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初デート 編
私は確かに可愛げがないです
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「……長く一緒にいたからでしょうね。九年近く恋人同士だったから、失うとでかいです。『愛していたか?』って聞かれたら、分かりません。結婚してないけど家族みたいな関係でした。一緒にいても気を遣わない相手で、近年はあまり男女の仲にもなっていなかったのもあって……」
「上村が結婚を望んでいたなら、その空気感は丁度良かったんだろうな。でもその彼氏はもっとイチャイチャしたかったのかもしれない。結婚したあとにズレが大きくなるより、結婚前に別の道を歩む決意をした彼氏は、ある意味正しかったんじゃないか?」
昭人についてはまだ消化しきれてないから、何も知らない部長に知ったような口を利かれるとムカッとしてしまう。
でも第三者だからこそ、冷静に見られる事もある。
確かに部長がいう通り、私は昭人にイチャイチャを求めていなかった。
甘い雰囲気になるのも苦手で、昭人がイチャついてきても塩対応していた。
お互い二十代半ばだし、昭人はもっと若々しい付き合いをしたかったのかもしれない。
「……そうかもしれませんね。私は確かに可愛げがないです」
「まぁ、上村がそういう性格になったのは、これまで生きてきた環境が影響していると思う。何も知らないけど、お前は苦労したタイプじゃないのか? 男に対して女のほうが精神的に大人びてるのは確かだし、苦労なく育った同い年の男なら、精神年齢が合わなくても仕方ない」
確かに……、と思ってしまった。
私の家庭環境は〝普通〟ではない。
それゆえに、この淡々とした、人にあまり立ち入らない性格ができあがったのだと思う。
恵のように心を許した相手には本音を話し、喜怒哀楽も表す。
けれど初対面の人と打ち解けるのは遅いし、特に会社の人とはあまり深入りしないようにしていた。
会社の人が悪い訳ではなく、大切なものができたらそれで心が一杯になってしまうので、他に気持ちを割くものを作ろうとしなかった。
今までは昭人や恵、学生時代の繋がりを大切にしていた。
それ以外にも、家庭環境の事で気が滅入る事が多く、心の負担を増やしたくなかった。
でも昭人は普通の家庭の生まれで、両親に愛されて育った人だ。
できたお兄さんを持って、コンプレックスを刺激されていたという家庭事情はあったけれど、本人もそれに負けないように頑張って、今では商社勤めだ。
パリッとした細身のスーツを着て、がむしゃらに働いて、週末は同僚といいお肉を食べたあと、お洒落なバーで一杯。
休憩する時は有名コーヒーショップに行って、薄型ノートパソコンを開いてニュースや株価をチェック。
服装はシンプルながら質のいいものを好み、生き方そのものがお洒落だ。
そんな昭人を見て、私は「眩しい」と思っていた。
同時に、心のどこかで「あぁ、コーヒーショップで仕事する系ね」と馬鹿にしていた。
そうしないと、自分が昭人に不釣り合いだと不安になってしまうからだ。
(もしかしたら、私のそういう気持ちが分かっていたのかもしれないなぁ)
私ほどひねくれた女はいない。
学生時代から人気者だった昭人は、そのままのイメージで社会人になった。
途中で、どこかから合わなくなってしまってもおかしくない。
「……部長なら、年上だから精神年齢が合うって言いたいんですか?」
「年上な分、元彼よりは柔軟に合わせられると思うけど」
にっこり笑われ、私はしかめっ面をしてそっぽを向いた。
本気じゃないイケメンにそう言われても、何も嬉しくない。
今だって一緒に歩いていると、すれ違う女性からの視線が凄い。
高身長イケメンの本日の服装は、黒いチェスターコートにブランド物のマフラー、シャツにジャケット、グレーのパンツ。
とてもシンプルだけど、一見モデルかっていうぐらいこなれている。
それに「付き合おう」と言われてるこの状況、ハッキリ言って地獄なんですが。
チョロい私はすぐにでも「はい」と言ってしまいそうになっている。
部長は格好いいし、エッチもうまい。大人の包容力があるし、別れる時があってもうまくフッてくれるだろう。
だからこそ、自分が沼る未来しか見えない。
昭人以上に入れ込んで、ボロボロになるのはまっぴらだ。
「はぁ……」
私はわざとらしく溜め息をついてみせ、それ以上の会話を拒んだ。
話している間にも目的のフロアに着き、私たちはお洒落な内装のイタリアンレストランに入った。
ぬかりなく予約していたみたいで、私たちはすんなりと席に案内された。
「パスタのコースで良かった?」
「はい。お肉は夜で」
