよ」
尊さんはクツクツと笑って私の頭を撫でる。
「酔ってないか? 飲ませるような事を言ったのは俺だけど、白も赤もカパカパいってたな」
「お高いワイン、美味しかったです」
「お前は酒が強くて頼もしいよ」
尊さんは笑い、コーヒーをもう一口飲んだ。
**
レストランを出た私たちは、そのまま近くにある高級ホテルに向かった。
予約もなしにいきなりこんなホテルに入って、泊めてくれるんだろうか? と思ったけれど、どうやら尊さんが持っているカードの恩恵らしい。
「こういうホテルって、満室にはしないわけ。上客に急用があった時、コンシェルジュが手配して空いてるホテルに連絡を入れてくれる」
「へぇ……。雲の上の世界。失礼ですが、尊さんって御曹司な訳ですが、部長職でも色々……?」
金銭的な事を聞くのは失礼だけれど、そんなにお金持ってるのかな? と不思議に思ってしまった。
「まー、篠宮家に入ったあとは、身を守るためにとことん金を作ったな。父もそういう事に関しては協力的だったよ。投資やら何やら教えてくれた。母が俺のために遺していた金もあったし、現金を残しつつ余剰金でちょいちょい、と」
ばか広い部屋で、私たちはソファに座って会話をしていた。
いわゆるスイートルームというやつで、泊まれるのは嬉しいしテンション上がるけど、一晩を過ごすためにこんな部屋をとるのは勿体ない。
泊まった所は日系ホテルで、内装は奥ゆかしい上品さがあり、華美ではない。
私はシンプルなインテリアが好きなので、初めて訪れたスイートルームだというのに、なぜだか寛いでしまっていた。
私はヒールを脱いで長ソファに横向きに座り、フカフカのクッションを抱える。
「簡単そうに言いますねぇ」
「相場がどうなるかは分からないけど、学んだら楽しいよ」
「ふぅん……」
私は曖昧な返事をして、ワイングラスに入った濃厚な葡萄ジュースを飲む。
コトンとグラスをテーブルに戻したあと、ふぅ、と息を吐いて口を開いた。
「私、中学一年の時に父を亡くしているんです」
自分と似た身の上だからか、向かいの長ソファに座っている尊さんが微かに瞠目する。
美味しい。
……けど。
ゴクンと口の中にあったものを嚥下し、溜め息をついて涙を流す。
「……悪かった。お前と二人きりになりたくて飯に誘ったけど、こんな話をして食うもんじゃなかったな」
グスッと洟を啜った私の背中を、尊さんがポンポンと叩いてくる。
「……いえ。タダ飯ですし」
私は前方にある窓越しに夜景を睨み、もう一つお肉を口に入れた。
「ははっ、お前のそういうところ好きだよ。生命力を感じる。朱里はどんな状況になっても、諦めずに這いずって進む泥臭さがある。……俺はそういう『何が何でも』っていう意志の強さがないから、自分に欠けたものを持っているお前に惹かれたのかもな」
またこの人は笑う。
何があっても、どんなにつらく理不尽な事があっても、軽く笑って受け流してきたんだろう。
「……いつか、ちゃんと笑えるようになれたらいいですね。私が笑わせてあげたいです」
私がそう言うと、彼は一瞬驚いたように瞠目した。
そしてまたシニカルに笑う。
「そうなれたらいいな」
彼はそれ以上、自分の話をしなかった。
まだまだ、色んな話があると思う。
けれど一度に言っても私が混乱するだけだし、せっかくの食事が台無しになると思って、もう今日は何も言わないと決めたようだった。
「……おいし」
食後は苺を使ったデザートが出た。
尊さんはあまり甘い物が得意じゃないみたいで、「食べるか?」と自分の分も私に譲ってくれた。
すっかり食いしん坊認定されてるみたいで恥ずかしいけど、甘い物は別腹だし、今さら彼に恥じらいを持っても仕方がない。
「このあとどうする? どっか寄る? 帰る?」
コーヒーを飲んでいる尊さんに尋ねられ、私はぼんやりと夜景を見ながら考える。
「……私の話を聞いてもらってもいいですか?」
「勿論。ホテルで? お前の家?」
「じゃあ、ホテルで。ラブホでいいですよ」
「初めてお前とホテル行くっていうのに、安く済ませたくねぇよ」
尊さんはクツクツと笑って私の頭を撫でる。
「酔ってないか? 飲ませるような事を言ったのは俺だけど、白も赤もカパカパいってたな」
「お高いワイン、美味しかったです」
「お前は酒が強くて頼もしいよ」
尊さんは笑い、コーヒーをもう一口飲んだ。
**
レストランを出た私たちは、そのまま近くにある高級ホテルに向かった。
予約もなしにいきなりこんなホテルに入って、泊めてくれるんだろうか? と思ったけれど、どうやら尊さんが持っているカードの恩恵らしい。
「こういうホテルって、満室にはしないわけ。上客に急用があった時、コンシェルジュが手配して空いてるホテルに連絡を入れてくれる」
「へぇ……。雲の上の世界。失礼ですが、尊さんって御曹司な訳ですが、部長職でも色々……?」
金銭的な事を聞くのは失礼だけれど、そんなにお金持ってるのかな? と不思議に思ってしまった。
「まー、篠宮家に入ったあとは、身を守るためにとことん金を作ったな。父もそういう事に関しては協力的だったよ。投資やら何やら教えてくれた。母が俺のために遺していた金もあったし、現金を残しつつ余剰金でちょいちょい、と」
ばか広い部屋で、私たちはソファに座って会話をしていた。
いわゆるスイートルームというやつで、泊まれるのは嬉しいしテンション上がるけど、一晩を過ごすためにこんな部屋をとるのは勿体ない。
泊まった所は日系ホテルで、内装は奥ゆかしい上品さがあり、華美ではない。
私はシンプルなインテリアが好きなので、初めて訪れたスイートルームだというのに、なぜだか寛いでしまっていた。
私はヒールを脱いで長ソファに横向きに座り、フカフカのクッションを抱える。
「簡単そうに言いますねぇ」
「相場がどうなるかは分からないけど、学んだら楽しいよ」
「ふぅん……」
私は曖昧な返事をして、ワイングラスに入った濃厚な葡萄ジュースを飲む。
コトンとグラスをテーブルに戻したあと、ふぅ、と息を吐いて口を開いた。
「私、中学一年の時に父を亡くしているんです」
自分と似た身の上だからか、向かいの長ソファに座っている尊さんが微かに瞠目する。
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