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誇りを奪わないでください
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「まぁー……、なぁ。リリアンナはいい女だから、王都に一人にしていたら、いつ誰に口説かれるか分からない」
「殿下、私のことを誰にでも靡く女と思っていらしたのですか?」
リリアンナはジロリとディアルトを睨み、「それなら呼び寄せてくだされば良かったのに」と愚痴を口にする。
「いや、でもリオンだってリリアンナを呼ぶのは反対だっただろう?」
「そりゃそうですよ。幾ら脳筋でも、一応姉です。武勲で有名になるより、女として安寧に幸せを感じてほしいと父も俺も思っています」
「リオン。姉に向かって脳筋とはなによ」
「姉上、怒らないでください。姉上が本気で怒ったら、か弱い俺なんて瞬殺です」
憎らしいことにリオンは自分とリリアンナの筋力を比べ、あえて下位に立って攻撃を躱そうとする。
その〝リリアンナの扱いを慣れている〟リオンとの言い合いが可笑しかったのか、ディアルトが背中を丸めて笑い始めた。
リリアンナはディアルトの前で「脳筋」やら「瞬殺」と言われるのがが恥ずかしくて、思わず押し黙る。そんな姉を、リオンはニヤニヤ笑って見ていた。
談話室に響くディアルトの笑い声に、通りがかる兵士たちも笑みを浮かべていた。
「はー……。ひっさしぶりに笑った」
腹部を押さえてひいひい言うディアルトを、リリアンナが冷めた目で見やる。
(ああ……恥ずかしい)
「どこに笑う要素があったんですか」
「姉上の筋肉が男張りというところとか?」
「リオン?」
「いやいや。でも本当に姉上が来てくださって良かったですよ。これじゃあ、本気で終戦も目前なんじゃないですか?」
上手く話を躱したリオンの言葉に、思わずディアルトとリリアンナも顔を見合わせて笑う。
「そう上手くいくかは……、明日にならないと分からないな」
「そうですね。こちらの援軍の出番は明日。ファイアナの王も明日出てくる予感がします。……ファイアナの王が出て来た時は、私が打って出ますが」
毅然と告げるリリアンナに、ディアルトもリオンも微かに顔を歪める。
彼女に対して「女だから」という言葉は間違えていると、二人とも分かっている。リリアンナには実力があり、国を救うだけの力がある。
誰もがリリアンナに期待をする。そして彼女も、期待に応えるのが当たり前だと思っている。
その状況はリリアンナを一人の女性として愛するディアルトと、姉を心配するリオンには頭の痛い事態だ。
「……姉上がそこまでしなくても、いいんじゃないですか? 今日だって大きく戦力を削りました。後は我々でどうにかなります。我々だって戦えるんですから」
「そうだ、リリアンナ。君がどこまでも矢面に立つ理由はない」
二人の反対に、リリアンナはゆるりとかぶりを振る。
「私、これは自分の使命……いえ、運命のような気がしているんです。母が戦死した場所で、もしかしたら私が戦争を終わらせられるかもしれない。母は先王陛下をお守りしきれませんでしたが、私はちゃんと殿下を守り切り、この国の未来を見たい。そう思うのです」
清々しいまでに、リリアンナはリリアンナだ。
背筋を伸ばし、真っ直ぐ前を向いて微笑む彼女を見ると、ディアルトもリオンも何も言えなくなってしまう。
「……かと言って、君に戦争を終わらせろと命じるのは。……本当に……」
ディアルトは両手を組むと、それを額に当てて深く溜め息をついた。
リオンも姉から視線を外し、腕を組み遠くを見ている。
「殿下。二人きりの時はともかく、私のことは女とお思いにならないでください。私は風の意志に選ばれました。そこには世界の意志があり、男も女も関係ありません。私はこの大いなる力を、愛する祖国のため、殿下のために使えるのを誇りに思っています。どうか私から、その誇りを奪わないでください」
穏やかに微笑むリリアンナは、もう決意を覆すつもりはない。
