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可愛く、ありませんよね
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「俺が十五歳で君が十歳の時、俺たち家族と叔父上家族、イリス家で食事会をしたことがあったっけ」
「覚えています。あの時食べた鴨料理がとても美味しくて、それ以来私の好物に……」
そう言いかけ、ふと今日の昼食も鴨だったのを思い出した。
「カダン様、私の好物をあの時に覚えてくださったのでしょうか」
「かもしれないね。叔父上はとても愛情深い人だ。兄である父上が大事にするものは、自分も守ろうとする。……それに父上が君の母上に想いを寄せていたのと同じく、叔父上も密かにリーズベットさんを……という噂は聞いたことがあるよ」
「……えぇ!?」
(お母様ったら、なんて男ったらし……!)
流石にそれは初耳で、リリアンナは言葉を失った。
リーズベットは男性の目を引く妖艶な女性……という訳ではなく、その真逆だ。どこまでも明るく活発で、性格はまっすぐ。嘘偽りがなく一緒にいて気持ちのいい人だ。
老若男女問わず好かれていたというのは、父からもよく聞いていた。だが父がいるというのにウィリアとカダンの兄弟まで……と思うと気が遠くなる。
「俺の母上も、今の宮廷のレディたちが、リリアンナに憧れるのと同じでね。君の母上に同性ながら心酔していたらしい。父上と仲のいいリーズベットさんに嫉妬するよりも、万が一のことがあれば、父上を譲っていたかもしれないとも言っていた」
「……はぁ。男性のみならず、女性までも……」
「君も君の母上も、それだけ周囲に愛されているということだよ。俺の従兄弟たちだって君に夢中だしね」
「そんなことありません……」
ポニーテールの毛先を弄びつつ、リリアンナは言うべき言葉を失う。
ディアルトを守ることについては、努力していると断言できる。しかしその他の、外見や女性的魅力については何とも言えない。
世のレディたちのように流行のドレスやアクセサリー、髪型に凝ったことなど一度もない。常に護衛として動きやすさ重視の格好しかしない。
加えて外見や性格というものは、人それぞれで好みや合う・合わないがあると理解している。なので自分の女性的魅力が他者にとってどれぐらいかは、本当に未知数だ。
「多少騒がれている自覚はあります。ですが、それは女だてらに騎士をしているからという、物珍しさが大きいと思っています」
「そうかな? 君の飾らない性格や、ストイックな鍛え方など、みな憧れていると思うよ」
「お言葉はありがたいのですが……」
素直に賛辞の言葉を受け取れない自分がいて、リリアンナは溜め息をつく。
「君は昔、もっと素直な女性だったのにね」
「そう……ですか?」
「十歳の食事会の時。俺がダンスを申し込んだら、君は真っ赤になって母上の陰に隠れていた。可愛かったな」
「今は……可愛く、ありませんよね」
(剣を振り回し、殿下を叱りつける女になってしまったし……)
リリアンナは自分で自分を可愛いと思えない。
「そうじゃない。今と昔の君を比べたいんじゃないんだ。ただあの時から、君の人生の選択肢には俺しかいなかったんじゃないかと心配になって」
「選択肢?」
きょと、と目を瞬かせるリリアンナに、ディアルトは苦く笑ってみせる。
「本来ならもっと自由に恋をしていたかもしれないのに。俺の存在は君の人生の選択肢を奪ってしまったのでは……、と思うんだ」
「そんなことはありません!」
パンッと弾けるように答えたあと、リリアンナは勢いよく立ち上がった。
床に膝をついていたディアルトは思わず尻餅をつき、目の前でフワッと翻ったペチコートの中身に目が釘付けだ。
パンチラがあったなど知らず、リリアンナは自分の選択を否定されたのが悔しく、熱弁を振るう。
「覚えています。あの時食べた鴨料理がとても美味しくて、それ以来私の好物に……」
そう言いかけ、ふと今日の昼食も鴨だったのを思い出した。
「カダン様、私の好物をあの時に覚えてくださったのでしょうか」
「かもしれないね。叔父上はとても愛情深い人だ。兄である父上が大事にするものは、自分も守ろうとする。……それに父上が君の母上に想いを寄せていたのと同じく、叔父上も密かにリーズベットさんを……という噂は聞いたことがあるよ」
「……えぇ!?」
(お母様ったら、なんて男ったらし……!)
流石にそれは初耳で、リリアンナは言葉を失った。
リーズベットは男性の目を引く妖艶な女性……という訳ではなく、その真逆だ。どこまでも明るく活発で、性格はまっすぐ。嘘偽りがなく一緒にいて気持ちのいい人だ。
老若男女問わず好かれていたというのは、父からもよく聞いていた。だが父がいるというのにウィリアとカダンの兄弟まで……と思うと気が遠くなる。
「俺の母上も、今の宮廷のレディたちが、リリアンナに憧れるのと同じでね。君の母上に同性ながら心酔していたらしい。父上と仲のいいリーズベットさんに嫉妬するよりも、万が一のことがあれば、父上を譲っていたかもしれないとも言っていた」
「……はぁ。男性のみならず、女性までも……」
「君も君の母上も、それだけ周囲に愛されているということだよ。俺の従兄弟たちだって君に夢中だしね」
「そんなことありません……」
ポニーテールの毛先を弄びつつ、リリアンナは言うべき言葉を失う。
ディアルトを守ることについては、努力していると断言できる。しかしその他の、外見や女性的魅力については何とも言えない。
世のレディたちのように流行のドレスやアクセサリー、髪型に凝ったことなど一度もない。常に護衛として動きやすさ重視の格好しかしない。
加えて外見や性格というものは、人それぞれで好みや合う・合わないがあると理解している。なので自分の女性的魅力が他者にとってどれぐらいかは、本当に未知数だ。
「多少騒がれている自覚はあります。ですが、それは女だてらに騎士をしているからという、物珍しさが大きいと思っています」
「そうかな? 君の飾らない性格や、ストイックな鍛え方など、みな憧れていると思うよ」
「お言葉はありがたいのですが……」
素直に賛辞の言葉を受け取れない自分がいて、リリアンナは溜め息をつく。
「君は昔、もっと素直な女性だったのにね」
「そう……ですか?」
「十歳の食事会の時。俺がダンスを申し込んだら、君は真っ赤になって母上の陰に隠れていた。可愛かったな」
「今は……可愛く、ありませんよね」
(剣を振り回し、殿下を叱りつける女になってしまったし……)
リリアンナは自分で自分を可愛いと思えない。
「そうじゃない。今と昔の君を比べたいんじゃないんだ。ただあの時から、君の人生の選択肢には俺しかいなかったんじゃないかと心配になって」
「選択肢?」
きょと、と目を瞬かせるリリアンナに、ディアルトは苦く笑ってみせる。
「本来ならもっと自由に恋をしていたかもしれないのに。俺の存在は君の人生の選択肢を奪ってしまったのでは……、と思うんだ」
「そんなことはありません!」
パンッと弾けるように答えたあと、リリアンナは勢いよく立ち上がった。
床に膝をついていたディアルトは思わず尻餅をつき、目の前でフワッと翻ったペチコートの中身に目が釘付けだ。
パンチラがあったなど知らず、リリアンナは自分の選択を否定されたのが悔しく、熱弁を振るう。
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