51 / 109
私は世界を敵に回してでも殿下を守ります!
しおりを挟む
「な……っ。何を失礼なことを言っているの? 幾ら陛下のお気に入りとは言え、言っていいことと悪いことがありますわ。殿下のお側にいるうちに、考え方も感化され無礼なことを言うようになったのですか? お飾りの女騎士は、王宮の中で騎士ごっこをしていれば良いのです」
顔を赤くして激昂するソフィアに、リリアンナも引かない。
「恐れながら!」
ちっとも恐れていないという様子で、リリアンナはソフィアに負けない声を張り上げる。
空気がビリッと震え、一瞬風が巻き起こったほどだ。
その気迫に呑まれ、全員がリリアンナに注目したあと彼女が口を開く。
「王妃殿下こそ、我が主を愚弄しないで頂きましょうか! 今こそ国王陛下が王座に座しているものの、本来なら殿下がこの国を治めているはずでした! それをあなたが! 殿下には精霊の加護がないからと、反対したのではないですか!」
あまりの迫力に、リリアンナのポニーテールがフワリと持ち上がり、スカートの裾までが風になびく。グリーンの瞳は爛々と輝き、金色の虹彩が光を放っているようにすら思えた。
「や……っ、やめなさい! 王族の前で力を行使して、失礼だと思わないのですか!?」
王家の人間とはいえ、ソフィアの持つ風の力はリリアンナに遠く及ばない。
ソフィアにあるのは、煽動術と話術、策略と野心だけだ。
「失礼なのは貴女です! 私は殿下だけの命令を聞く、王家の守り手です! 先王陛下を私の母が守り、今の国王陛下は元帥である父が見守っています。そして王位継承権第一位の殿下は、私がお守りしています! イリス家は公爵家であれど、独立した力を持つ家です。イリス家の一族が王家から離反すれば、軍に関わる多くの者たちが離れます。この国は戦力を失い、直ちにファイアナの脅威にさらされるでしょう」
それは周知の事実だ。しかし今まであまりにイリス家が従順に王家を守っていたので、全員失念していたことでもある。
リリアンナの親戚たちは全員騎士団や王宮の高位武官にいて、彼らを慕う者たちは大勢いる。いわば、イリス家は国家の武闘派そのものと言える。
それらが部下である騎士団や武官たちを率いて離反するとなれば、想像するだけでゾッとする。規律が乱れるだけではなく、国を象る半分が崩壊するのだ。
「お……っ、脅すのですか!? 王妃を脅すのですか!?」
ソフィアが美しい顔を歪め、リリアンナを睨みつける。
カダンは静かな面持ちで、ことの成り行きを見守っていた。王子たち――特に長男のバレルは、ある種の覚悟を持った顔をしている。
「殿下の御身に危険が及ぶようなら、私は世界を敵に回してでも殿下を守ります! たとえ妃殿下であろうが、私は容赦致しません!」
声を張り上げ、リリアンナは大臣たち、貴族たちを睨みつけるように見回した。
「あなた達もよく考えるといいでしょう! 本当に大事なのは保身なのか、それともこの国なのか! 歪められた政治の上に成り立つ一時的な安楽か、先王陛下より伝えられた正式な血筋か!」
リリアンナは腰にあるレイピアを鞘ごと抜き、鐺(こじり)の部分でドンッと床を突いた。
同時に風が巻き起こり、人々の髪や衣服をなびかせてゆく。
「私はこの戦争の勝利と、殿下の正式な継承を求めます! そのために、一刻も早い応援を前線に送って頂きたく存じます!」
リリアンナの目は爛々と光り、その感情の高ぶりは周囲に風の精霊の姿が可視できるほどだ。
風の娘たちがリリアンナにまとわりつき、舞いながら加護している。その様子は、風の精霊の加護を得ている全員が目視できる。
反逆とも取れるリリアンナの声に、ソフィアは口をパクパクとさせて言葉を失い、人々もシンと静まりかえった。
前列にいたライアンが進み出て、静かに口を開く。
「陛下、娘が場を乱し心よりお詫び申し上げます。ですが私の気持ちも娘と同じ所にあります。正直国王の座に関しましては、良い政治を行うのなら誰でも宜しいと思っております。しかしこの戦争だけは、終わらせなければなりません。先王陛下と共に散った我が妻の名誉にかけても、次の世代にまで長引かせてはいけない戦争です」
この国の英雄でもあったリーズベットが引き合いに出され、カダンの面持ちが変わる。
「私は世の父がそうであるように、子の幸せを願っています。息子のリオンを戦地から呼び戻し、娘のリリアンナには早く女として幸せになって欲しい。そのためには、戦争を終わらせなければなりません」
「子の幸せ……」
ライアンの言葉にカダンが思わず呟いた。
顔を赤くして激昂するソフィアに、リリアンナも引かない。
「恐れながら!」
ちっとも恐れていないという様子で、リリアンナはソフィアに負けない声を張り上げる。
空気がビリッと震え、一瞬風が巻き起こったほどだ。
その気迫に呑まれ、全員がリリアンナに注目したあと彼女が口を開く。
「王妃殿下こそ、我が主を愚弄しないで頂きましょうか! 今こそ国王陛下が王座に座しているものの、本来なら殿下がこの国を治めているはずでした! それをあなたが! 殿下には精霊の加護がないからと、反対したのではないですか!」
