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私は世界を敵に回してでも殿下を守ります!

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「な……っ。何を失礼なことを言っているの? 幾ら陛下のお気に入りとは言え、言っていいことと悪いことがありますわ。殿下のお側にいるうちに、考え方も感化され無礼なことを言うようになったのですか? お飾りの女騎士は、王宮の中で騎士ごっこをしていれば良いのです」

 顔を赤くして激昂するソフィアに、リリアンナも引かない。

「恐れながら!」

 ちっとも恐れていないという様子で、リリアンナはソフィアに負けない声を張り上げる。
 空気がビリッと震え、一瞬風が巻き起こったほどだ。
 その気迫に呑まれ、全員がリリアンナに注目したあと彼女が口を開く。

「王妃殿下こそ、我が主を愚弄しないで頂きましょうか! 今こそ国王陛下が王座に座しているものの、本来なら殿下がこの国を治めているはずでした! それをあなたが! 殿下には精霊の加護がないからと、反対したのではないですか!」

 あまりの迫力に、リリアンナのポニーテールがフワリと持ち上がり、スカートの裾までが風になびく。グリーンの瞳は爛々と輝き、金色の虹彩が光を放っているようにすら思えた。

「や……っ、やめなさい! 王族の前で力を行使して、失礼だと思わないのですか!?」

 王家の人間とはいえ、ソフィアの持つ風の力はリリアンナに遠く及ばない。
 ソフィアにあるのは、煽動術と話術、策略と野心だけだ。

「失礼なのは貴女です! 私は殿下だけの命令を聞く、王家の守り手です! 先王陛下を私の母が守り、今の国王陛下は元帥である父が見守っています。そして王位継承権第一位の殿下は、私がお守りしています! イリス家は公爵家であれど、独立した力を持つ家です。イリス家の一族が王家から離反すれば、軍に関わる多くの者たちが離れます。この国は戦力を失い、直ちにファイアナの脅威にさらされるでしょう」

 それは周知の事実だ。しかし今まであまりにイリス家が従順に王家を守っていたので、全員失念していたことでもある。
 リリアンナの親戚たちは全員騎士団や王宮の高位武官にいて、彼らを慕う者たちは大勢いる。いわば、イリス家は国家の武闘派そのものと言える。
 それらが部下である騎士団や武官たちを率いて離反するとなれば、想像するだけでゾッとする。規律が乱れるだけではなく、国を象る半分が崩壊するのだ。

「お……っ、脅すのですか!? 王妃を脅すのですか!?」

 ソフィアが美しい顔を歪め、リリアンナを睨みつける。
 カダンは静かな面持ちで、ことの成り行きを見守っていた。王子たち――特に長男のバレルは、ある種の覚悟を持った顔をしている。

「殿下の御身に危険が及ぶようなら、私は世界を敵に回してでも殿下を守ります! たとえ妃殿下であろうが、私は容赦致しません!」

 声を張り上げ、リリアンナは大臣たち、貴族たちを睨みつけるように見回した。

「あなた達もよく考えるといいでしょう! 本当に大事なのは保身なのか、それともこの国なのか! 歪められた政治の上に成り立つ一時的な安楽か、先王陛下より伝えられた正式な血筋か!」

 リリアンナは腰にあるレイピアを鞘ごと抜き、鐺(こじり)の部分でドンッと床を突いた。
 同時に風が巻き起こり、人々の髪や衣服をなびかせてゆく。

「私はこの戦争の勝利と、殿下の正式な継承を求めます! そのために、一刻も早い応援を前線に送って頂きたく存じます!」

 リリアンナの目は爛々と光り、その感情の高ぶりは周囲に風の精霊の姿が可視できるほどだ。
 風の娘たちがリリアンナにまとわりつき、舞いながら加護している。その様子は、風の精霊の加護を得ている全員が目視できる。
 反逆とも取れるリリアンナの声に、ソフィアは口をパクパクとさせて言葉を失い、人々もシンと静まりかえった。
 前列にいたライアンが進み出て、静かに口を開く。

「陛下、娘が場を乱し心よりお詫び申し上げます。ですが私の気持ちも娘と同じ所にあります。正直国王の座に関しましては、良い政治を行うのなら誰でも宜しいと思っております。しかしこの戦争だけは、終わらせなければなりません。先王陛下と共に散った我が妻の名誉にかけても、次の世代にまで長引かせてはいけない戦争です」

 この国の英雄でもあったリーズベットが引き合いに出され、カダンの面持ちが変わる。

「私は世の父がそうであるように、子の幸せを願っています。息子のリオンを戦地から呼び戻し、娘のリリアンナには早く女として幸せになって欲しい。そのためには、戦争を終わらせなければなりません」
「子の幸せ……」

 ライアンの言葉にカダンが思わず呟いた。
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