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送り狼 編

受けて立ってやる ☆

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 尊さんは脱力した私を支えて湯船に浸かると、「小さいな……」と言いながら二人で温まる。

 まるで恋人のようにされ、もしかしたら愛撫されている時より恥ずかしかったかもしれない。

「……達くなんて思っていませんでした」

 彼に背中を向けているからか、照れくさくても少し素直に言えた。

「達けただろ? お前の元彼が単に下手なだけだったんだよ」

 その言葉に、何も言い返す事ができなかった。

 尊さんとこういう関係になる前だったら、昭人を悪く言われてムッとしていたかもしれない。

 けど実際に分からされた今、彼の言う事のほうが正しいのだと実感した。

「……こんなに気持ちいい事を知らなかったなんて……」

 ――彼とのセックスは何だったんだろう?

 ――相手が変わるだけで、エッチってこんなにも違うものなの?

 ただただ、不思議でならない。

「お前、もしかしてその元彼一人としか付き合ってないのか?」

「……悪いですか」

 図星だったので、私はブスッとして答える。

「……いや。遊んでないなら他の男を知らなくて当然だけど、……もったいねぇな」

 しみじみ……と言われて、何だか情けなくなってくる。

「……どうせ、周りから『結婚秒読み』って言われてたのにフラれましたよ」

「自虐はやめろ」

 ポン、と頭に手を乗せられ、私は溜め息をつく。

「そいつと別れてもう元サヤにも戻らないなら、お前はお前で自分の人生を楽しめばいいだろう。もう結婚する奴をいつまで思ってるんだ? 二十代なんてあっという間に終わるぞ。若いっていうだけで価値を感じる男は大勢いるんだから、遊んでおいてなんぼだろ」

「遊びたい訳じゃないです。私だけを愛してくれる人と、今度こそ幸せになりたいだけです」

「セックスが上手いだけの男じゃ駄目って事か」

 尊さんは半分笑いながら言う。

 それを聞いて、なんだ引っ掛かった。

 まるで自分の事を言ってるみたい。

 酔ってる時はかなりやらかしてしまったけれど、今は大分酔いが醒めている。

 だから、「私の事が好きなんですか?」なんて、聞けるはずがなかった。

「お前の好みの男ってどんな奴? 元彼みたいなの?」

 尊さんは昭人を知らないはずだ。

 だから一般的な質問だと思って答える。

「……優しい人がいいです。一緒にいて安らげて、些細な事で笑い合える人」

「はっ、実に一般的な答えだな。金もなくて仕事もできなくてもいいのか? セックスも下手だけど、優しければそれでいい?」

「……なんでそんなに突っかかるんですか」

 ムスッとして言うと、後ろから顎を掴まれた。

 そしてグイッと彼のほうを向かされる。

「フワフワした事を考えて『優しくして。痛いセックスは嫌』なんて我が儘を言ってるからフラれるんだよ」

「――――どうしてそんな事を言われないといけないんですか」

 さすがにムカついて言い返すと、ギュッと乳首を摘ままれた。

「ん……っ」

 痛い。――はずなのに、そこからジンワリと気持ちよさが下腹部に伝わっていく。

「まずは大人のセックスを知ってから言え」

 目の前で整った顔が、それは憎たらしく笑う。

 優しく言ってくれればいいのに、わざとなのか素なのか、意地悪な事しか言わない。

 ――受けて立ってやる。

 意地になった私は、挑むように彼を睨んで言った。

「じゃあ、大人のセックスを教えてくださいよ。そのあとに改めて優しい人がいいかどうか考えますから」

 ――彼の掌で転がされている。

 分かっているけれど、もう引き返す事はできないのだと分かっていた。
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