オーダーを確認して飲み物も頼んだあと、部長は水を一口飲んだ。
「夜までまだ時間があるけど、先に俺の事情を話しておくか」
彼はそう言って椅子に背中を預け、脚を組む。
そしてニヤリと笑った。
「昼ドラも真っ青だぞ」
「上村が結婚を望んでいたなら、その空気感は丁度良かったんだろうな。でもその彼氏はもっとイチャイチャしたかったのかもしれない。結婚したあとにズレが大きくなるより、結婚前に別の道を歩む決意をした彼氏は、ある意味正しかったんじゃないか?」
昭人についてはまだ消化しきれてないから、何も知らない部長に知ったような口を利かれるとムカッとしてしまう。
でも第三者だからこそ、冷静に見られる事もある。
確かに部長がいう通り、私は昭人にイチャイチャを求めていなかった。
甘い雰囲気になるのも苦手で、昭人がイチャついてきても塩対応していた。
お互い二十代半ばだし、昭人はもっと若々しい付き合いをしたかったのかもしれない。
「……そうかもしれませんね。私は確かに可愛げがないです」
「まぁ、上村がそういう性格になったのは、これまで生きてきた環境が影響していると思う。何も知らないけど、お前は苦労したタイプじゃないのか? 男に対して女のほうが精神的に大人びてるのは確かだし、苦労なく育った同い年の男なら、精神年齢が合わなくても仕方ない」
確かに……、と思ってしまった。
私の家庭環境は〝普通〟ではない。
それゆえに、この淡々とした、人にあまり立ち入らない性格ができあがったのだと思う。
恵のように心を許した相手には本音を話し、喜怒哀楽も表す。
けれど初対面の人と打ち解けるのは遅いし、特に会社の人とはあまり深入りしないようにしていた。
会社の人が悪い訳ではなく、大切なものができたらそれで心が一杯になってしまうので、他に気持ちを割くものを作ろうとしなかった。
今までは昭人や恵、学生時代の繋がりを大切にしていた。
それ以外にも、家庭環境の事で気が滅入る事が多く、心の負担を増やしたくなかった。
でも昭人は普通の家庭の生まれで、両親に愛されて育った人だ。
できたお兄さんを持って、コンプレックスを刺激されていたという家庭事情はあったけれど、本人もそれに負けないように頑張って、今では商社勤めだ。
パリッとした細身のスーツを着て、がむしゃらに働いて、週末は同僚といいお肉を食べたあと、お洒落なバーで一杯。
休憩する時は有名コーヒーショップに行って、薄型ノートパソコンを開いてニュースや株価をチェック。
服装はシンプルながら質のいいものを好み、生き方そのものがお洒落だ。
そんな昭人を見て、私は「眩しい」と思っていた。
同時に、心のどこかで「あぁ、コーヒーショップで仕事する系ね」と馬鹿にしていた。
そうしないと、自分が昭人に不釣り合いだと不安になってしまうからだ。
(もしかしたら、私のそういう気持ちが分かっていたのかもしれないなぁ)
私ほどひねくれた女はいない。
学生時代から人気者だった昭人は、そのままのイメージで社会人になった。
途中で、どこかから合わなくなってしまってもおかしくない。
「……部長なら、年上だから精神年齢が合うって言いたいんですか?」
「年上な分、元彼よりは柔軟に合わせられると思うけど」
にっこり笑われ、私はしかめっ面をしてそっぽを向いた。
本気じゃないイケメンにそう言われても、何も嬉しくない。
今だって一緒に歩いていると、すれ違う女性からの視線が凄い。
高身長イケメンの本日の服装は、黒いチェスターコートにブランド物のマフラー、シャツにジャケット、グレーのパンツ。
とてもシンプルだけど、一見モデルかっていうぐらいこなれている。
それに「付き合おう」と言われてるこの状況、ハッキリ言って地獄なんですが。
チョロい私はすぐにでも「はい」と言ってしまいそうになっている。
部長は格好いいし、エッチもうまい。大人の包容力があるし、別れる時があってもうまくフッてくれるだろう。
だからこそ、自分が沼る未来しか見えない。
昭人以上に入れ込んで、ボロボロになるのはまっぴらだ。
「はぁ……」
私はわざとらしく溜め息をついてみせ、それ以上の会話を拒んだ。
話している間にも目的のフロアに着き、私たちはお洒落な内装のイタリアンレストランに入った。
ぬかりなく予約していたみたいで、私たちはすんなりと席に案内された。
「パスタのコースで良かった?」
「はい。お肉は夜で」
オーダーを確認して飲み物も頼んだあと、部長は水を一口飲んだ。
「夜までまだ時間があるけど、先に俺の事情を話しておくか」
彼はそう言って椅子に背中を預け、脚を組む。
そしてニヤリと笑った。
「昼ドラも真っ青だぞ」
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