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それはまるで今の俺が不幸だと言うようだ
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(今なら……言ってしまってもいいのかもしれない。明日どうなるか分からない〝今〟だからこそ、胸の中に抱えていたものを吐き出して、戦いに望みたい)
気が付けばリリアンナは仰向けになったまま、熱い涙を零していた。
頭の中には、ディアルトとの思い出が走馬灯のように駆け巡る。
英雄と呼ばれた母が死に、リリアンナは自分こそ母の遺志を継いで立派な王家の守り手になるのだと決意した。
決意した翌日に騎士団の隊舎に飛び込み、「これから私は皆さんの仲間になります!」と言い切った。
まだ十二歳の女の子が何を……と笑われたが、リリアンナは父づたいに騎士団長に話を通させ、空いている騎士の甲冑を着けるところから始めた。
重たいそれを纏ってきちんと歩けるようになってから、リリアンナは自分が守るべき王太子の元に向かった。
自分と同じように父を喪ったばかりの王太子は、具合が悪いのか青白い顔をして床に伏せていた。
「これは私が守ってあげなくては!」と思ったリリアンナは、元気よく自己紹介をし、「王家の守り手として、これから殿下を守り抜きます!」と宣言したのだ。
ディアルトはこのウィンドミドルで唯一、「精霊が見えない出来損ない」だと宮中の噂を聞いた。
その〝原因〟を知っているからこそ、リリアンナは自分がディアルとの剣になり、彼が戦えないのなら自分がすべての厄災をはね除けるのだと決意した。
それもこれも――。
「……私が。……私が、本来殿下が得るべきだった風の意志を奪ってしまっていても。……ですか?」
震える声が、九年間の秘密を打ち明けた。
頭上で星が瞬き、流れた。
そのあとも星空は変わらず瞬き続け、周囲から小さく虫の音が聞こえる。
息を止めるほど緊張したリリアンナは、これでディアルトに嫌われることすらも覚悟した。
だが、沈黙のあとにディアルトがフハッと気の抜けた様子で笑ったのが分かった。
「やっぱり、か。……うん、何となく分かっていたんだ」
「……やっぱり……?」
まさか知られていると思っていなかったリリアンナは、言葉を失う。
総毛立つほどの衝撃を覚えてから、そろりと隣に寝転ぶディアルトを見ると、彼はこちらを見ていつものように微笑っていた。
月明かりに照らされた穏やかな表情も、金色の瞳も変わらない。
――そう。本来なら精霊に愛された者として、ディアルトは金色の目を持って生まれたのだ。
彼の力をリリアンナが奪ってしまい、彼は金色の目を持ちながら精霊を見られない「出来損ない」と扱われてきた。
その事実を知ってからというものの、リリアンナは自分をまっすぐ見て優しげに細められる彼の目に、どこか負い目を感じていた。
「……私さえいなければ、殿下は今ちゃんと国王陛下になっていたはずです」
震える声が、自らの罪を告げる。
愛する人から王座を奪ってしまったという罪は、気高いリリアンナに「私さえいなければ」という言葉すら言わせてしまう。
「それで……、君は何を言いたいのかな?」
「え?」
ケロリとした声に、リリアンナは思わず起き上がって目を瞬かせた。
暗闇の中、ディアルトの金色の目が微かに光ってこちらを見ている。
「そんなことで、今さら俺が君を嫌うとでも思った?」
「だ……っ、だって!」
大きな声を上げ、リリアンナは唇を喘がせる。
「私さえいなければ、殿下は正式に王位を継ぐ力を持って、国王陛下となられていたのですよ? そうすれば妃陛下から疎まれることもなく、このように前線に来ることもありませんでした。怪我を負わず、危ない目に遭うことも――」
「リリィ」
まくしたてるように言うリリアンナを、ディアルトの少し強い声が遮った。
「リリィ、それはまるで今の俺が不幸だと言うようだ」
静かなディアルトの声に、リリアンナはハッとして口を噤む。
気が付けばリリアンナは仰向けになったまま、熱い涙を零していた。
頭の中には、ディアルトとの思い出が走馬灯のように駆け巡る。
英雄と呼ばれた母が死に、リリアンナは自分こそ母の遺志を継いで立派な王家の守り手になるのだと決意した。
決意した翌日に騎士団の隊舎に飛び込み、「これから私は皆さんの仲間になります!」と言い切った。
まだ十二歳の女の子が何を……と笑われたが、リリアンナは父づたいに騎士団長に話を通させ、空いている騎士の甲冑を着けるところから始めた。
重たいそれを纏ってきちんと歩けるようになってから、リリアンナは自分が守るべき王太子の元に向かった。
自分と同じように父を喪ったばかりの王太子は、具合が悪いのか青白い顔をして床に伏せていた。
「これは私が守ってあげなくては!」と思ったリリアンナは、元気よく自己紹介をし、「王家の守り手として、これから殿下を守り抜きます!」と宣言したのだ。
ディアルトはこのウィンドミドルで唯一、「精霊が見えない出来損ない」だと宮中の噂を聞いた。
その〝原因〟を知っているからこそ、リリアンナは自分がディアルとの剣になり、彼が戦えないのなら自分がすべての厄災をはね除けるのだと決意した。
それもこれも――。
「……私が。……私が、本来殿下が得るべきだった風の意志を奪ってしまっていても。……ですか?」
震える声が、九年間の秘密を打ち明けた。
頭上で星が瞬き、流れた。
そのあとも星空は変わらず瞬き続け、周囲から小さく虫の音が聞こえる。
息を止めるほど緊張したリリアンナは、これでディアルトに嫌われることすらも覚悟した。
だが、沈黙のあとにディアルトがフハッと気の抜けた様子で笑ったのが分かった。
「やっぱり、か。……うん、何となく分かっていたんだ」
「……やっぱり……?」
まさか知られていると思っていなかったリリアンナは、言葉を失う。
総毛立つほどの衝撃を覚えてから、そろりと隣に寝転ぶディアルトを見ると、彼はこちらを見ていつものように微笑っていた。
月明かりに照らされた穏やかな表情も、金色の瞳も変わらない。
――そう。本来なら精霊に愛された者として、ディアルトは金色の目を持って生まれたのだ。
彼の力をリリアンナが奪ってしまい、彼は金色の目を持ちながら精霊を見られない「出来損ない」と扱われてきた。
その事実を知ってからというものの、リリアンナは自分をまっすぐ見て優しげに細められる彼の目に、どこか負い目を感じていた。
「……私さえいなければ、殿下は今ちゃんと国王陛下になっていたはずです」
震える声が、自らの罪を告げる。
愛する人から王座を奪ってしまったという罪は、気高いリリアンナに「私さえいなければ」という言葉すら言わせてしまう。
「それで……、君は何を言いたいのかな?」
「え?」
ケロリとした声に、リリアンナは思わず起き上がって目を瞬かせた。
暗闇の中、ディアルトの金色の目が微かに光ってこちらを見ている。
「そんなことで、今さら俺が君を嫌うとでも思った?」
「だ……っ、だって!」
大きな声を上げ、リリアンナは唇を喘がせる。
「私さえいなければ、殿下は正式に王位を継ぐ力を持って、国王陛下となられていたのですよ? そうすれば妃陛下から疎まれることもなく、このように前線に来ることもありませんでした。怪我を負わず、危ない目に遭うことも――」
「リリィ」
まくしたてるように言うリリアンナを、ディアルトの少し強い声が遮った。
「リリィ、それはまるで今の俺が不幸だと言うようだ」
静かなディアルトの声に、リリアンナはハッとして口を噤む。
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