【R-18版】薔薇の執念~秘密を抱えた令嬢騎士は王太子のしつこい告白にほだされる

臣桜

文字の大きさ
上 下
90 / 109

風の意志

しおりを挟む
『精霊は我ら人よりもずっと先を視る。八年後に私とリーズベットがいなくなるのを見越して、精霊はリリアンナを庇護していた。私がリーズベットを大切に思う気持ち、リーズベットがリリアンナを大切に思う気持ち。それは先んじて伝わり、リリアンナに器を作っていった』

 不可視の精霊たちが、未来を読み取ってリリアンナを大切にしていた。
 精霊たちはウィリアの没後、意志の担い手がリリアンナになることを前もって知っていた。
 ウィリアの息子として生まれたディアルトは、当たり前のように意志の担い手となる器を持っている。本来なら彼がいま風の意志の担い手になり、国王となっていただろう。

 だがウィリアは死ぬ間際に、「リーズベットを救ってほしい」と願ってしまった。
 それが運命をねじまげ、次の担い手がリリアンナになるという現実を生んでしまったのだ。

『リリアンナは今、自分のすべてを擲ってでも殿下を助けてほしいと精霊に願っています。それに、精霊も応えようとしています』

 リーズベットの言葉に、ディアルトはギクリとした。
 自分の側にいたはずのリリアンナを見ようとしても、体は動かせず視界も動かない。
 これは〝強制的に見せられている父とリーズベットの幻影〟なのだと理解した。

『ディアルト、お前はこれから風の意志の担い手となる。お前はリリアンナよりも強く、彼女を、国を〝守りたい〟と願った。リリアンナの意志が薄れたいま、精霊はお前の願いに応えようとしている』

 現実の自分に何が起ころうとしているのか理解し、ディアルトは「はい」としっかり返事をする。
 子供の頃にあれほど渇望した風の意志が、皮肉にも死にかけた今になって自分に宿ろうとしている。
 思わず苦笑いしそうになったが、本当に守りたいもの――リリアンナを救えるのなら、どうだっていい。

『風の意志が継承された一時だけ、精霊たちは奇跡の力を発揮する。傷はすべて治り、ほんの僅かな時間だけ、お前はこの世で無敵の存在になるだろう。どうかその力を、正しいことのために使ってくれ』

 ウィリアの声が不意に遠くなり、彼の姿も薄くなってゆく。

『殿下。どうか娘を頼みます。夫も子供たちにも、愛していると……』

 リーズベットの声も遠くなり、すべてが白い霧に包まれてゆく。
 ディアルトの意識も真っ白に塗りつぶされたと思った時――、その〝白〟のなかにキラキラと光る金の粒子が現れ、舞ってゆくのが見えた。

 意識を集中させると、〝それ〟は精霊だと分かった。
 ディアルトの金色の目に反応し、風の精霊が姿を見せ喜んでいる。

 絶えず揺らめいてきちんとした形を取らないが、金色のそれは美しい女性や少女の姿をしている気がした。
 彼女たちが歓喜の表情を浮かべてディアルトを囲み、舞い踊っては彼にとてつもない力を注いでゆく。

 ディアルトの意識奥深くまで入り込んだ精霊たちは、彼の精神と体に、沸き立つような喜びを満たしてゆく。


 ――あぁ、これは――。


 体が熱くなるのを感じ、ディアルトは瞬きをして目を開いた。

 空が見え、赤茶けた砂塵が舞っている。
 その砂を舞わせている風の精霊たちを、今はハッキリと見ることができていた。
 ゆっくりと起き上がると、体から抜けた矢がカランカランと軽い音をたてて地に落ちる。防具こそ穴が開いたままだったが、皮膚には傷一つ無い。

「リリィ」

 すぐ側にリリアンナが倒れていて、血と涙でグチャグチャになった顔は生気を失っていた。

「今までありがとう。今度は俺が君を守るから」

 慈愛のこもった目で彼女を見下ろし、ディアルトはリリアンナを抱いてキスをした。

 願いはただ一つ。

 ――彼女を癒やしてほしい。

 毒に犯されたリリアンナは、もう風の意志の担い手ではない。
 風の加護は受けているものの、普通のウィンドミドルの女性になっている。
 リリアンナの体に残された精霊を活性化するよう、ディアルトは自分の契約した精霊を唇ごしに彼女に分けてゆく。

 キスをしたリリアンナの唇は、体温を失っていてひんやりとしていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

ある辺境伯の後悔

だましだまし
恋愛
妻セディナを愛する辺境伯ルブラン・レイナーラ。 父親似だが目元が妻によく似た長女と 目元は自分譲りだが母親似の長男。 愛する妻と妻の容姿を受け継いだ可愛い子供たちに囲まれ彼は誰よりも幸せだと思っていた。 愛しい妻が次女を産んで亡くなるまでは…。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

処理中です...