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国王の側には王妃が必要だ

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「リリィが気にすることはないって前も言っただろう? 父から〝意志〟の力が失われた時、父はリーズベットさんを『守りたい』と思い、リーズベットさんは君を『守りたい』と思った。力は想いの通りに継承され、そして君は〝あの時〟俺を『守りたい』と願ってくれた」
「守りたい……」

 リリアンナは言葉を確認するように呟く。
 その言葉、気持ちを確認し、リリアンナはポツポツと今までの自分の想いを振り返った。

「私……。母が亡くなってから、ずっと殿下を『ちゃんとお守りしたい』と思っていました。母が成し遂げられなかったことを、私が必ずやり遂げるんだと……」
「うん。その気持ちはとてもよく分かるつもりだよ」

 リリアンナの言葉を聞き、ディアルトは彼女の背中をポンポンと撫でる。
 抱き合って重なった胸元から、ディアルトの低い声が体を通して伝わる。とても心地いい振動に加え、背中を撫でる手はまるで幼い頃に撫でてくれた父を思わせた。

「私、殿下をお守りできましたか? 戦争はまだ続いていますか? 力を失った私でも、まだお役に立てますか?」

 不安そうなリリアンナの声に、ディアルトは穏やかに笑ってみせる。

「リリィ、戦争は終わったよ」
「え!?」

 ガバッと体を起こし、リリアンナは目を丸くした。

「あのあと、俺とカンヅェル陛下の手で戦争をちゃんと終わらせた。叔父上の所にも正式な書状が届いて、もう国境近くで精霊が荒れ狂うこともない」
「……ほん、……とうに……」

 眠っている間にあの長く続いた戦争が終わっただなんて、本当に夢のようだ。リリアンナは思わず自分の頬を手でつねってみて、「……痛い」と呟く。

「俺はいま、こうやって身綺麗にして王宮にいるだろう? すべて現実だよ」
「あ……」

 言われてみればそうだと思い、リリアンナは改めて現状について考えてみる。

「では今は、平和な世であると?」
「あぁ、その通りだ。一応……言っておくと、叔父上から俺の戴冠式の提案も出ている」
「本当ですか!? 殿下……っ」

 リリアンナは自分の悲願が叶うと知り、歓喜の声を上げる。

「……ですが、妃陛下やその一派は?」
「叔母上は、いま病気療養という名目で地方にいるよ」
「そう……ですか」

 知らない間に心配すべきことがすべて解決していて、リリアンナは呆けた声を出す。
 意識が戻ってディアルトと話し、現在の状況を理解して体も心も「また護衛として……」と動き始めたのに、戦争の終わりとソフィアが勢力を削がれた情報に、拍子抜けした感じがする。
 自分の体で座っていたが、リリアンナはヘッドボードの枕に背中を預ける。

(だとしたら……)

 リリアンナはボーッとディアルトを見て、とんでもないことを口にした。

「私……、もう殿下のお役に立てないのでしょうか?」
「へっ!?」

 リリアンナの突飛な言葉にディアルトは間抜けな声を出し、まじまじとリリアンナを見てくる。
 リリアンナは三つ編みにされた髪を手で弄び、落胆しきった表情になる。

「殿下が国王陛下となられるのなら、専属の近衛隊が結成されるでしょう。殿下を目の敵にされていた王妃陛下もいらっしゃらない今、私が殿下のお側にいる意義はもう……」

 力なく呟いたリリアンナの手を、ディアルトがギュッと握ってきた。

「リリィ」

 そしてディアルトはリリアンナの顔を覗き込み、彼女の真意を測ろうとする。

(だって……)

 ディアルトの目にじっと見つめられても、リリアンナはこの不安を拭えないでいた。

「君が俺の役に立たないなんて日は、未来永劫あり得ない。俺は君がいてくれるだけで頑張れるし、君の笑顔一つで幸せになれる」
「ですが私は騎士として……」

 まだ何か言いかけるリリアンナの唇を、ディアルトは指先でふにゅりと押した。

「確かに、俺がこれから国王になれば近衛隊が結成されるだろう。だが、国王の側には王妃が必要だ。それが誰かは……分かるね?」

 リリアンナの唇を押さえていた指がクッと中に入り、彼女の前歯に当たった。

「…………」

 念を押すような確認に、リリアンナは珍しく不安げな顔をする。
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