【R-18版】薔薇の執念~秘密を抱えた令嬢騎士は王太子のしつこい告白にほだされる

臣桜

文字の大きさ
上 下
34 / 109

駄目だ

しおりを挟む
「物資を補給する三日の間だけ、一緒にいられる」

 歩き出したディアルトの言葉に、リリアンナの胸は鈍く痛んだ。

(この方は、この期に及んで私を置いて行こうとするのね)

「私、今度こそ一緒に参ります」
「駄目だ」

 随行を願ったが、思ったより強い口調でぴしゃりと却下される。

「前線は本当に酷い状況なんだ。絶対に連れて行けない」
「それでは、私は何のための護衛ですか! 殿下をお守りできない私に、生きている意味など……!」

 大きな声を上げたリリアンナの手を、ディアルトがとても強い力で握った。

「俺は君に生きてほしい。……それだけが望みだ」
「……私は死にません」

 低い声で返事をするリリアンナも、ディアルトをひたと見つめ引かない。

(ここひと月のあの魂が抜けたような安寧な地獄をまた送るなら、たとえ戦地であっても殿下のお側にいたい)

 そう思ったのだが、ディアルトがもう一度簡潔な言葉で拒絶する。

「駄目だ」

 あまりに強情なディアルトの態度に、リリアンナは言葉を失う。

 いつもならリリアンナが少し強気に出れば、ディアルトは笑って何でも譲ってくれていた。だが今だけは違う。命の危険があるからこそ、ディアルトはリリアンナを守ろうとし、厳しい主の姿を見せている。
 ソフィアを前にした時など、もっと君主になるべき人らしく毅然としていてほしいと思っていた。馬鹿にされるのを良しとせず、言い返してほしかった。
 その支配者としての強さを、何もいまリリアンナという個人を守るために見せなくても……、と思い、嬉しさと、悔しさと、様々な感情が入り乱れて目頭が熱くなる。

「リオンも戦地の術士をしているだろう。それに加えて君までいなくなってみろ。ライアン殿が悲しまれる」
「…………」

 弟と父の名を出され、リリアンナは唇を噛みしめた。
 やがて、押し殺した声で尋ねる。

「……弟は、健勝でしたか?」
「ああ、元気だったよ。後衛配属だから彼に危険はない。戦地にいるときも、毎日俺の部屋に呼んで一緒に食事をしていた」
「気にかけてくださり、ありがとうございます」

 ディアルトが帰還し、弟も無事だと分かった。安心できる状況のはずなのに、戦争が続いているなら〝終わった〟訳ではない。
 今まで守られた王都でぬくぬくと過ごしていたが、戦争をしているということは〝こういうこと〟なのだ。

「戦地に連れて行きたくないのは、君を軽視している訳じゃない。それは分かってくれるね?」
「……はい」

 ディアルトはいつもリリアンナを尊重し、護衛として信頼してくれている。そんな彼が「女で力不足だから」という理由でリリアンナを拒絶するはずはない。――それは分かっている。
 けれど彼は、その前にリリアンナを〝一人の女性〟として見ていた。

(嬉しい……はずなのに、――こんなにも辛い)

「分かってくれ、リリィ。君は俺の護衛でイリス家は確かに『王家の守り手』だ。だが君は公爵家の娘であり、戦うことを義務づけられている一般騎士や兵士ではない」
「……リオンはどうなのですか」

 悔し紛れに弟の名を出しても、ディアルトの意志は変わらない。

「彼は安全を約束されているし、後方から攻撃のできる術士だ。君は敵に接近し、直接ぶちかましていくタイプだろう」
「……脳筋ですみません」
「はは、そんなこと言ってないよ。……そうじゃなくて。俺は王族として公爵家令嬢を大事にしなければいけない。あの大きな屋敷で一人暮らし、当主の座を守っているライアン殿を孤独にしてはいけない。分かるね?」

 会話を続けているあいだも二人はゆっくり歩み、城門まで辿り着いた。

 騎士たちは在駐の騎士たちにそれぞれ必要な手当てを受けたり、荷物を持ってもらって休める場所までつれて行かれる。
 せわしなく人が行き来しているなかには、到着したことで安堵し、座り込んで動けなくなった者もいる。
 在駐の騎士たちと普通に会話ができている者は四割ほどで、残りは言葉少なになっているか座り込みうめいている。

 その姿が『現実』を伝えていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

「君を愛するつもりはない」と言ったら、泣いて喜ばれた

菱田もな
恋愛
完璧令嬢と名高い公爵家の一人娘シャーロットとの婚約が決まった第二皇子オズワルド。しかし、これは政略結婚で、婚約にもシャーロット自身にも全く興味がない。初めての顔合わせの場で「悪いが、君を愛するつもりはない」とはっきり告げたオズワルドに、シャーロットはなぜか歓喜の涙を浮かべて…? ※他サイトでも掲載中しております。

ある辺境伯の後悔

だましだまし
恋愛
妻セディナを愛する辺境伯ルブラン・レイナーラ。 父親似だが目元が妻によく似た長女と 目元は自分譲りだが母親似の長男。 愛する妻と妻の容姿を受け継いだ可愛い子供たちに囲まれ彼は誰よりも幸せだと思っていた。 愛しい妻が次女を産んで亡くなるまでは…。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【完結】お飾りの妻からの挑戦状

おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。 「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」 しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ…… ◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています ◇全18話で完結予定

処理中です...