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殿下の命令を必ず遂行します
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「リリィ、援軍はあとどれぐらいで?」
真剣な表情になったディアルトに尋ねられ、リリアンナも表情を引き締めた。
「私たちは最速で飛ばした先発隊です。本陣は急いでも、二日後の朝から午前中になると思います」
「そうか……。実はファイアナの陣でもおかしな動きがあってな。見張りが精霊を使って調べたところ、かなり多くの精霊と契約している大物が本陣に来る気配がある」
「大物……ですか。将軍クラスですか?」
ファイアナには名を馳せた将軍が三人いる。ライアンが元帥である関係から、リリアンナも直接彼らに見(まみ)えたことがあった。
将軍の中には血気盛んな者もおり、彼らが一気に攻め込んでくるとなると厄介だ。
「将軍は現在一人本陣に常駐している。その契約数が百五十万とすれば、近づいてきているのは五百万はくだらないという情報だ」
「それは……、国王クラスじゃないですか」
呟いて、リリアンナは自分の胸に手を当てた。
リリアンナと契約している風の精霊たちが、火の精霊に触発されて活発になっているのが分かる。リリアンナも気持ちが昂ぶっていて、今すぐにでも戦闘に加われるほどだ。
「……かもしれないね。だとしたら、是非とも話し合いのテーブルに着きたいものだが」
戦場にきてまで、ディアルトは平和を望んでいる。
「殿下」
「ファイアナは強大な国だ。国土に砂漠が多いとは言え、オアシスにある王都はとても栄えている。過酷な環境で軍事訓練を行い、兵士達も強い。たとえこの前線で兵を引かせたとしても、いつ再びウィンドミドルを狙うか分からない。そうなる前に国王と話し合いをし、納得してもらう必要がある」
「そう……ですね」
きちんと未来を見据えたディアルトの言葉に、リリアンナは今すぐにでも戦闘に望もうとしていた自分を恥じる。
(恥ずかしいわ。援軍を率いて叩き潰せばいいと考えていた私は、なんて浅はかなの。殿下はいつでも、王の器として相応しい考えを持っているのだわ。それに対して私は、命令をされ思いきり戦うだけが脳の、王の剣だわ。脳筋だという自覚はあれど、ここまで殿下と差があると思うと恥ずかしい)
唇を噛み、紅潮した顔を小さく左右に振ると、リリアンナは真剣な眼差しをディアルトに向ける。
「……私は殿下の命令を必ず遂行します。兵士たちの士気を上げ、第一の剣となって切り込む必要があるならそう致します」
「ありがとう、リリィ。まずは援軍が来るまでここの環境に慣れて、敵陣の様子を見て欲しい。君ほどの使い手なら、遠くまで精霊をやって意識を飛ばせるだろう」
「はい、今すぐにでも」
命令をくだされ立ち上がると、ディアルトも自分の服を掴みベッドから下りる。
「大丈夫ですか? 支えが必要なら、お助け致します」
「ん、大丈夫。甲冑を着けるの、手伝ってくれるか?」
「はい」
両足を床につけたディアルトは、片足を庇っている様子だった。インナーに袖を通す彼にリリアンナは静かに尋ねる。
「殿下。御御足(おみあし)はどのように?」
「大丈夫。膝から下が裂けたが、今はくっつけてもらった。後は損傷した組織が回復するのを待つだけだ」
「…………」
ディアルトが負った大怪我に、リリアンナは顔を歪める。彼があまりに何でもないことのように言うので、心配を通り越して怒りたくなってしまう。
グッと沸点が上がったのを必死に抑え、リリアンナは忠臣としての言葉を口にした。
「私がお側にいれば、そのようなお怪我を負わせません」
「頼りにしてるよ」
シャツとジャケットを着て、ディアルトはポンポンとリリアンナの頭を撫でる。
ディアルトがショルダーガードに手を伸ばしたので、リリアンナも装備の手伝いを始めた。
真剣な表情になったディアルトに尋ねられ、リリアンナも表情を引き締めた。
「私たちは最速で飛ばした先発隊です。本陣は急いでも、二日後の朝から午前中になると思います」
「そうか……。実はファイアナの陣でもおかしな動きがあってな。見張りが精霊を使って調べたところ、かなり多くの精霊と契約している大物が本陣に来る気配がある」
「大物……ですか。将軍クラスですか?」
ファイアナには名を馳せた将軍が三人いる。ライアンが元帥である関係から、リリアンナも直接彼らに見(まみ)えたことがあった。
将軍の中には血気盛んな者もおり、彼らが一気に攻め込んでくるとなると厄介だ。
「将軍は現在一人本陣に常駐している。その契約数が百五十万とすれば、近づいてきているのは五百万はくだらないという情報だ」
「それは……、国王クラスじゃないですか」
呟いて、リリアンナは自分の胸に手を当てた。
リリアンナと契約している風の精霊たちが、火の精霊に触発されて活発になっているのが分かる。リリアンナも気持ちが昂ぶっていて、今すぐにでも戦闘に加われるほどだ。
「……かもしれないね。だとしたら、是非とも話し合いのテーブルに着きたいものだが」
戦場にきてまで、ディアルトは平和を望んでいる。
「殿下」
「ファイアナは強大な国だ。国土に砂漠が多いとは言え、オアシスにある王都はとても栄えている。過酷な環境で軍事訓練を行い、兵士達も強い。たとえこの前線で兵を引かせたとしても、いつ再びウィンドミドルを狙うか分からない。そうなる前に国王と話し合いをし、納得してもらう必要がある」
「そう……ですね」
きちんと未来を見据えたディアルトの言葉に、リリアンナは今すぐにでも戦闘に望もうとしていた自分を恥じる。
(恥ずかしいわ。援軍を率いて叩き潰せばいいと考えていた私は、なんて浅はかなの。殿下はいつでも、王の器として相応しい考えを持っているのだわ。それに対して私は、命令をされ思いきり戦うだけが脳の、王の剣だわ。脳筋だという自覚はあれど、ここまで殿下と差があると思うと恥ずかしい)
唇を噛み、紅潮した顔を小さく左右に振ると、リリアンナは真剣な眼差しをディアルトに向ける。
「……私は殿下の命令を必ず遂行します。兵士たちの士気を上げ、第一の剣となって切り込む必要があるならそう致します」
「ありがとう、リリィ。まずは援軍が来るまでここの環境に慣れて、敵陣の様子を見て欲しい。君ほどの使い手なら、遠くまで精霊をやって意識を飛ばせるだろう」
「はい、今すぐにでも」
命令をくだされ立ち上がると、ディアルトも自分の服を掴みベッドから下りる。
「大丈夫ですか? 支えが必要なら、お助け致します」
「ん、大丈夫。甲冑を着けるの、手伝ってくれるか?」
「はい」
両足を床につけたディアルトは、片足を庇っている様子だった。インナーに袖を通す彼にリリアンナは静かに尋ねる。
「殿下。御御足(おみあし)はどのように?」
「大丈夫。膝から下が裂けたが、今はくっつけてもらった。後は損傷した組織が回復するのを待つだけだ」
「…………」
ディアルトが負った大怪我に、リリアンナは顔を歪める。彼があまりに何でもないことのように言うので、心配を通り越して怒りたくなってしまう。
グッと沸点が上がったのを必死に抑え、リリアンナは忠臣としての言葉を口にした。
「私がお側にいれば、そのようなお怪我を負わせません」
「頼りにしてるよ」
シャツとジャケットを着て、ディアルトはポンポンとリリアンナの頭を撫でる。
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