あまりの迫力に、リリアンナのポニーテールがフワリと持ち上がり、スカートの裾までが風になびく。グリーンの瞳は爛々と輝き、金色の虹彩が光を放っているようにすら思えた。
「や……っ、やめなさい! 王族の前で力を行使して、失礼だと思わないのですか!?」
王家の人間とはいえ、ソフィアの持つ風の力はリリアンナに遠く及ばない。
ソフィアにあるのは、煽動術と話術、策略と野心だけだ。
「失礼なのは貴女です! 私は殿下だけの命令を聞く、王家の守り手です! 先王陛下を私の母が守り、今の国王陛下は元帥である父が見守っています。そして王位継承権第一位の殿下は、私がお守りしています! イリス家は公爵家であれど、独立した力を持つ家です。イリス家の一族が王家から離反すれば、軍に関わる多くの者たちが離れます。この国は戦力を失い、直ちにファイアナの脅威にさらされるでしょう」
それは周知の事実だ。しかし今まであまりにイリス家が従順に王家を守っていたので、全員失念していたことでもある。
リリアンナの親戚たちは全員騎士団や王宮の高位武官にいて、彼らを慕う者たちは大勢いる。いわば、イリス家は国家の武闘派そのものと言える。
それらが部下である騎士団や武官たちを率いて離反するとなれば、想像するだけでゾッとする。規律が乱れるだけではなく、国を象る半分が崩壊するのだ。
「お……っ、脅すのですか!? 王妃を脅すのですか!?」
ソフィアが美しい顔を歪め、リリアンナを睨みつける。
カダンは静かな面持ちで、ことの成り行きを見守っていた。王子たち――特に長男のバレルは、ある種の覚悟を持った顔をしている。
「殿下の御身に危険が及ぶようなら、私は世界を敵に回してでも殿下を守ります! たとえ妃殿下であろうが、私は容赦致しません!」
声を張り上げ、リリアンナは大臣たち、貴族たちを睨みつけるように見回した。
「あなた達もよく考えるといいでしょう! 本当に大事なのは保身なのか、それともこの国なのか! 歪められた政治の上に成り立つ一時的な安楽か、先王陛下より伝えられた正式な血筋か!」
リリアンナは腰にあるレイピアを鞘ごと抜き、鐺(こじり)の部分でドンッと床を突いた。
同時に風が巻き起こり、人々の髪や衣服をなびかせてゆく。
「私はこの戦争の勝利と、殿下の正式な継承を求めます! そのために、一刻も早い応援を前線に送って頂きたく存じます!」
リリアンナの目は爛々と光り、その感情の高ぶりは周囲に風の精霊の姿が可視できるほどだ。
風の娘たちがリリアンナにまとわりつき、舞いながら加護している。その様子は、風の精霊の加護を得ている全員が目視できる。
反逆とも取れるリリアンナの声に、ソフィアは口をパクパクとさせて言葉を失い、人々もシンと静まりかえった。
前列にいたライアンが進み出て、静かに口を開く。
「陛下、娘が場を乱し心よりお詫び申し上げます。ですが私の気持ちも娘と同じ所にあります。正直国王の座に関しましては、良い政治を行うのなら誰でも宜しいと思っております。しかしこの戦争だけは、終わらせなければなりません。先王陛下と共に散った我が妻の名誉にかけても、次の世代にまで長引かせてはいけない戦争です」
この国の英雄でもあったリーズベットが引き合いに出され、カダンの面持ちが変わる。
「私は世の父がそうであるように、子の幸せを願っています。息子のリオンを戦地から呼び戻し、娘のリリアンナには早く女として幸せになって欲しい。そのためには、戦争を終わらせなければなりません」
「子の幸せ……」
ライアンの言葉にカダンが思わず呟いた。
3
お気に入りに追加
468
あなたにおすすめの小説
王女、騎士と結婚させられイかされまくる
ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。
性描写激しめですが、甘々の溺愛です。
※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
獣人の里の仕置き小屋
真木
恋愛
ある狼獣人の里には、仕置き小屋というところがある。
獣人は愛情深く、その執着ゆえに伴侶が逃げ出すとき、獣人の夫が伴侶に仕置きをするところだ。
今夜もまた一人、里から出ようとして仕置き小屋に連れられてきた少女がいた。
仕置き小屋にあるものを見て、彼女は……。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
慰み者の姫は新皇帝に溺愛される
苺野 あん
恋愛
小国の王女フォセットは、貢物として帝国の皇帝に差し出された。
皇帝は齢六十の老人で、十八歳になったばかりのフォセットは慰み者として弄ばれるはずだった。
ところが呼ばれた寝室にいたのは若き新皇帝で、フォセットは花嫁として迎えられることになる。
早速、二人の初夜が始まった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる