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なんて残酷な言葉を平気で口にするのだろう
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夕食はひと月以上ぶりに三人での席となった。
ディアルトの不在時、リリアンナは寂しがるシアナに招待され、よく二人で食事をとっていた。
「母上が寂しがってリリアンナを? 忙しくなかったのか? すまない」
嬉しそうに言うシアナに不在時のことを教えられ、ディアルトは瞠目したあとリリアンナに視線を向ける。
「いいえ。正直私は毎日、何をすればいいのか分かりませんでした。なので陛下に呼んで頂き、とてもありがたかったです。私がお側にいることで陛下のお心が癒やされるのなら、それ以上のことはありません」
「ふふ。私たちは似たもの同士なのよね」
上品に食事をしつつ、シアナが微笑む。
リリアンナは「息子が戦地に向かってシアナ様が寂しく思われているのなら……」と、シアナの相手役を買って出た。
だがその裏で、シアナがリリアンナを気遣っている面もあったのだ。
リリアンナは知らないことだが、アリカからロキア、そしてシアナへと情報が伝わっている。ディアルトが不在でリリアンナが消沈していることを知り、シアナは「寂しい者同士仲良くしましょう」と積極的に声を掛けていった。
シアナ自身夫を亡くし、ある程度喪失の辛さは分かっているつもりだ。もちろんディアルトのことも心配だが、それと同じぐらいリリアンナを慮った。
不器用でディアルト以外のことを考えられないリリアンナは、他の者が気を付けてあげなければ、あまりにまっすぐ過ぎてどこかで暴走してしまうのではと思ったのだ。
「本当に、陛下には救われました」
リリアンナも、久しぶりに食事らしい食事を口にし、柔らかな笑みを浮かべる。
何かを食べて「味がする」「美味しい」と思ったのは、実に久しぶりだった。
「俺の持論だけど、女性は男より強いと思う。母上は父上を亡くされたけど、こうやって息子である俺や未来の義娘になるリリアンナがいて、今こうやって穏やかに過ごされている。愛する者に先立たれた男より、女性のほうがしたたかに生きていると、宮中や騎士たちからもよく聞くよ。……だからリリアンナも、できるなら俺以外に生きる理由を見つけてほしい。俺がいなくなったらすべてを失ったように落ち込むのではなく、俺がいなくても大丈夫なようになってほしい」
最後の一言に、リリアンナは鈍器で頭を殴られたかのようなショックを受けた。
まるでこれから自分がいなくなると言わんばかりだ。
「……それは、命令……。ですか?」
ごそっと感情の抜けた顔になったリリアンナは、固まりそうになる頭を必死に動かし、やっとそれだけ呟く。
それに対し、ディアルトは優しく微笑み残酷なことを告げた。
「これは主というよりも、一人の男としての願いだ。俺はリリアンナを妻にしたいと思っている。だが現状ファイアナとの戦争の終わりは見えない。いずれ俺は戦地でどうなるかも分からないし、戦地に行かずとも先のことは分からない。俺はいつか死ぬ。君より先かあとか分からない。でも必ず死ぬ。……その時、俺が君より先にいなくなったとき、リリアンナには抜け殻のようになってほしくない。君にはいつもの君でいてほしい」
「…………」
あまりに残酷な言葉に、思わず涙が零れてしまいそうになった。
――この方は、なんて残酷な言葉を平気で口にするのだろう。
涙が零れないように目を見開いているリリアンナは、怒ったような顔になっていた。
(私の気持ちなど知らず、私を無視して、勝手に一人で戦地に向かって死ぬおつもりだ)
悔しくて、置いて行かれるのが辛くて、リリアンナは唇を震わせる。
「リリアンナ? 返事は?」
だがそう言われ、『護衛』として頷かざるを得なかった。
「……はい」
力なく返事をする自分に、リリアンナは嘆息する。
ディアルトの不在時、リリアンナは寂しがるシアナに招待され、よく二人で食事をとっていた。
「母上が寂しがってリリアンナを? 忙しくなかったのか? すまない」
嬉しそうに言うシアナに不在時のことを教えられ、ディアルトは瞠目したあとリリアンナに視線を向ける。
「いいえ。正直私は毎日、何をすればいいのか分かりませんでした。なので陛下に呼んで頂き、とてもありがたかったです。私がお側にいることで陛下のお心が癒やされるのなら、それ以上のことはありません」
「ふふ。私たちは似たもの同士なのよね」
上品に食事をしつつ、シアナが微笑む。
リリアンナは「息子が戦地に向かってシアナ様が寂しく思われているのなら……」と、シアナの相手役を買って出た。
だがその裏で、シアナがリリアンナを気遣っている面もあったのだ。
リリアンナは知らないことだが、アリカからロキア、そしてシアナへと情報が伝わっている。ディアルトが不在でリリアンナが消沈していることを知り、シアナは「寂しい者同士仲良くしましょう」と積極的に声を掛けていった。
シアナ自身夫を亡くし、ある程度喪失の辛さは分かっているつもりだ。もちろんディアルトのことも心配だが、それと同じぐらいリリアンナを慮った。
不器用でディアルト以外のことを考えられないリリアンナは、他の者が気を付けてあげなければ、あまりにまっすぐ過ぎてどこかで暴走してしまうのではと思ったのだ。
「本当に、陛下には救われました」
リリアンナも、久しぶりに食事らしい食事を口にし、柔らかな笑みを浮かべる。
何かを食べて「味がする」「美味しい」と思ったのは、実に久しぶりだった。
「俺の持論だけど、女性は男より強いと思う。母上は父上を亡くされたけど、こうやって息子である俺や未来の義娘になるリリアンナがいて、今こうやって穏やかに過ごされている。愛する者に先立たれた男より、女性のほうがしたたかに生きていると、宮中や騎士たちからもよく聞くよ。……だからリリアンナも、できるなら俺以外に生きる理由を見つけてほしい。俺がいなくなったらすべてを失ったように落ち込むのではなく、俺がいなくても大丈夫なようになってほしい」
最後の一言に、リリアンナは鈍器で頭を殴られたかのようなショックを受けた。
まるでこれから自分がいなくなると言わんばかりだ。
「……それは、命令……。ですか?」
ごそっと感情の抜けた顔になったリリアンナは、固まりそうになる頭を必死に動かし、やっとそれだけ呟く。
それに対し、ディアルトは優しく微笑み残酷なことを告げた。
「これは主というよりも、一人の男としての願いだ。俺はリリアンナを妻にしたいと思っている。だが現状ファイアナとの戦争の終わりは見えない。いずれ俺は戦地でどうなるかも分からないし、戦地に行かずとも先のことは分からない。俺はいつか死ぬ。君より先かあとか分からない。でも必ず死ぬ。……その時、俺が君より先にいなくなったとき、リリアンナには抜け殻のようになってほしくない。君にはいつもの君でいてほしい」
「…………」
あまりに残酷な言葉に、思わず涙が零れてしまいそうになった。
――この方は、なんて残酷な言葉を平気で口にするのだろう。
涙が零れないように目を見開いているリリアンナは、怒ったような顔になっていた。
(私の気持ちなど知らず、私を無視して、勝手に一人で戦地に向かって死ぬおつもりだ)
悔しくて、置いて行かれるのが辛くて、リリアンナは唇を震わせる。
「リリアンナ? 返事は?」
だがそう言われ、『護衛』として頷かざるを得なかった。
「……はい」
力なく返事をする自分に、リリアンナは嘆息する。
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