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私のような乱暴者で可愛げのない女

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「……リリィ。君も無理をしたんじゃないのか? 俺はここに来ることを禁じたはずだ。それに妃陛下だっていい顔をしなかっただろう」

 そう言いつつ、ディアルトはリリアンナの腰に手を回し、彼女の輪郭をたどってゆく。
 まるで目の前にいるリリアンナが幻ではないかと、疑っているかのようだ。

「妃殿下なら、謁見の間で怒鳴りつけてきました」

 スッキリとした顔で言うリリアンナに、ディアルトは「は?」と間抜けな顔をする。

「ロキアに殿下からのバラを受け取りました。戦場にいらっしゃるというのに、私の誕生日を覚えてロキアに指示をするなんて……。『殿下らしい』と思うと同時に、『バラぐらい自分で渡しに来てはどうですか?』と怒りが沸き起こったのです。その生きた感情が私を動かしました。いつまでも病人のように塞いでいるのは、本来の私の性に合いません。戦場に乗り込んで、殿下を殴って引きずってでも連れ帰ると決めました」

 会いたくて駆けつけたというよりも、「怒り」と聞いて思わずディアルトが噴き出す。

「ですから、そのために妃陛下を怒鳴りつけるなど私にはどうって事はないのです」
「リリィ」

「父も私に賛同してくださいました。必要があるならイリス家を筆頭に軍を動かすとも、陛下に進言してくださいました。また、陛下も妃陛下に言動を慎むよう言われ、殿下の暗殺未遂についても、事実をつまびらかにすると仰いました」
「…………」

 自分が関与しない場所で、様々なことが動き始めてディアルトが表情を強張らせる。
 そんな彼の前で、リリアンナは爽やかな風のような笑みを浮かべた。

「私は戦争を終わらせるために、援軍を引き連れて参りました。そして殿下を王宮に連れ戻し、あなたを王にします」

 リリアンナの目には、一点の曇りもない。
 主であるディアルトの成功を望み、彼のためなら何も惜しくないという忠誠心に溢れている。

「殿下、あなたはお優しすぎます。あなたは望んでいなくても、正当な血筋が王となり善政を施すことを周囲が望んでいます。殿下がこの戦に勝利し、王都に凱旋すれば誰も殿下に異を唱えるものはいなくなるでしょう。私はそのためなら、何だって致します」

 白百合のようにリリアンナは凛と微笑む。
 彼女の揺るぎない目を見て、ディアルトも笑いながら息をついた。

「まったく……、君は。俺をそそのかす悪い女だ」

 困ったように笑うディアルトの頭を撫で、リリアンナはベッドの端に腰掛けた。そしてわざと、〝悪い女〟を演じて妖艶に笑う。

「今頃気付きましたか?」

(知らないあいだにお怪我をされて、寝ているあいだに他の女性に手を握られていた殿下など、困ればいいのだわ)

 そう思って、リリアンナは意図的に彼の体に胸を押しつけ、脚を組んで太腿を誇示した。

「……と」

 思った通りディアルトは目のやり場に困り、チラチラとペチコートから覗いた太腿を盗み見している。

「……なぁ、リリィ。これはわざとか? わざと俺を生殺しにしている?」
「……当たり前です。私は怒っていますから」

 ディアルトをこらしめたと内心ガッツポーズを取ったリリアンナは、組んだ脚を戻すといつものようにキリッとした表情になる。

「いくらお忙しいとはいえ、王宮に報告書は送っても私には何も送ってくださらない。一年近く放置され、やっと頼りがあったと思えばバラの花束。ふざけているんですか? 意を決して王妃陛下に逆らい、前線まで駆けつけてみれば……」
「ば?」
「……怪我をして、……き、綺麗な女の人に手を握られてスースー眠っていらっしゃるし」
「えぇ?」

 後半を聞いたディアルトが、ポカンと口を開けた。
 その様子に、リリアンナは内心安堵する。

(……良かった。殿下は望んであの女性をお側に置かれたのではないみたいだわ。もしかしたら、彼女の片想いかもしれない。……でも)

 しかし一度ディアルトに絡んでしまうと、ネチネチとした嫉妬が止められない。

「私のような乱暴者で可愛げのない女より、ああいう大人しそうな女性の方がお好きなのですね」

(――私、可愛くないことを言っているわ)

 こんなこと言いたくないのに、と、リリアンナは自分の女々しさにうんざりする。
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