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気持ち良くありませんか?

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 自然と男性の視線を集めるようになってしまったが、見られることについては耐性がついた気がした。騎士たちも見ることはしても、リリアンナのその姿が「男を誘っている」とか「ふしだらな格好」とかの勘違いをして、迫ってくるような者はいない。

 リリアンナがイリス家の娘で『王家の守り手』という特殊な立場にあり、騎士たちの誰よりも強力な精霊の力を持っていることが、彼女自身を守っているのだと思う。
 だがディアルトだけは、リリアンナに触れても許され、また彼女自身が個人的に心を許している存在だ。
 こんな風にバスルームでマッサージしてあげるのも、忠誠以上恋人未満の気持ちがあるからだ。

 だからリリアンナも、ディアルトに色のこもった目で見られて、恥じらうことはあれど基本平気な振りをしている。そのような目で見られても相手がディアルトなら嫌悪感など持たない。むしろほんの少しだけ「これで少しは私のことを女性らしいと思ってくれたら……」など、涙ぐましいことを考えている。
 そんなことを考えているうちにも、リリアンナは両方のふくらはぎを揉み終え、ディアルトの太腿を揉み始めている。

「ちょ……っ、リ、リリィ? 気持ちは嬉しいけどちょっと俺が色々ギリギリなんだけど」

 湯浴み着を穿いているとはいえ、少し手を動かせば彼のギリギリな部分に手が触れそうだ。
 リリアンナもそれは承知の上だが、性的なあれこれと体のマッサージは切り離して考えている。

「全身を使っていれば、太腿にも大きな負担が掛かっているはずです。太腿の筋肉は大きいですから、ここさえほぐしてしまえば、他の箇所も連動して楽になると思いますよ」
「あ、……う、うん……」

 こんなこともあろうかと、リリアンナは四神に守護された東方の大国に伝わる、人体にあるツボというものが書かれた指圧の教本を読みふけっていた。
 リリアンナはディアルトが傷めやすい体の部位も把握しており、癖にならないようどういった治療を受ければいいかも典医と常に相談している。
 そのうえで自分でできることを模索し、こうして実践しているのだ。
 だがそんな献身的な姿が、一か月近く『お預け』を喰らったディアルトに、ただ綺麗に美しく見えるはずがない。

「リ、リリィ。もうそろそろいいから」

 ディアルトは懸命に股間を押さえているが、リリアンナは気づいていない。

「どうしてです? お風呂から上がられましたら、腰や背中なども入念にマッサージして差し上げます」
「そ、そこまでしなくていいから」

 やや悲鳴に似た声に、リリアンナは手を止めて小首を傾げる。

「気持ち良くありませんか?」
「い、いや。気持ちいいよ? 逆に気持ち良すぎて困っているんだ」
「なぜ」

(私の力が強すぎて、本当は痛いのに、傷付けないように遠回しに伝えようとしているのかしら?)

 ハッと自らの腕力を顧みて、リリアンナは急に恥ずかしくなってきた。

「なぜ……って」
「私は殿下に気持ち良くなって頂きたいのです。どうか不備があるのなら、何でも仰ってください」

 真面目であるがゆえに、リリアンナの発言は聞く者が聞けば勘違いを生みかねない言葉を発した。
 その言葉が、ディアルトの最後の理性をぷちんと切った。
 ずっと離れていて触りたくても触れなかった好きな女が、さんざん薄着姿や揺れる谷間を見せつけていたのだ。
 ディアルトからすれば、ずっと我慢していたのを褒めてもらいたいほどだったのかもしれない。

「……リリィ」

 ディアルトが溜め息混じりの声を出したかと思うと、リリアンナは腕を引っ張られ重心を崩した。
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