【R-18版】薔薇の執念~秘密を抱えた令嬢騎士は王太子のしつこい告白にほだされる

臣桜

文字の大きさ
上 下
35 / 109

これが最後の命令になるかもしれない

しおりを挟む
「私にできることはありますか?」

 リリアンナは立ち止まり、ディアルトに向き直った。

「じゃあ、俺が王都にいる間、いつものようにしていてくれ。笑ってくれたらなお嬉しい」
「了解致しました。殿下がご不在の時の命令も、お願い致します」

 リリアンナはカッと長靴の踵をつけ、直立不動になる。

「今まで通り、ちゃんと三食とって適切な運動をし、よく眠ること。体重を以前ほどまで戻し、筋力を戻すこと。俺がいつ戻っても、すぐ護衛の仕事ができるように」
「はいっ!」

 グッと背筋を伸ばし、リリアンナは腹の底から声を出す。

 ――これが最後の命令になるかもしれない。

 そう思うと、今にも目から涙が零れそうだった。
 午前中の明るい空を後ろに、髪を伸ばしやつれた姿のディアルトが微笑んでいる。
 その姿を、リリアンナは目蓋の裏に強く焼き付けた。

「……それでこそ、俺のリリィだ」

 誇らしげに笑い、ディアルトはリリアンナの背に手を添えた。

「行こう。王宮に戻って陛下に必要な物資を報告しなければならない。戦況や死傷者の数。騎士団からも報告はあるだろうが、俺が実際に赴き、目にしたことを説明したほうがいいだろう」
「はい、お供致します」

 門を通って真っ直ぐ歩いて行くディアルトの後を、ここまで持ってきた自分の荷物を再び背負い、リリアンナが追った。

**

「リリアンナ。来てくれるか?」

 ディアルトが声を出したのは、バスルームだ。

 月の離宮に戻り、シアナと挨拶をしたディアルトは、荷物を置き汗を流しにバスルームに入った。帰還の報告を聞いていたロキアがすでに風呂の準備をし、ディアルトは従者への礼もそこそこにバスタブに沈んでしまった。
 リリアンナは続き間で控えていたが、あまりに物音が聞こえない時間が長かったので、ひょっとして眠ってしまったのでは? と思った矢先に声を掛けられて安堵する。

「殿下?」

 声が聞こえてすぐバスルームに向かうと、バスタブに体を浸からせたディアルトが、長い手足をはみ出させていた。手をヒラヒラと動かしてリリアンナを呼んでいて、ちゃんと起きていたようでホッとする。

「どうか致しましたか?」
「何か……、俺が寝てしまわないような話を」

 バスルームには香りのついた蝋燭に火が灯り、寛げる空間になっていた。ディアルトの体を直接見ない角度に椅子があったので、リリアンナはそこに腰掛ける。

(やはり少し寝ていらっしゃったのね。お疲れなのだわ)

 ゆっくり休んでほしいと思い、リリアンナはとりあえず思いついた「寝ないための対策」を口にする。

「昔、昔、あるところに……」
「リリィ。それは寝てしまう定番じゃないか」

 思わず突っ込んだディアルトの声に、リリアンナはクスクス笑う。

「今月の騎士団の練習メニューの報告ですが」
「それも却下だ」

 大きな溜め息をつきつつディアルトは笑い、上半身をひねらせリリアンナを振り向いた。
 寝落ちしていたあいだにロキアに無精髭を剃られ、顔はいつものようにスッキリしている。
 伸びた髪を濡れた手で撫でつけたその姿は、思わず鼓動が不埒なリズムを刻んでしまうほど、凄絶な色香があった。

「殿下。寝てしまっても良いのですよ。お風邪を召されませんよう気を付けて、お風呂から上がってぐっすりお眠りください」

 どことなく、目の前のディアルトからは「一分一秒でも時間を無駄にできない。すぐにでも支度をしてまた過酷な場に向かわなければ」という雰囲気を感じる。

「そう言うけど、俺はこれから陛下のところに行って報告をしなければいけない。必要な物資だってあるし、これからどれぐらいの人数を前線に向かわせればいいか、直接訴える必要がある」

「お言葉ですが、現在の殿下は戦地より戻られて極度の興奮状態にあります。思考は過敏になり、お体も戦地にいるかのように、緊張していつでも敵を迎撃できるような状態だと思えます。そのような状態では、冷静な判断ができないのでは……と僭越ながら進言致します。うかつな言動や行動を慎むためにも、一度ゆっくり食事と睡眠をとり、それから考えるのが宜しいかと存じます」

 冷静にディアルトを分析したリリアンナの言葉に、彼はもう一度手で前髪を掻き上げ、水面に向かって溜め息をつく。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

隠れドS上司をうっかり襲ったら、独占愛で縛られました

加地アヤメ
恋愛
商品企画部で働く三十歳の春陽は、周囲の怒涛の結婚ラッシュに財布と心を痛める日々。結婚相手どころか何年も恋人すらいない自分は、このまま一生独り身かも――と盛大に凹んでいたある日、酔った勢いでクールな上司・千木良を押し倒してしまった!? 幸か不幸か何も覚えていない春陽に、全てなかったことにしてくれた千木良。だけど、不意打ちのように甘やかしてくる彼の思わせぶりな言動に、どうしようもなく心と体が疼いてしまい……。「どうやら私は、かなり独占欲が強い、嫉妬深い男のようだよ」クールな隠れドS上司をうっかりその気にさせてしまったアラサー女子の、甘すぎる受難!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

処理中です...