79 / 109
いい女ですね
しおりを挟む
「明日、和平を結ぶかどうかのテーブルに着く。急ぎ、両陣地の中央に天幕の準備を」
一方、陣地に戻ったカンヅェルは、ソファに座り尊大な態度のまま臣下に告げる。
「お、王っ!?」
「とうとう和平を結ばれるのですか!?」
急展開に臣下たちはどよめき、その向こうでアドナ将軍は息をついている。
「敵将に面白い女がいてな。あいつの言うことなら、聞いてみようかと思った。親を失った恨みがあるのは、敵陣の王太子も同じだと言われてな」
余裕のある笑みを浮かべ、カンヅェルはリリアンナの姿を思い出す。
「お前らに説得されても、うんともすんとも言わなかった俺が、敵将の言葉で動いたぞ?」
揶揄するような言葉と視線に、臣下たちは渋面になる。
その後、カンヅェルはアドナに向かって声を張り上げた。
「アドナ。お前も場に立ってもらうからな。〝あの日〟に何があったのかを、今こそ証言する必要がある」
「…………」
カンヅェルに言われても、アドナ将軍はただ沈黙するのみ。
それを若い宰相がじっと見つめていた。
**
翌日の午前中、見張りが立つなか、戦地の中間地点に両軍の兵によって天幕が張られた。
罠など何も仕掛けていないのを確認してから、両国の要人を迎えるためにそれぞれの天幕に見張りが立った。
そして正午。
衛兵が敬礼するなか、先にディアルトとリリアンナ、騎士団長が会談が行われる戦地の中央に到着した。やや遅れてカンヅェルとアドナ、そして宰相や臣下が数人着いた。
和平の場なので、全員武器を別の場所に預けてある。
「あなたが王太子ディアルトか」
不遜な態度をそのままに、カンヅェルが腕を組んだまま笑う。
ディアルトが会釈をする隣で、リリアンナもおつきの騎士として丁寧に頭を下げた。
ディアルトが会釈していた姿勢を正すと、カンヅェルは無遠慮な視線でリリアンナを見た。
彼は思っている事をストレートに出す気質だと、初対面の者でも雰囲気ですぐ分かる。
だが今、その金色の目は雄弁なまでに、リリアンナに好奇心と若干の色気を含めて向けられていた。
リリアンナはその視線を無視し、ディアルトは分かっていながらにこやかに挨拶をする。
「はじめまして、カンヅェル陛下。私はウィンドミドル先王ウィリアの一人息子、ディアルトと申します。現国王陛下に代わり、和平のテーブルに着かせて頂きます」
丁寧に頭を下げるディアルトを、カンヅェルは値踏みするような目で見る。
王族としての器や、リリアンナと釣り合うかどうかなども考えているのだろう。
「カンヅェル陛下」
ディアルトは、視線でリリアンナを嬲っていたカンヅェルに呼びかける。
カンヅェルが視線を向けると、ディアルトは彼の視線に含まれている意味を「分かっている」と言わんばかりに微笑んだ。
「天幕に入りましょう」
にこやかに天幕を示すディアルトを、カンヅェルは内心嗤った。
(喰えん男だな。この女に手を出したら、何をしてでも俺を殺す覚悟がある。優男のような雰囲気を発しておきながら、とんだ狸だ)
ディアルトの笑みを、カンヅェルは〝黒い笑み〟だと直感した。
(こいつは王の器だ。大事なもののためなら、笑顔で人の命を奪える。考えて発言せねば、こちらが足をすくわれるな)
思わぬ強敵の予感に、カンヅェルは知らずと笑っていた。
やがて双方天幕に入り、用意されてあった席に着く。
テーブル中央に、向かい合ってディアルトとカンヅェルが座る。ディアルトの両隣にはリリアンナと騎士団長、カンヅェルの両脇にはアドナ将軍と宰相が座った。
「会談の前に食事を。俺が連れて来た料理長が腕をふるう」
天幕の中には調理台があり、外に通じる場所では熱された鉄板もある。そこにはファイアナの料理人がいて、両国の兵士が見ている中で既に調理を始めていた。
「失礼ながら、確認させて頂きます」
リリアンナが立ち上がり、調理台を見張っていた兵士に異変がなかったか確認する。
その姿を見て、カンヅェルが唇を片方もたげて笑った。
「いい女ですね」
「ええ。素晴らしい女性です」
ディアルトも穏やかな表情のまま、カンヅェルの静かな挑発に応じる。
一方、陣地に戻ったカンヅェルは、ソファに座り尊大な態度のまま臣下に告げる。
「お、王っ!?」
「とうとう和平を結ばれるのですか!?」
急展開に臣下たちはどよめき、その向こうでアドナ将軍は息をついている。
「敵将に面白い女がいてな。あいつの言うことなら、聞いてみようかと思った。親を失った恨みがあるのは、敵陣の王太子も同じだと言われてな」
余裕のある笑みを浮かべ、カンヅェルはリリアンナの姿を思い出す。
「お前らに説得されても、うんともすんとも言わなかった俺が、敵将の言葉で動いたぞ?」
