49 / 109
私は王家の守り手
しおりを挟む
やがてリリアンナの嗚咽が収まった頃、ロキアが静かに口を開いた。
「王宮からの情報では、まだ軍を動かす話し合いは進んでいないようです」
その言葉を聞く頃には、リリアンナの気持ちは固まっていた。
「……もう、待てません」
「リリアンナ様?」
拳で涙を拭い、リリアンナは地を踏みしめ立ち上がる。
「殿下のような男を、私はもう待ちません。こちらから出向いて、『遅い』と蹴り飛ばします」
涙で濡れた瞳は、月光に煌めき強く光っていた。
両手で持ったバラの香をスゥッと吸い込み、リリアンナは静かに告げる。
「私を止めないでください。私は殿下が言う通り待ちました。一年も待てば、命令を守ったほうだと思っています」
リリアンナは以前のように生気に満ちたオーラを放ち、ロキアを真っ直ぐ見つめる。
「私は明日、王宮に乗り込んで騒ぎを起こします。率いることが可能な軍を率い、前線へ向かいます。絶対に、止めないでください」
「……リリアンナ様……」
呆然とするロキアの目の前で、月光に照らされた女騎士は戦いの予感に奮い立つ。
「私は主をお救いするために、すべてを擲ちます」
遠くからディアルトが、自分を変わらず想ってくれている。
それだけで、リリアンナはすべてのものに立ち向かえる気がした。
(待っているだけなんて、私らしくない。命令を破って怒られてでも、守りたい方のお側に駆けつけ、共に戦いたい。お母様がかつて前陛下のことを命をかけて守ったように、今度は娘である私が殿下を何があってもお守りするのだわ)
「お慕いしている方と離れているのは、私の性に合いません。命をかけて戦争をどうにかし、殿下を殴ってでも連れ帰ります」
「……ご武運を」
静かに微笑むロキアに、リリアンナは晴れ晴れとした笑みを浮かべた。
「私は王家の守り手、イリス家の長女です。精霊に祝福されたこの力、王家のため、国のため、そして殿下のために振るいます」
そしてリリアンナはペコリと一礼をしてから、背筋を真っ直ぐ伸ばして屋敷の中に入った。
「……女性は強いな。リーズベット様のご息女だからか……。それとも、恋をする者の強さか」
一人残されたロキアはそう呟き、月を見上げてから御者に声をかけた。
同じ夜空の下、ディアルトも月を見上げているかもしれないと思いながら。
**
鏡を見て長い髪をまとめ、ブルーのリボンを巻き付けキュッと縛る。一つにまとめられた髪を手放すと、スルンと一本のポニーテールが揺れた。
鏡に映った自分の目を見るリリアンナは、これまでにない気迫に満ちている。
アリカはリリアンナが戦地に向かうことに大反対した。だが散々言い合いをして説得した今は、大人しくなって甲冑を着けるのを手伝ってくれている。アリカによってレッグガードがつけられ、腰、胸、肩と白銀の甲冑がリリアンナを守ってゆく。
「私の祈りも込めて、お着け致しました」
すべての身支度が調うと、アリカが丁寧に頭を下げた。
「ありがとう。アリカ」
リリアンナは最後に腰のベルトに自分でレイピアを提げ、清々しく笑う。
荷物は昨晩の内にまとめておき、花の離宮勤めの馬丁に馬の準備も頼んだ。
あとは王宮に乗り込んで意思表示をし、共に戦場へ行く者を募るだけ。
「あと少しで定期報告が始まるわね」
ディアルトの命令のお陰で、規則正しい生活を送り体内時計もしっかり整っている。今すぐにでも出立できる体力と気力が漲っていた。
「じゃあ、行くわ」
決意を込めて告げたリリアンナを、アリカがギュッと抱き締める。
「……必ず、戻って来てください。この花の離宮を綺麗に整えて、お嬢様のお帰りをお待ちしております」
「ありがとう、アリカ」
姉のような侍女を抱き締め返し、リリアンナが微笑む。
顔を上げると最後に侍女に向かって笑いかけ、荷物を背負って歩き出した。
「王宮からの情報では、まだ軍を動かす話し合いは進んでいないようです」
その言葉を聞く頃には、リリアンナの気持ちは固まっていた。
「……もう、待てません」
「リリアンナ様?」
拳で涙を拭い、リリアンナは地を踏みしめ立ち上がる。
「殿下のような男を、私はもう待ちません。こちらから出向いて、『遅い』と蹴り飛ばします」
涙で濡れた瞳は、月光に煌めき強く光っていた。
両手で持ったバラの香をスゥッと吸い込み、リリアンナは静かに告げる。
「私を止めないでください。私は殿下が言う通り待ちました。一年も待てば、命令を守ったほうだと思っています」
リリアンナは以前のように生気に満ちたオーラを放ち、ロキアを真っ直ぐ見つめる。
「私は明日、王宮に乗り込んで騒ぎを起こします。率いることが可能な軍を率い、前線へ向かいます。絶対に、止めないでください」
「……リリアンナ様……」
呆然とするロキアの目の前で、月光に照らされた女騎士は戦いの予感に奮い立つ。
「私は主をお救いするために、すべてを擲ちます」
遠くからディアルトが、自分を変わらず想ってくれている。
それだけで、リリアンナはすべてのものに立ち向かえる気がした。
