上 下
58 / 109

殿下の命令を必ず遂行します

しおりを挟む
「リリィ、援軍はあとどれぐらいで?」

 真剣な表情になったディアルトに尋ねられ、リリアンナも表情を引き締めた。

「私たちは最速で飛ばした先発隊です。本陣は急いでも、二日後の朝から午前中になると思います」
「そうか……。実はファイアナの陣でもおかしな動きがあってな。見張りが精霊を使って調べたところ、かなり多くの精霊と契約している大物が本陣に来る気配がある」
「大物……ですか。将軍クラスですか?」

 ファイアナには名を馳せた将軍が三人いる。ライアンが元帥である関係から、リリアンナも直接彼らに見(まみ)えたことがあった。
 将軍の中には血気盛んな者もおり、彼らが一気に攻め込んでくるとなると厄介だ。

「将軍は現在一人本陣に常駐している。その契約数が百五十万とすれば、近づいてきているのは五百万はくだらないという情報だ」
「それは……、国王クラスじゃないですか」

 呟いて、リリアンナは自分の胸に手を当てた。
 リリアンナと契約している風の精霊たちが、火の精霊に触発されて活発になっているのが分かる。リリアンナも気持ちが昂ぶっていて、今すぐにでも戦闘に加われるほどだ。

「……かもしれないね。だとしたら、是非とも話し合いのテーブルに着きたいものだが」

 戦場にきてまで、ディアルトは平和を望んでいる。

「殿下」
「ファイアナは強大な国だ。国土に砂漠が多いとは言え、オアシスにある王都はとても栄えている。過酷な環境で軍事訓練を行い、兵士達も強い。たとえこの前線で兵を引かせたとしても、いつ再びウィンドミドルを狙うか分からない。そうなる前に国王と話し合いをし、納得してもらう必要がある」
「そう……ですね」

 きちんと未来を見据えたディアルトの言葉に、リリアンナは今すぐにでも戦闘に望もうとしていた自分を恥じる。

(恥ずかしいわ。援軍を率いて叩き潰せばいいと考えていた私は、なんて浅はかなの。殿下はいつでも、王の器として相応しい考えを持っているのだわ。それに対して私は、命令をされ思いきり戦うだけが脳の、王の剣だわ。脳筋だという自覚はあれど、ここまで殿下と差があると思うと恥ずかしい)

 唇を噛み、紅潮した顔を小さく左右に振ると、リリアンナは真剣な眼差しをディアルトに向ける。

「……私は殿下の命令を必ず遂行します。兵士たちの士気を上げ、第一の剣となって切り込む必要があるならそう致します」
「ありがとう、リリィ。まずは援軍が来るまでここの環境に慣れて、敵陣の様子を見て欲しい。君ほどの使い手なら、遠くまで精霊をやって意識を飛ばせるだろう」
「はい、今すぐにでも」

 命令をくだされ立ち上がると、ディアルトも自分の服を掴みベッドから下りる。

「大丈夫ですか? 支えが必要なら、お助け致します」
「ん、大丈夫。甲冑を着けるの、手伝ってくれるか?」
「はい」

 両足を床につけたディアルトは、片足を庇っている様子だった。インナーに袖を通す彼にリリアンナは静かに尋ねる。

「殿下。御御足(おみあし)はどのように?」
「大丈夫。膝から下が裂けたが、今はくっつけてもらった。後は損傷した組織が回復するのを待つだけだ」
「…………」

 ディアルトが負った大怪我に、リリアンナは顔を歪める。彼があまりに何でもないことのように言うので、心配を通り越して怒りたくなってしまう。
 グッと沸点が上がったのを必死に抑え、リリアンナは忠臣としての言葉を口にした。

「私がお側にいれば、そのようなお怪我を負わせません」
「頼りにしてるよ」

 シャツとジャケットを着て、ディアルトはポンポンとリリアンナの頭を撫でる。

 ディアルトがショルダーガードに手を伸ばしたので、リリアンナも装備の手伝いを始めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる

奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。 だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。 「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」  どう尋ねる兄の真意は……

若社長な旦那様は欲望に正直~新妻が可愛すぎて仕事が手につかない~

雪宮凛
恋愛
「来週からしばらく、在宅ワークをすることになった」 夕食時、突如告げられた夫の言葉に驚く静香。だけど、大好きな旦那様のために、少しでも良い仕事環境を整えようと奮闘する。 そんな健気な妻の姿を目の当たりにした夫の至は、仕事中にも関わらずムラムラしてしまい――。 全3話 ※タグにご注意ください/ムーンライトノベルズより転載

処理中です...