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この土地を、君に捧げたい

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 リリアンナも言ってしまってから、好きな人を傷付けた気まずさでギュッと心臓を鷲掴みにされた気分になった。

 しかしここで悪役になってでも、自分はディアルトを危険な場所に連れ出してはならないと思っている。自分は王家の守り手で、ディアルトの護衛だ。主を危険な目にさらすのでは、本末転倒だ。
 リリアンナの「足手まとい」発言に、ディアルトは深く息を吸い込み、眉間に皺を寄せて唇をへの字に曲げた。何かを堪えるような表情で地図を睨み――息をついた。

「……これでもし戦局が危うくなるなら許さない。責任を取って王都に戻ってもらう。いいな?」
「仰せのままに」

(申し訳ございません、殿下。本当はあなたを傷付けたくなんてなかった。殿下がお強いのは分かっていますし、精霊を使えないからこそ、あなたが努力し続けた事を私が一番知っています。ご自身のため、シアナ様のため、自分をもり立てる臣下のため、あなたは自らを常に鍛えていらっしゃった。ご自身の誇りを守る以外にも、あなたは周囲のことを考えてこれまでの〝王太子〟の立場を守り抜いてきた)

 きっぱりと返事をして頷いたリリアンナは、心の中でディアルトに猛烈に詫びた。

(……だからこそ、あなたの過保護があっては私は本領を発揮できないのです。本当にこの戦争を終わらせたいと思うのなら、私が〝本気〟を出して挑む必要があります。いずれ〝あの巨大な火の意志〟も戦場に来るでしょう。〝あれ〟が来たなら、今までのウィンドミドルの軍では抗いきれない。だから、私が……)

 今までディアルトが王都にいたからこそ、リリアンナも戦場に来ることができなかった。
 だがディアルトともども戦地に来た今なら、自分が遺憾なく力を発揮できる場があれば、もしかしたらこの戦争を終わらせることができるかもしれない。
 そんな希望を胸に抱き、リリアンナは気持ちを切り替え、息を吐いた。

「では、私と共に戦うメンバーを選ばせてください」

 リリアンナの言葉を聞き、騎士団長が部下に元気な団員を集めるよう命令した。

**

「……怒っていますか?」

 夕食をとった後、ディアルトは無言で砦の外に出た。
 リリアンナもそれに続き、少し足を引きずっている主を気遣いつつ、会議でのことを問う。

 砂漠に近い国境付近には荒野が続き、土地に適した植物がポツポツと生えているのが見える。
 頭上には星空が広がり、真っ黒なビロードにダイヤモンドを零したような空がどこまでも広がっていた。
 あの後、共に戦うメンバーを選んだリリアンナは、彼らに明日の作戦を伝えた。それから夕食をとり、現在に至る。

「……まぁ、情けないなとは思うよ」

 昼間の会議室での険しさはどこかに、ディアルトが穏やかに笑う。
 薄暗いなか浮かび上がる、ディアルトのシルエットが愛しい。精悍な横顔を見て、リリアンナは申し訳なさで泣き出しそうになった。

「すみません」

(私だって、あんなこと言いたくなかったんです)

 殊勝に謝っても、言ってしまったことは覆らないし、作戦だって変えるつもりはない。ただ、もう少し言い方があったのでは、と自分でも思う。

「……いいよ。だが、怪我をして戻って来たら絶対に許さない」
「王都に戻しますか?」
「ああ。戻して大人しくさせて。俺が戻ったら結婚する」
「……もう」

 変わらないディアルトに、リリアンナは苦笑する。
 ディアルトの足がズッ……ズッ……と地面をこする音がやけに耳を打つ。周囲は昼間の戦の轟音はどこかに、静けさが支配していた。
 人が大勢いる戦場だというのに、少し砦から離れただけでこの静寂だ。この世界には自分とディアルトしかいないのでは、という幻想すら味わう。

「殿下、どこに向かわれるのですか?」
「もう少し」

 リリアンナの問いに答えず、ディアルトは足をひきずって歩き続ける。
 やがて荷馬車が置いてある場所を通り過ぎた先に、点々と白い花が咲いているのが見えた。

「……はぁ」

 歩くのが辛かったのか、ディアルトが立ち止まって息をつく。
 思わず駆け寄って手助けしようとすると、ディアルトが振り向いて笑みを浮かべた。

「この土地を、君に捧げたい」
「え?」

 突然そんな事を言われ、リリアンナは目を瞬かせる。
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