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初デート 編
元彼との遭遇
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「その、忖度しないところいいよな。信頼できる」
「そう受け取ってもらえるならありがたいですが、言ってしまえば可愛げのない性格ですよね」
私はあまり、自分の性格が好きじゃない。
もう少し空気を読めばいいのに、ズバッと言っちゃうから誤解を招く事もある。
「人に寄りけりじゃないか? 俺は何を考えてるか分からない奴より、朱里みたいに思った事を素直に言う人のほうが好きだし、『裏がない』と信頼できる」
「……あ、あるかもしれませんよ? 〝裏〟」
そういうと、尊さんはジーッと私を見て、ポツンと言う。
「……ないだろ」
「いや、何かソレ失礼じゃないです?」
思わず突っ込んだ私の反応を見て、彼は楽しそうに笑った。
そのあと、お上品に二切れのみの牛肉のロースト、ドルチェが出てコーヒーを飲んだ。
ランチのあとは美術館をまわり、展望台にも行った。
東京に住んでいて、展望台なんて……と思うけれど、地元民はなかなか観光地にいかないのがセオリーなので、逆に新鮮だった。
デートの間、尊さんはずっと優しく接してくれた。
昭人とはいつの間にか手を繋がなくなっていたけど、尊さんは「手、繋いでもいいか?」と確認してから大きな手でキュッと握ってきた。
それもまた新鮮で、相手は私をセフレ扱いした人なのに、ドキドキしてしまう。
歩いていても、歩幅を合わせてくれる。
エスカレーターやエレベーターでは、レディファースト。
夜にお洒落なレストランに行くと言うから、ヒールのある靴を履いてきたけど、ちょくちょく「足疲れてないか?」と気に掛けてくれた。
特にドキッとするような、ドラマチックな口説き文句を言われた訳じゃない。
なのに、そういうさり気ないところで気遣われ、「大切にされてる?」と勘違いしてしまいそうになった。
――尊さんと付き合ったら、大切にしてもらえるのかな?
ついそう考えてしまう自分がいて、「チョロすぎでしょ」ともう一人の自分が突っ込みを入れる。
彼と過ごしていて、気づいた事は他にもある。
圧倒的に声がいい。
声優みたいないい声をしていて、その声と話していると、耳から幸せになって気持ちがフワフワしてくる。
昭人は少し高めの声だったけど、尊さんの低い声を聞いているとゾクゾクしてしまう。
それに尊さんはいい匂いがする。
昭人も高級ブランドの香水をつけていた。
でも尊さんがつけている香水もとてもいい匂いで、彼の印象に合っている。
何だかんだいって、私は彼にとても魅力を感じている。
(悔しいけど、それは認めるしかないな)
時間は夕方になり、レストランに向かうために私たちは東京メトロに乗るべく、六本木五丁目駅に向かって歩いていた。
「そうだ、最初はフレンチっていったけど、肉食いたいなら……って思ってグリルダイニングに変更したけど、良かった?」
「はい。メッセージでも言いましたが、お肉をたっぷり食べられるならそっちのほうがいいです」
「ぶれねぇな」
尊さんはクスクス笑い、イルミネーションを見る。
「こうやって彼女と手を繋いで、イルミネーション見られるとは思わなかったな」
「まだ付き合うって言ってないでしょう」
突っ込みを入れた時、私の足が止まった。
「どうした?」
軽く手を引っ張られた尊さんが立ち止まり、私の顔を覗き込んでくる。
私は前方から来るカップルを見て硬直していた。
――間違いない。昭人だ。
百七十五センチメートルぐらいの身長に、細身で黒いコートを纏っている。
緩くパーマを掛けた髪に、休日は眼鏡を掛けているのもそのまま。
「朱里?」
足が地面に縫い付けられたように動けずにいる私を、尊さんがいぶかしげに見る。
同時に、その名前を聞いて昭人がこちらを見た。
……彼と腕を組んでいる婚約者の女性も。
「朱里?」
今度は昭人が私の名前を呼んだ。
その瞬間、心臓を冷たい手で鷲掴みになったような気持ちになり、全身に変な汗を掻く。
「へぇ、偶然。そっちは新しい彼氏?」
