上 下
38 / 109

君が扇情的だからだ

しおりを挟む
「わっ……! あ、あ、……あっ」

 しゃがんでいた体勢からなんとか持ちこたえようとするが、思いきり腕を引かれたので、上半身から突っ込むようにしてバスタブに入ってしまった。

「……殿下」

 ざぷんと遅れて尻がバスタブに入り、チョロチョロとお湯が漏れていく音がする。
 膝から下をバスタブからはみ出させた格好で、リリアンナは驚きと呆れが混じった顔でディアルトを見上げた。

「はははっ……。おっかし……。びっくりした猫みたいな顔をしてる」
「……殿下?」

 はぁ……っと溜め息をついたリリアンナは、ブーツとレッグガードが濡れないように外してしまうと、ポイッと離れた場所に放り投げた。

「殿下。子供ではないのですから、困ります」

 真面目に突っ込むも,リリアンナのレースの下着はピッタリと体に張り付き、ふくよかな胸を誇示している。白いペチコートも浮力で浮き、湯の中で咲くようにたゆたっていた。

「君が扇情的だからだ」

 ディアルトは甘やかに微笑み、リリアンナを遠慮なく抱き締めてきた。
 開いた脚の中にリリアンナの体がすっぽりと収まり、顔がディアルトの胸板に押しつけられる。

「…………っ」

 ドキドキと胸が高鳴り、呼吸が震える。
 お腹の辺りに硬いモノがぐっと当たっている。リリアンナが性的なことに疎くても、そこに男性器があることぐらい分かっていた。

(マッサージをしていただけなのに、こんな硬くなっているんですか? 殿下の変態)

 恥ずかしくてその場から遁走したくなるが、リリアンナは努めて平静を保つ。

「……びしょ濡れじゃないですか」
「どうせ、今日は泊まるんだろ? 一緒に風呂に入ったと思えばいいよ」
「私はそのようなつもりではなかったのですが」

 リリアンナはもう、と内心頬を膨らませる。
 けれどまじまじとディアルトの顔を見て、別の感情が沸き起こった。

「……殿下もやつれられましたね。頬もこけてしまっています。目の下も、クマが酷いです」

 ディアルトの頬に手を当て、言葉にした場所を指でたどってゆく。

「もう元気になったよ」

 表情を和らげたディアルトが、リリアンナの額に唇を押しつけてきた。
 柔らかなしるしを額に与えられ、リリアンナは微かな吐息を漏らす。濡れた薄布越しに背中を撫でられ、ディアルトの手が臀部を撫でる。

「リリィ。会いたかったよ」

 ちゅ、ちゅと顔にディアルトの唇が押し当てられ、彼の手がリリアンナの体をまさぐる。

「…………っ」

 ――私も、お会いしたかったんです。

 こみ上げた気持ちを必死に抑え、リリアンナは俯いてされるがままになっていた。

「おや? リリィは会いたくなかったのか? 君の口から色んな言葉を聞きたいな」

 耳心地のいい声が耳朶をくすぐり、リリアンナはヒクッと肩を跳ねさせる。

「わ、……私、も……」

 唇がわななく。
 自分の気持ちを素直に吐露していいのか、分からなくなる。

 本当なら気兼ねなくディアルトに気持ちを伝え、寂しかった、心配していたと言いたい。けれどそれを言ってしまえば、リリアンナが護衛としてではなく、一人の女性としてディアルトを求めていることになる。

(殿下に『なんて意地っ張りなんだ』と思われているのは分かっている。けど……)

 ――私は殿下に相応しくない。

 それを分かっているからこそ、リリアンナは自らの気持ちを素直に口にすることができないでいた。

「リリィ? またゴチャゴチャ考えているな? 難しい気持ちは置いておいて、寂しかった? それとも情けない主がいなくて仕事が楽だった?」
「っそんな……!」

 わざとディアルトが自身を貶める言い方をし、リリアンナはカッとなって顔を上げる。

(私の殿下を貶めるようなことは、たとえ殿下でも許さない)

 顔を上げればそこにはどこか試すような、人を食ったようなディアルトの微笑みがある。つい乗せられて反応してしまったが、もう遅い。

「……お会い、したかったです。心配しておりました」
「うん、俺もだ」

 ニッコリと微笑んだディアルトに抱き寄せられ、リリアンナは唇を奪われていた。

「……ん」

 ちゅ、ちゅ……とついばむキスを受け、頭の芯がとろけてゆく。「護衛なのだからしっかりしないと」といういつもの緊張が、ディアルトに包み込まれ柔らかくほぐれていった。
 そのうちチュプ……と舌が入り込み、リリアンナの下肢に疼きが走る。

「ん……、ふ、……ン」

 滑らかな舌に口内を舐められ、ゾクゾクと腰が震えた。怯えているリリアンナの小さな舌を、ディアルトの舌が探り当てヌルヌルと舐めてくる。

(あぁ……、あ……)

 知らずとリリアンナは腰を揺らし、自らも拙く舌を動かしてディアルトに応えていた。
 その行為は互いの体の奥まで、気持ちを伝えるように思えて――。

 気が付けばリリアンナはディアルトの首に両腕をまわし、懸命に彼への想いを舌に乗せて伝えていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった

ミズノみすぎ
ファンタジー
「黒騎士ゼクード・フォルス。君を竜狩り精鋭部隊【ドラゴンキラー隊】の隊長に任命する」  15歳の春。  念願のS級騎士になった俺は、いきなり国王様からそんな命令を下された。 「隊長とか面倒くさいんですけど」  S級騎士はモテるって聞いたからなったけど、隊長とかそんな重いポジションは…… 「部下は美女揃いだぞ?」 「やらせていただきます!」  こうして俺は仕方なく隊長となった。  渡された部隊名簿を見ると隊員は俺を含めた女騎士3人の計4人構成となっていた。  女騎士二人は17歳。  もう一人の女騎士は19歳(俺の担任の先生)。   「あの……みんな年上なんですが」 「だが美人揃いだぞ?」 「がんばります!」  とは言ったものの。  俺のような若輩者の部下にされて、彼女たちに文句はないのだろうか?  と思っていた翌日の朝。  実家の玄関を部下となる女騎士が叩いてきた! ★のマークがついた話数にはイラストや4コマなどが後書きに記載されています。 ※2023年11月25日に書籍が発売しています!  イラストレーターはiltusa先生です! ※コミカライズも進行中!

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

処理中です...