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私は王家の守り手

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 やがてリリアンナの嗚咽が収まった頃、ロキアが静かに口を開いた。

「王宮からの情報では、まだ軍を動かす話し合いは進んでいないようです」

 その言葉を聞く頃には、リリアンナの気持ちは固まっていた。

「……もう、待てません」
「リリアンナ様?」

 拳で涙を拭い、リリアンナは地を踏みしめ立ち上がる。

「殿下のような男を、私はもう待ちません。こちらから出向いて、『遅い』と蹴り飛ばします」

 涙で濡れた瞳は、月光に煌めき強く光っていた。
 両手で持ったバラの香をスゥッと吸い込み、リリアンナは静かに告げる。

「私を止めないでください。私は殿下が言う通り待ちました。一年も待てば、命令を守ったほうだと思っています」

 リリアンナは以前のように生気に満ちたオーラを放ち、ロキアを真っ直ぐ見つめる。

「私は明日、王宮に乗り込んで騒ぎを起こします。率いることが可能な軍を率い、前線へ向かいます。絶対に、止めないでください」
「……リリアンナ様……」

 呆然とするロキアの目の前で、月光に照らされた女騎士は戦いの予感に奮い立つ。

「私は主をお救いするために、すべてを擲ちます」

 遠くからディアルトが、自分を変わらず想ってくれている。
 それだけで、リリアンナはすべてのものに立ち向かえる気がした。

(待っているだけなんて、私らしくない。命令を破って怒られてでも、守りたい方のお側に駆けつけ、共に戦いたい。お母様がかつて前陛下のことを命をかけて守ったように、今度は娘である私が殿下を何があってもお守りするのだわ)

「お慕いしている方と離れているのは、私の性に合いません。命をかけて戦争をどうにかし、殿下を殴ってでも連れ帰ります」
「……ご武運を」

 静かに微笑むロキアに、リリアンナは晴れ晴れとした笑みを浮かべた。

「私は王家の守り手、イリス家の長女です。精霊に祝福されたこの力、王家のため、国のため、そして殿下のために振るいます」

 そしてリリアンナはペコリと一礼をしてから、背筋を真っ直ぐ伸ばして屋敷の中に入った。

「……女性は強いな。リーズベット様のご息女だからか……。それとも、恋をする者の強さか」

 一人残されたロキアはそう呟き、月を見上げてから御者に声をかけた。

 同じ夜空の下、ディアルトも月を見上げているかもしれないと思いながら。

**

 鏡を見て長い髪をまとめ、ブルーのリボンを巻き付けキュッと縛る。一つにまとめられた髪を手放すと、スルンと一本のポニーテールが揺れた。
 鏡に映った自分の目を見るリリアンナは、これまでにない気迫に満ちている。

 アリカはリリアンナが戦地に向かうことに大反対した。だが散々言い合いをして説得した今は、大人しくなって甲冑を着けるのを手伝ってくれている。アリカによってレッグガードがつけられ、腰、胸、肩と白銀の甲冑がリリアンナを守ってゆく。

「私の祈りも込めて、お着け致しました」

 すべての身支度が調うと、アリカが丁寧に頭を下げた。

「ありがとう。アリカ」

 リリアンナは最後に腰のベルトに自分でレイピアを提げ、清々しく笑う。
 荷物は昨晩の内にまとめておき、花の離宮勤めの馬丁に馬の準備も頼んだ。
 あとは王宮に乗り込んで意思表示をし、共に戦場へ行く者を募るだけ。

「あと少しで定期報告が始まるわね」

 ディアルトの命令のお陰で、規則正しい生活を送り体内時計もしっかり整っている。今すぐにでも出立できる体力と気力が漲っていた。

「じゃあ、行くわ」

 決意を込めて告げたリリアンナを、アリカがギュッと抱き締める。

「……必ず、戻って来てください。この花の離宮を綺麗に整えて、お嬢様のお帰りをお待ちしております」
「ありがとう、アリカ」

 姉のような侍女を抱き締め返し、リリアンナが微笑む。

 顔を上げると最後に侍女に向かって笑いかけ、荷物を背負って歩き出した。
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