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君の盾役は俺しかいないからな

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「おはようございます!」

 修練場に着くと、二人の姿を認めて騎士たちが声をかけてくる。
 ディアルトは彼らに親しげに手を挙げて挨拶をし、リリアンナは対照的に修練場に入る前にきっちり一礼をする。

 朝の訓練は、特に全体で号令をかけての修練ではなく、あくまで自主練だ。
 騎士団としての全体訓練は朝食後に点呼をし、きっちりとする。
 ディアルトとリリアンナは手始めに、騎士の隊舎や修練場を含めた、騎士エリアをまず五周する。
 勿論、鎧を着用して剣を下げたままだ。走った後は屈伸や股割りなどをして体をほぐし、綿を詰めた人型を相手に、キックやパンチなど体術の訓練をする。
 本来なら腹筋や背筋、腕立て伏せもメニューに入っているが、離宮でもできるメニューなので各自こなしている。
 それが終わると二人一組になり、耐衝撃の重たい盾を片方が持ち、本格的な体術の練習になる。

「じゃあ、いつも通りリリアンナから」
「お先に失礼致します」

 重量級の盾を構えたディアルトを前に、リリアンナは目つきを鋭くし、腰を落とす。

「シュッ」

 すぼめた口から空気が漏れると同時に、彼女は鋭いパンチを盾に叩き込んだ。ドムッと重たい音がし、盾を構えていたディアルトの足に力が入る。
 周囲から、「女王蜂の一撃がいったぞ」と誰かが呟いたのが聞こえた。
 外野の声がしても、リリアンナは攻める手を止めない。立て続けにドムッドムッとパンチが連続し、ジャンプをしつつ体がグルッと回転したかと思うと、強烈な回し蹴りが決まった。

「っく!」

 盾越しにドォンッと大きな衝撃が走り、ディアルトはマウスピースを噛む。その後、嵐のような猛打に足技が三分ほど続いた。

「っは……、はぁっ」

 額に汗を光らせたリリアンナが動きを止めた頃、ディアルトは開始の位置から大分ずれた場所にいた。

「ご苦労様、リリアンナ」
「殿下、盾役ありがとうございました」
「どういたしまして。君の盾役は俺しかいないからな」

 ディアルトの言葉が、リリアンナには〝特別〟に思えて少し嬉しい。
 その気になれば男性であるディアルトの相手役はもっと強い騎士が務め、女性であるリリアンナの相手は相応の騎士が務めてもおかしくない。
 だがディアルトは「君の相手は俺がするから」と言って、必ず練習に付き合ってくれるのだ。

「じゃあ、俺の番だ。君は休んでいて」
「はい」

 リリアンナの打撃訓練はディアルトが受けても、その逆はない。
 ディアルトは騎士団の精鋭に並ぶ腕前で、彼の打撃や蹴り技の威力も半端には終わらない。
 リリアンナも耐衝撃訓練をしているが、攻め手ががディアルトだと衝撃が重たすぎるのだ。またディアルトも、リリアンナが受けるとなると思い切り拳を振るえない。

「殿下、お相手致します」

 そこに明るい声で近寄ってきたのは、ケインツという二十四歳の騎士だ。
 ディアルトより二歳若いながら、ケインツは例の精鋭グループに属している。
 剣の腕も超一流で、体術だけでも強い。おまけに美形なので、騎士団の中で一、二を争う人気者だ。

 リリアンナは修練場の隅にあるベンチに座り、水を飲みながらディアルトを見守る。
 彼女は無造作に脚を組み、ペチコートから白い太腿が出ても構わない。だがその光景をベンチ近くにいた騎士たちは、劣情の籠もった目で見てしまう。
 リリアンナの視線の先、ディアルトは甲冑の重さなど感じさせないジャンプをしたあと、真剣な顔つきになった。

「シッ!」

 肺腑から鋭い呼気を吐き、同時にえぐるようなパンチが盾を襲う。
 ドォンッと明らかにリリアンナの時より重たい音がし、ケインツの後ろ足がズッと下がった。
 精鋭ほどのレベルになると、剣を持たずともパンチやキックだけでも嵐のような衝撃が起こる。パンチの風圧だけで蝋燭の火が消えるし、蹴りがまともに人に当たったらどうなるか分からない。
 広い修練場の隅とは言え、十分に周囲に空きを作った空間でディアルトが舞うように体を動かす。
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