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気持ちいいですか?
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「……今の俺は、そんなに余裕がないように見えるか?」
「恐れながら」
リリアンナはディアルトに嘘をつかない。
黙っていることはあるし、照れてしまうシチュエーションになれば心にもない言葉が出てしまう。だがそれ以外の場面では、常に自分がディアルトの第一の忠臣であり、彼が信頼する護衛でありたいと願っていた。
ディアルトは少し黙っていたが、今度は笑い混じりに溜め息をつくと、リリアンナを見て苦笑いする。
「……じゃあ、今日は素直に休んでおくよ。確かに気持ちが急いていたかもしれない。リリィはいつも俺のことを考えてくれているから、その言葉を信じる」
「恐縮です」
主の信頼を得てリリアンナは微笑むと、少し彼をねぎらってあげなければと思い、手甲をはじめ防具を外しだした。
「え?」
バスルームの床にゴトッと硬質な音を響かせリリアンナが次々に防具を外すので、逆にディアルトがたじろいだ声を出す。
「リ……リリィ?」
上ずった声を出すディアルトを無視し、リリアンナは青いオーバードレスも脱ぎ去ってしまった。
「傷を負わずに戻って来た殿下に、ご褒美を差し上げます」
レースの下着とペチコートのみという姿になったリリアンナは、ホットカンを持ちバスタブに熱い湯を足す。
「あっち」
足元に熱い湯を感じたディアルトが、小さく悲鳴を上げて長い脚を折り畳む。そしてリリアンナとの距離が近いからか、下腹部を覆った湯浴み着を押さえる。
「リリィ、ご褒美ってまさか一緒に入ってくれるのか? だったらレッグガードとブーツも外さないと……」
勘違いをしたディアルトの顔に、リリアンナはパシャッとお湯を掛けてやった。
「何を勘違いされているのです。疲れた筋肉をマッサージして差し上げますと、申し上げているのです」
リリアンナは呆れて溜め息をつき、手を湯の中に入れた。そして躊躇いなくディアルトの素肌――ふくらはぎに触れ、揉み始めた。
「浮腫んでいますね」
しなやかな十指がディアルトのふくらはぎに絡みつき、丁度いい力で揉んでゆく。
「あ……。きもちー……」
「今日は特別に、月の離宮に泊まって付き添って差し上げます」
「本当か?」
「本当です」
いつもはこんなに甘やかしたりしないが、今回だけは特別だ。リリアンナ自身、ずっと離れていて不安だったディアルトと一緒にいたいという気持ちがある。
「気持ちいいですか? 殿下」
手を動かすとチャプチャプとお湯が跳ねて、リリアンナの衣服に掛かる。だが濡れるのは覚悟の上で、終われば着替えるつもりなのでさほど気にしていない。
自分の胸元の上半分が出ているのはいつものことだが、胸当てがないので少し心元ない。ディアルトの前で甲冑をつけていないと、よりプライベートな自分を見せているようで気恥ずかしさがあった。
「……このまま襲ってしまいたい」
熱を孕んだ声がボソッと欲を告げ、リリアンナはジワッと赤面する。
だが恥じらっていることなど絶対に伝えたくないので、いつものままツンとして言い返した。
「今の殿下なら、返り討ちにできそうですね。下手な気持ちは起こさず、このまま身を委ねてください」
「そうは言っても……なぁ」
力を込めてディアルトのひきしまったふくらはぎを揉んでいると、自然にリリアンナの胸もユサユサと揺れてしまう。ディアルトの視線がチラチラとそこに向いているのは分かっているのだが、今は仕方がない。
リリアンナ自身、いつもの正装とも言うべき青いドレスに白銀の甲冑姿のとき、露出したくて胸の上部や太腿を出している訳ではない。
胸元は蒸れるから開放的にし、足元は走ったりジャンプしたりしやすいように、前だけ丈を短くしている。
「恐れながら」
リリアンナはディアルトに嘘をつかない。
黙っていることはあるし、照れてしまうシチュエーションになれば心にもない言葉が出てしまう。だがそれ以外の場面では、常に自分がディアルトの第一の忠臣であり、彼が信頼する護衛でありたいと願っていた。
ディアルトは少し黙っていたが、今度は笑い混じりに溜め息をつくと、リリアンナを見て苦笑いする。
「……じゃあ、今日は素直に休んでおくよ。確かに気持ちが急いていたかもしれない。リリィはいつも俺のことを考えてくれているから、その言葉を信じる」
「恐縮です」
主の信頼を得てリリアンナは微笑むと、少し彼をねぎらってあげなければと思い、手甲をはじめ防具を外しだした。
「え?」
バスルームの床にゴトッと硬質な音を響かせリリアンナが次々に防具を外すので、逆にディアルトがたじろいだ声を出す。
「リ……リリィ?」
上ずった声を出すディアルトを無視し、リリアンナは青いオーバードレスも脱ぎ去ってしまった。
「傷を負わずに戻って来た殿下に、ご褒美を差し上げます」
レースの下着とペチコートのみという姿になったリリアンナは、ホットカンを持ちバスタブに熱い湯を足す。
「あっち」
足元に熱い湯を感じたディアルトが、小さく悲鳴を上げて長い脚を折り畳む。そしてリリアンナとの距離が近いからか、下腹部を覆った湯浴み着を押さえる。
「リリィ、ご褒美ってまさか一緒に入ってくれるのか? だったらレッグガードとブーツも外さないと……」
勘違いをしたディアルトの顔に、リリアンナはパシャッとお湯を掛けてやった。
「何を勘違いされているのです。疲れた筋肉をマッサージして差し上げますと、申し上げているのです」
リリアンナは呆れて溜め息をつき、手を湯の中に入れた。そして躊躇いなくディアルトの素肌――ふくらはぎに触れ、揉み始めた。
「浮腫んでいますね」
しなやかな十指がディアルトのふくらはぎに絡みつき、丁度いい力で揉んでゆく。
「あ……。きもちー……」
「今日は特別に、月の離宮に泊まって付き添って差し上げます」
「本当か?」
「本当です」
いつもはこんなに甘やかしたりしないが、今回だけは特別だ。リリアンナ自身、ずっと離れていて不安だったディアルトと一緒にいたいという気持ちがある。
「気持ちいいですか? 殿下」
手を動かすとチャプチャプとお湯が跳ねて、リリアンナの衣服に掛かる。だが濡れるのは覚悟の上で、終われば着替えるつもりなのでさほど気にしていない。
自分の胸元の上半分が出ているのはいつものことだが、胸当てがないので少し心元ない。ディアルトの前で甲冑をつけていないと、よりプライベートな自分を見せているようで気恥ずかしさがあった。
「……このまま襲ってしまいたい」
熱を孕んだ声がボソッと欲を告げ、リリアンナはジワッと赤面する。
だが恥じらっていることなど絶対に伝えたくないので、いつものままツンとして言い返した。
「今の殿下なら、返り討ちにできそうですね。下手な気持ちは起こさず、このまま身を委ねてください」
「そうは言っても……なぁ」
力を込めてディアルトのひきしまったふくらはぎを揉んでいると、自然にリリアンナの胸もユサユサと揺れてしまう。ディアルトの視線がチラチラとそこに向いているのは分かっているのだが、今は仕方がない。
リリアンナ自身、いつもの正装とも言うべき青いドレスに白銀の甲冑姿のとき、露出したくて胸の上部や太腿を出している訳ではない。
胸元は蒸れるから開放的にし、足元は走ったりジャンプしたりしやすいように、前だけ丈を短くしている。
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