(待っているだけなんて、私らしくない。命令を破って怒られてでも、守りたい方のお側に駆けつけ、共に戦いたい。お母様がかつて前陛下のことを命をかけて守ったように、今度は娘である私が殿下を何があってもお守りするのだわ)
「お慕いしている方と離れているのは、私の性に合いません。命をかけて戦争をどうにかし、殿下を殴ってでも連れ帰ります」
「……ご武運を」
静かに微笑むロキアに、リリアンナは晴れ晴れとした笑みを浮かべた。
「私は王家の守り手、イリス家の長女です。精霊に祝福されたこの力、王家のため、国のため、そして殿下のために振るいます」
そしてリリアンナはペコリと一礼をしてから、背筋を真っ直ぐ伸ばして屋敷の中に入った。
「……女性は強いな。リーズベット様のご息女だからか……。それとも、恋をする者の強さか」
一人残されたロキアはそう呟き、月を見上げてから御者に声をかけた。
同じ夜空の下、ディアルトも月を見上げているかもしれないと思いながら。
**
鏡を見て長い髪をまとめ、ブルーのリボンを巻き付けキュッと縛る。一つにまとめられた髪を手放すと、スルンと一本のポニーテールが揺れた。
鏡に映った自分の目を見るリリアンナは、これまでにない気迫に満ちている。
アリカはリリアンナが戦地に向かうことに大反対した。だが散々言い合いをして説得した今は、大人しくなって甲冑を着けるのを手伝ってくれている。アリカによってレッグガードがつけられ、腰、胸、肩と白銀の甲冑がリリアンナを守ってゆく。
「私の祈りも込めて、お着け致しました」
すべての身支度が調うと、アリカが丁寧に頭を下げた。
「ありがとう。アリカ」
リリアンナは最後に腰のベルトに自分でレイピアを提げ、清々しく笑う。
荷物は昨晩の内にまとめておき、花の離宮勤めの馬丁に馬の準備も頼んだ。
あとは王宮に乗り込んで意思表示をし、共に戦場へ行く者を募るだけ。
「あと少しで定期報告が始まるわね」
ディアルトの命令のお陰で、規則正しい生活を送り体内時計もしっかり整っている。今すぐにでも出立できる体力と気力が漲っていた。
「じゃあ、行くわ」
決意を込めて告げたリリアンナを、アリカがギュッと抱き締める。
「……必ず、戻って来てください。この花の離宮を綺麗に整えて、お嬢様のお帰りをお待ちしております」
「ありがとう、アリカ」
姉のような侍女を抱き締め返し、リリアンナが微笑む。
顔を上げると最後に侍女に向かって笑いかけ、荷物を背負って歩き出した。
5
お気に入りに追加
468
あなたにおすすめの小説
【R-18】悪役令嬢ですが、罠に嵌まって張型つき木馬に跨がる事になりました!
臣桜
恋愛
悪役令嬢エトラは、王女と聖女とお茶会をしたあと、真っ白な空間にいた。
そこには張型のついた木馬があり『ご自由に跨がってください。絶頂すれば元の世界に戻れます』の文字が……。
※ムーンライトノベルズ様にも重複投稿しています
※表紙はニジジャーニーで生成しました
【完結】【R18】伯爵夫人の務めだと、甘い夜に堕とされています。
水樹風
恋愛
とある事情から、近衛騎士団々長レイナート・ワーリン伯爵の後妻となったエルシャ。
十六歳年上の彼とは形だけの夫婦のはずだった。それでも『家族』として大切にしてもらい、伯爵家の女主人として役目を果たしていた彼女。
だが結婚三年目。ワーリン伯爵家を揺るがす事件が起こる。そして……。
白い結婚をしたはずのエルシャは、伯爵夫人として一番大事な役目を果たさなければならなくなったのだ。
「エルシャ、いいかい?」
「はい、レイ様……」
それは堪らなく、甘い夜──。
* 世界観はあくまで創作です。
* 全12話
淫らなお姫様とイケメン騎士達のエロスな夜伽物語
瀬能なつ
恋愛
17才になった皇女サーシャは、国のしきたりに従い、6人の騎士たちを従えて、遥か彼方の霊峰へと旅立ちます。
長い道中、姫を警護する騎士たちの体力を回復する方法は、ズバリ、キスとH!
途中、魔物に襲われたり、姫の寵愛を競い合う騎士たちの様々な恋の駆け引きもあったりと、お姫様の旅はなかなか困難なのです?!
【R-18】年下国王の異常な執愛~義母は義息子に啼かされる~【挿絵付】
臣桜
恋愛
『ガーランドの翠玉』、『妖精の紡いだ銀糸』……数々の美辞麗句が当てはまる17歳のリディアは、国王ブライアンに見初められ側室となった。しかし間もなくブライアンは崩御し、息子であるオーガストが成人して即位する事になった。17歳にして10歳の息子を持ったリディアは、戸惑いつつも宰相の力を借りオーガストを育てる。やがて11年後、21歳になり成人したオーガストは国王となるなり、28歳のリディアを妻に求めて……!?
※毎日更新予定です
※血の繋がりは一切ありませんが、義息子×義母という特殊な関係ですので地雷っぽい方はお気をつけください
※ムーンライトノベルズ様にも同時連載しています
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる