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その言葉だけで、頑張れる
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(……あぁ……)
激しく怒っていたはずなのに、ディアルトの唇を〝知ってしまっている〟リリアンナは、すぐに気持ちが蕩けていくのを感じた。
最初はディアルトの胸板を押し返していたが、ペチコートの間に太腿をグイッと押しつけられ、秘部を押し上げられて息が止まった。
いつ人が通るかも分からず、そのうち緊張と不安で顔面が真っ赤になり、ドキドキと胸がうるさく鳴りだす。
クチュ……チュ……と静かに聞こえる水音が耳朶を打つのも、恥ずかしくて堪らない。
「……ん、……ぅ」
キスの合間、ディアルトはしっかりとした太腿で何度もリリアンナの股間を押し上げてくる。彼の太腿を跨ぐような格好になったリリアンナは、もぞりと腰を揺らし早くこの状況が終わることを祈るしかできない。
やがて執拗なキスが終わり、ディアルトが濡れた唇をペロリと舌で舐めて尋ねてきた。
「……落ち着いた?」
柱の陰で囁かれ、唇を指でなぞられる。リリアンナの濡れた唇は、濃密になった色気から酸素を求めるように、必死に呼吸を繰り返していた。
――ずるい。
――キスで誤魔化すなんて、ずるい。
胸の内には恨みたくなる気持ちが芽生えるが、自分が随分感情的になってしまったのも思い出した。
「……取り乱しました。申し訳ございません」
「いいよ。俺も君に不意打ちキスができて嬉しい」
何ともディアルトらしいことを言い、彼は「手を繋ごう」と掌を差しだしてきた。
「護衛なのに……」と思って一瞬迷うも、今は護衛と主というよりも、プライベートな空気になってディアルトときちんと話したかった。
なのでリリアンナはディアルトの手を握り返した。
「……戦地に向かうことだが、以前から話は耳に入っていた情報なんだ」
手を繋いで歩き出してから、ディアルトがのんびりとした口調で言う。
「これでも一応、身の上に害がないように各方面に密偵を放っている。幸い、父上をいまだに慕ってくれている者たちもいるしね。俺自身はそれほど王座に興味がないとはいえ、父上の遺言の通り俺を王座にと推している者たちもいる。……今の俺がまだこうして王宮にいられるのは、その者たちのお陰だ」
「……はい。私も、派閥の面々は存じ上げています」
「手に入れた情報で、妃陛下が俺を前線に送りたがっていると知った。だから今日もさして驚きはしなかったんだ」
「……私に一言、教えてくだされば良かったのに」
恨みがましく言うが、ディアルトは相変わらず飄々としている。
「取るに足らないことだよ。俺は情報を知った時から、こう答えるつもりだった。大事な君は王都にいてもらって、俺だけサッと行って戻ってくるつもりだったんだ」
「……私は護衛として、役に立ちませんか?」
その声が拗ねていたのは、リリアンナも分かっていた。
まるで自分が護衛なのを否定された気持ちになったからだ。好きな人が本当のピンチになる時は、絶対に側にいたい。少なくともリリアンナはそう思っている。
ディアルトはリリアンナに対して、護衛の仕事や騎士であることを、他の男性や騎士と比べない。だからこそ、
「戦地では、女の君よりも男の騎士に守ってもらう方が安心する」と言われた気がして、若干傷ついていた。
「そうじゃない、リリアンナ。君の剣の腕も精霊の加護も、俺はいつも頼りにしている。でも愛している女性を、危険な場所に連れて行きたくないんだ。分かってくれ」
「…………」
ディアルトの言葉に、リリアンナは沈黙する。
(殿下が私を好きだと仰ってくれているのが本当なら、一般的な男性の気持ちとして分からないでもない。それでも私は普通の女性ではない。私は殿下の護衛だもの)
「……お側でお守りしたいです」
リリアンナの素の言葉に、ディアルトは嬉しそうに目を細めた。
「ありがとう。その言葉だけで、頑張れる」
(もう……)
こんな風に言われると、リリアンナもこれ以上強く言えない。肝心なところで、リリアンナはディアルトに甘いのだ。
激しく怒っていたはずなのに、ディアルトの唇を〝知ってしまっている〟リリアンナは、すぐに気持ちが蕩けていくのを感じた。
最初はディアルトの胸板を押し返していたが、ペチコートの間に太腿をグイッと押しつけられ、秘部を押し上げられて息が止まった。
いつ人が通るかも分からず、そのうち緊張と不安で顔面が真っ赤になり、ドキドキと胸がうるさく鳴りだす。
クチュ……チュ……と静かに聞こえる水音が耳朶を打つのも、恥ずかしくて堪らない。
「……ん、……ぅ」
キスの合間、ディアルトはしっかりとした太腿で何度もリリアンナの股間を押し上げてくる。彼の太腿を跨ぐような格好になったリリアンナは、もぞりと腰を揺らし早くこの状況が終わることを祈るしかできない。
やがて執拗なキスが終わり、ディアルトが濡れた唇をペロリと舌で舐めて尋ねてきた。
「……落ち着いた?」
柱の陰で囁かれ、唇を指でなぞられる。リリアンナの濡れた唇は、濃密になった色気から酸素を求めるように、必死に呼吸を繰り返していた。
――ずるい。
――キスで誤魔化すなんて、ずるい。
胸の内には恨みたくなる気持ちが芽生えるが、自分が随分感情的になってしまったのも思い出した。
「……取り乱しました。申し訳ございません」
「いいよ。俺も君に不意打ちキスができて嬉しい」
何ともディアルトらしいことを言い、彼は「手を繋ごう」と掌を差しだしてきた。
「護衛なのに……」と思って一瞬迷うも、今は護衛と主というよりも、プライベートな空気になってディアルトときちんと話したかった。
なのでリリアンナはディアルトの手を握り返した。
「……戦地に向かうことだが、以前から話は耳に入っていた情報なんだ」
手を繋いで歩き出してから、ディアルトがのんびりとした口調で言う。
「これでも一応、身の上に害がないように各方面に密偵を放っている。幸い、父上をいまだに慕ってくれている者たちもいるしね。俺自身はそれほど王座に興味がないとはいえ、父上の遺言の通り俺を王座にと推している者たちもいる。……今の俺がまだこうして王宮にいられるのは、その者たちのお陰だ」
「……はい。私も、派閥の面々は存じ上げています」
「手に入れた情報で、妃陛下が俺を前線に送りたがっていると知った。だから今日もさして驚きはしなかったんだ」
「……私に一言、教えてくだされば良かったのに」
恨みがましく言うが、ディアルトは相変わらず飄々としている。
「取るに足らないことだよ。俺は情報を知った時から、こう答えるつもりだった。大事な君は王都にいてもらって、俺だけサッと行って戻ってくるつもりだったんだ」
「……私は護衛として、役に立ちませんか?」
その声が拗ねていたのは、リリアンナも分かっていた。
まるで自分が護衛なのを否定された気持ちになったからだ。好きな人が本当のピンチになる時は、絶対に側にいたい。少なくともリリアンナはそう思っている。
ディアルトはリリアンナに対して、護衛の仕事や騎士であることを、他の男性や騎士と比べない。だからこそ、
「戦地では、女の君よりも男の騎士に守ってもらう方が安心する」と言われた気がして、若干傷ついていた。
「そうじゃない、リリアンナ。君の剣の腕も精霊の加護も、俺はいつも頼りにしている。でも愛している女性を、危険な場所に連れて行きたくないんだ。分かってくれ」
「…………」
ディアルトの言葉に、リリアンナは沈黙する。
(殿下が私を好きだと仰ってくれているのが本当なら、一般的な男性の気持ちとして分からないでもない。それでも私は普通の女性ではない。私は殿下の護衛だもの)
「……お側でお守りしたいです」
リリアンナの素の言葉に、ディアルトは嬉しそうに目を細めた。
「ありがとう。その言葉だけで、頑張れる」
(もう……)
こんな風に言われると、リリアンナもこれ以上強く言えない。肝心なところで、リリアンナはディアルトに甘いのだ。
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