きっぱりとした言葉を聞き、ディアルトはのろのろと顔を上げる。
そして溜め息交じりにリリアンナを見て、困ったように唇をもたげた。
「殿下、私のことを誰にでも靡く女と思っていらしたのですか?」
リリアンナはジロリとディアルトを睨み、「それなら呼び寄せてくだされば良かったのに」と愚痴を口にする。
「いや、でもリオンだってリリアンナを呼ぶのは反対だっただろう?」
「そりゃそうですよ。幾ら脳筋でも、一応姉です。武勲で有名になるより、女として安寧に幸せを感じてほしいと父も俺も思っています」
「リオン。姉に向かって脳筋とはなによ」
「姉上、怒らないでください。姉上が本気で怒ったら、か弱い俺なんて瞬殺です」
憎らしいことにリオンは自分とリリアンナの筋力を比べ、あえて下位に立って攻撃を躱そうとする。
その〝リリアンナの扱いを慣れている〟リオンとの言い合いが可笑しかったのか、ディアルトが背中を丸めて笑い始めた。
リリアンナはディアルトの前で「脳筋」やら「瞬殺」と言われるのがが恥ずかしくて、思わず押し黙る。そんな姉を、リオンはニヤニヤ笑って見ていた。
談話室に響くディアルトの笑い声に、通りがかる兵士たちも笑みを浮かべていた。
「はー……。ひっさしぶりに笑った」
腹部を押さえてひいひい言うディアルトを、リリアンナが冷めた目で見やる。
(ああ……恥ずかしい)
「どこに笑う要素があったんですか」
「姉上の筋肉が男張りというところとか?」
「リオン?」
「いやいや。でも本当に姉上が来てくださって良かったですよ。これじゃあ、本気で終戦も目前なんじゃないですか?」
上手く話を躱したリオンの言葉に、思わずディアルトとリリアンナも顔を見合わせて笑う。
「そう上手くいくかは……、明日にならないと分からないな」
「そうですね。こちらの援軍の出番は明日。ファイアナの王も明日出てくる予感がします。……ファイアナの王が出て来た時は、私が打って出ますが」
毅然と告げるリリアンナに、ディアルトもリオンも微かに顔を歪める。
彼女に対して「女だから」という言葉は間違えていると、二人とも分かっている。リリアンナには実力があり、国を救うだけの力がある。
誰もがリリアンナに期待をする。そして彼女も、期待に応えるのが当たり前だと思っている。
その状況はリリアンナを一人の女性として愛するディアルトと、姉を心配するリオンには頭の痛い事態だ。
「……姉上がそこまでしなくても、いいんじゃないですか? 今日だって大きく戦力を削りました。後は我々でどうにかなります。我々だって戦えるんですから」
「そうだ、リリアンナ。君がどこまでも矢面に立つ理由はない」
二人の反対に、リリアンナはゆるりとかぶりを振る。
「私、これは自分の使命……いえ、運命のような気がしているんです。母が戦死した場所で、もしかしたら私が戦争を終わらせられるかもしれない。母は先王陛下をお守りしきれませんでしたが、私はちゃんと殿下を守り切り、この国の未来を見たい。そう思うのです」
清々しいまでに、リリアンナはリリアンナだ。
背筋を伸ばし、真っ直ぐ前を向いて微笑む彼女を見ると、ディアルトもリオンも何も言えなくなってしまう。
「……かと言って、君に戦争を終わらせろと命じるのは。……本当に……」
ディアルトは両手を組むと、それを額に当てて深く溜め息をついた。
リオンも姉から視線を外し、腕を組み遠くを見ている。
「殿下。二人きりの時はともかく、私のことは女とお思いにならないでください。私は風の意志に選ばれました。そこには世界の意志があり、男も女も関係ありません。私はこの大いなる力を、愛する祖国のため、殿下のために使えるのを誇りに思っています。どうか私から、その誇りを奪わないでください」
穏やかに微笑むリリアンナは、もう決意を覆すつもりはない。
きっぱりとした言葉を聞き、ディアルトはのろのろと顔を上げる。
そして溜め息交じりにリリアンナを見て、困ったように唇をもたげた。
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