揶揄するような言葉と視線に、臣下たちは渋面になる。
その後、カンヅェルはアドナに向かって声を張り上げた。
「アドナ。お前も場に立ってもらうからな。〝あの日〟に何があったのかを、今こそ証言する必要がある」
「…………」
カンヅェルに言われても、アドナ将軍はただ沈黙するのみ。
それを若い宰相がじっと見つめていた。
**
翌日の午前中、見張りが立つなか、戦地の中間地点に両軍の兵によって天幕が張られた。
罠など何も仕掛けていないのを確認してから、両国の要人を迎えるためにそれぞれの天幕に見張りが立った。
そして正午。
衛兵が敬礼するなか、先にディアルトとリリアンナ、騎士団長が会談が行われる戦地の中央に到着した。やや遅れてカンヅェルとアドナ、そして宰相や臣下が数人着いた。
和平の場なので、全員武器を別の場所に預けてある。
「あなたが王太子ディアルトか」
不遜な態度をそのままに、カンヅェルが腕を組んだまま笑う。
ディアルトが会釈をする隣で、リリアンナもおつきの騎士として丁寧に頭を下げた。
ディアルトが会釈していた姿勢を正すと、カンヅェルは無遠慮な視線でリリアンナを見た。
彼は思っている事をストレートに出す気質だと、初対面の者でも雰囲気ですぐ分かる。
だが今、その金色の目は雄弁なまでに、リリアンナに好奇心と若干の色気を含めて向けられていた。
リリアンナはその視線を無視し、ディアルトは分かっていながらにこやかに挨拶をする。
「はじめまして、カンヅェル陛下。私はウィンドミドル先王ウィリアの一人息子、ディアルトと申します。現国王陛下に代わり、和平のテーブルに着かせて頂きます」
丁寧に頭を下げるディアルトを、カンヅェルは値踏みするような目で見る。
王族としての器や、リリアンナと釣り合うかどうかなども考えているのだろう。
「カンヅェル陛下」
ディアルトは、視線でリリアンナを嬲っていたカンヅェルに呼びかける。
カンヅェルが視線を向けると、ディアルトは彼の視線に含まれている意味を「分かっている」と言わんばかりに微笑んだ。
「天幕に入りましょう」
にこやかに天幕を示すディアルトを、カンヅェルは内心嗤った。
(喰えん男だな。この女に手を出したら、何をしてでも俺を殺す覚悟がある。優男のような雰囲気を発しておきながら、とんだ狸だ)
ディアルトの笑みを、カンヅェルは〝黒い笑み〟だと直感した。
(こいつは王の器だ。大事なもののためなら、笑顔で人の命を奪える。考えて発言せねば、こちらが足をすくわれるな)
思わぬ強敵の予感に、カンヅェルは知らずと笑っていた。
やがて双方天幕に入り、用意されてあった席に着く。
テーブル中央に、向かい合ってディアルトとカンヅェルが座る。ディアルトの両隣にはリリアンナと騎士団長、カンヅェルの両脇にはアドナ将軍と宰相が座った。
「会談の前に食事を。俺が連れて来た料理長が腕をふるう」
天幕の中には調理台があり、外に通じる場所では熱された鉄板もある。そこにはファイアナの料理人がいて、両国の兵士が見ている中で既に調理を始めていた。
「失礼ながら、確認させて頂きます」
リリアンナが立ち上がり、調理台を見張っていた兵士に異変がなかったか確認する。
その姿を見て、カンヅェルが唇を片方もたげて笑った。
「いい女ですね」
「ええ。素晴らしい女性です」
ディアルトも穏やかな表情のまま、カンヅェルの静かな挑発に応じる。
4
お気に入りに追加
469
あなたにおすすめの小説
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる
奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。
だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。
「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」
どう尋ねる兄の真意は……
若社長な旦那様は欲望に正直~新妻が可愛すぎて仕事が手につかない~
雪宮凛
恋愛
「来週からしばらく、在宅ワークをすることになった」
夕食時、突如告げられた夫の言葉に驚く静香。だけど、大好きな旦那様のために、少しでも良い仕事環境を整えようと奮闘する。
そんな健気な妻の姿を目の当たりにした夫の至は、仕事中にも関わらずムラムラしてしまい――。
全3話 ※タグにご注意ください/ムーンライトノベルズより転載
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる