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ちゃんと伝えたいと思ったんだ
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「……ありがとうございます。殿下はいつからこんなロマンチストになられたのです?」
渡されたバラは、やはりリリアンナの好みの形だ。スッと香りを嗅ぐと、花の女王と呼ばれるに相応しい芳しい匂いがする。
「んー……。前線行きの話が耳に入ってからかな。今まで関係をなあなあにしていたけど、これを機にちゃんと伝えたいと思ったんだ」
「……確かに、正式な告白も受け取っていませんでしたが、キスをする仲になっていましたね」
真顔で言うと、ディアルトがクスクス笑う。
「キスのきっかけは俺の命令だったじゃないか。君は当初頑なにキスを拒んでいた。だから俺は『命令だからお願い』と言って、そしたら君は渋々許してくれた」
「殿下の命令なら、仕方ありません」
(殿下の命令だから、聞くんですよ?)
言葉では素直になれなくても、心の中のリリアンナは彼への恋心を隠していなかった。
「あの時、他に好きな人がいた?」
じっとディアルトに見つめられ、リリアンナは恥ずかしくて視線を逸らす。
「……いませんでした」
(あの頃から、私は殿下をお守りすることしか考えていませんでした)
「君が十二歳のとき騎士団に入って、すぐに俺づきの護衛になったね。最初はロキアともあまり折り合いがよくなかったっけ」
「そうですね。あの頃のロキアさんは少し怖かったです。『お前のような小娘に、殿下がお守りできるのか』というオーラが、全身から吹き出ていました」
「はは、ロキアなら無言でそういうの出してそうだな」
「初めの頃は、騎士団での風当たりも強かったです」
「でも君は、俺を守るのだと言って頑張ってくれたね」
愛しさを隠さない目がリリアンナを見つめる。
リリアンナの手は剣だこができている。普通のレディたちの柔らかな手とは違う、戦う者の手だ。しかしディアルトは、その手が大好きだと言ってくれる。
好きな人が「いい」と言ってくれているからと言って、リリアンナは自分が女性であることを捨てたくない。せめて爪だけはとアリカに手入れをしてもらい、クリスタルの爪やすりでピカピカに磨いてもらっている。
だがいざという時に選ぶなら、女であるよりもディアルトの命を救える護衛でありたい。その気持ちは、母が亡くなってから彼女のように自分も王族の護衛になりたいと決意してから、ずっと抱いていたものだった。
「心の底から強くなりたいと思いました。今でも一部の者たちから、私の母が前王陛下を死なせたのだと言われています。母が護衛として未熟だから、女だから守り切れなかったのだと。私は悔しくて……。だから私は、絶対に殿下をお守りするのだと心に決めています」
きっぱりと言い切ると、ディアルトが髪を撫でてくれ、穏やかに微笑んだ。
「君の母上は心から父に仕え、命をかけて戦ってくれた。息子の俺がそう言うのだから、君は周囲の雑音に惑わされなくていい」
ディアルトは無責任な言葉に傷付けられるのが自分だけなら、特に構わないと思っている。だが王家を守る役目を持つイリス家令嬢のリリアンナは、先代の守り手リーズベットと何かにつけて比較された。
彼女はそれを表に出さなかったが、代わりに無心に剣を振ることが多くなったように思える。守り手となる前――ただの公爵家令嬢だった頃のリリアンナは、もっと少女らしく感情豊かな子だった記憶がある。
ディアルトはそれが悲しかった。
渡されたバラは、やはりリリアンナの好みの形だ。スッと香りを嗅ぐと、花の女王と呼ばれるに相応しい芳しい匂いがする。
「んー……。前線行きの話が耳に入ってからかな。今まで関係をなあなあにしていたけど、これを機にちゃんと伝えたいと思ったんだ」
「……確かに、正式な告白も受け取っていませんでしたが、キスをする仲になっていましたね」
真顔で言うと、ディアルトがクスクス笑う。
「キスのきっかけは俺の命令だったじゃないか。君は当初頑なにキスを拒んでいた。だから俺は『命令だからお願い』と言って、そしたら君は渋々許してくれた」
「殿下の命令なら、仕方ありません」
(殿下の命令だから、聞くんですよ?)
言葉では素直になれなくても、心の中のリリアンナは彼への恋心を隠していなかった。
「あの時、他に好きな人がいた?」
じっとディアルトに見つめられ、リリアンナは恥ずかしくて視線を逸らす。
「……いませんでした」
(あの頃から、私は殿下をお守りすることしか考えていませんでした)
「君が十二歳のとき騎士団に入って、すぐに俺づきの護衛になったね。最初はロキアともあまり折り合いがよくなかったっけ」
「そうですね。あの頃のロキアさんは少し怖かったです。『お前のような小娘に、殿下がお守りできるのか』というオーラが、全身から吹き出ていました」
「はは、ロキアなら無言でそういうの出してそうだな」
「初めの頃は、騎士団での風当たりも強かったです」
「でも君は、俺を守るのだと言って頑張ってくれたね」
愛しさを隠さない目がリリアンナを見つめる。
リリアンナの手は剣だこができている。普通のレディたちの柔らかな手とは違う、戦う者の手だ。しかしディアルトは、その手が大好きだと言ってくれる。
好きな人が「いい」と言ってくれているからと言って、リリアンナは自分が女性であることを捨てたくない。せめて爪だけはとアリカに手入れをしてもらい、クリスタルの爪やすりでピカピカに磨いてもらっている。
だがいざという時に選ぶなら、女であるよりもディアルトの命を救える護衛でありたい。その気持ちは、母が亡くなってから彼女のように自分も王族の護衛になりたいと決意してから、ずっと抱いていたものだった。
「心の底から強くなりたいと思いました。今でも一部の者たちから、私の母が前王陛下を死なせたのだと言われています。母が護衛として未熟だから、女だから守り切れなかったのだと。私は悔しくて……。だから私は、絶対に殿下をお守りするのだと心に決めています」
きっぱりと言い切ると、ディアルトが髪を撫でてくれ、穏やかに微笑んだ。
「君の母上は心から父に仕え、命をかけて戦ってくれた。息子の俺がそう言うのだから、君は周囲の雑音に惑わされなくていい」
ディアルトは無責任な言葉に傷付けられるのが自分だけなら、特に構わないと思っている。だが王家を守る役目を持つイリス家令嬢のリリアンナは、先代の守り手リーズベットと何かにつけて比較された。
彼女はそれを表に出さなかったが、代わりに無心に剣を振ることが多くなったように思える。守り手となる前――ただの公爵家令嬢だった頃のリリアンナは、もっと少女らしく感情豊かな子だった記憶がある。
ディアルトはそれが悲しかった。
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