昭人は九年付き合った私をサックリ振っておきながら、悪びれもなく話しかけてくる。
「そう受け取ってもらえるならありがたいですが、言ってしまえば可愛げのない性格ですよね」
私はあまり、自分の性格が好きじゃない。
もう少し空気を読めばいいのに、ズバッと言っちゃうから誤解を招く事もある。
「人に寄りけりじゃないか? 俺は何を考えてるか分からない奴より、朱里みたいに思った事を素直に言う人のほうが好きだし、『裏がない』と信頼できる」
「……あ、あるかもしれませんよ? 〝裏〟」
そういうと、尊さんはジーッと私を見て、ポツンと言う。
「……ないだろ」
「いや、何かソレ失礼じゃないです?」
思わず突っ込んだ私の反応を見て、彼は楽しそうに笑った。
そのあと、お上品に二切れのみの牛肉のロースト、ドルチェが出てコーヒーを飲んだ。
ランチのあとは美術館をまわり、展望台にも行った。
東京に住んでいて、展望台なんて……と思うけれど、地元民はなかなか観光地にいかないのがセオリーなので、逆に新鮮だった。
デートの間、尊さんはずっと優しく接してくれた。
昭人とはいつの間にか手を繋がなくなっていたけど、尊さんは「手、繋いでもいいか?」と確認してから大きな手でキュッと握ってきた。
それもまた新鮮で、相手は私をセフレ扱いした人なのに、ドキドキしてしまう。
歩いていても、歩幅を合わせてくれる。
エスカレーターやエレベーターでは、レディファースト。
夜にお洒落なレストランに行くと言うから、ヒールのある靴を履いてきたけど、ちょくちょく「足疲れてないか?」と気に掛けてくれた。
特にドキッとするような、ドラマチックな口説き文句を言われた訳じゃない。
なのに、そういうさり気ないところで気遣われ、「大切にされてる?」と勘違いしてしまいそうになった。
――尊さんと付き合ったら、大切にしてもらえるのかな?
ついそう考えてしまう自分がいて、「チョロすぎでしょ」ともう一人の自分が突っ込みを入れる。
彼と過ごしていて、気づいた事は他にもある。
圧倒的に声がいい。
声優みたいないい声をしていて、その声と話していると、耳から幸せになって気持ちがフワフワしてくる。
昭人は少し高めの声だったけど、尊さんの低い声を聞いているとゾクゾクしてしまう。
それに尊さんはいい匂いがする。
昭人も高級ブランドの香水をつけていた。
でも尊さんがつけている香水もとてもいい匂いで、彼の印象に合っている。
何だかんだいって、私は彼にとても魅力を感じている。
(悔しいけど、それは認めるしかないな)
時間は夕方になり、レストランに向かうために私たちは東京メトロに乗るべく、六本木五丁目駅に向かって歩いていた。
「そうだ、最初はフレンチっていったけど、肉食いたいなら……って思ってグリルダイニングに変更したけど、良かった?」
「はい。メッセージでも言いましたが、お肉をたっぷり食べられるならそっちのほうがいいです」
「ぶれねぇな」
尊さんはクスクス笑い、イルミネーションを見る。
「こうやって彼女と手を繋いで、イルミネーション見られるとは思わなかったな」
「まだ付き合うって言ってないでしょう」
突っ込みを入れた時、私の足が止まった。
「どうした?」
軽く手を引っ張られた尊さんが立ち止まり、私の顔を覗き込んでくる。
私は前方から来るカップルを見て硬直していた。
――間違いない。昭人だ。
百七十五センチメートルぐらいの身長に、細身で黒いコートを纏っている。
緩くパーマを掛けた髪に、休日は眼鏡を掛けているのもそのまま。
「朱里?」
足が地面に縫い付けられたように動けずにいる私を、尊さんがいぶかしげに見る。
同時に、その名前を聞いて昭人がこちらを見た。
……彼と腕を組んでいる婚約者の女性も。
「朱里?」
今度は昭人が私の名前を呼んだ。
その瞬間、心臓を冷たい手で鷲掴みになったような気持ちになり、全身に変な汗を掻く。
「へぇ、偶然。そっちは新しい彼氏?」
昭人は九年付き合った私をサックリ振っておきながら、悪びれもなく話しかけてくる。
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