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リリアンナを口説くんじゃない
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(もう……。殿下ったら気を遣わないんだから。ドアを開けっぱなしでお着替えなんでしょう? トラウザーズを脱いで下着一枚になって……、また一枚一枚身につけて……)
ディアルトが着替えているシーンを想像し、リリアンナは一人赤面する。
いつも一緒にいる相手だとしても、リリアンナにとってディアルトは憧れの王子だ。そんな人が繋がった空間で着替えているとなると、彼女だって胸を高鳴らせる。
「待たせたね」
「いいえ」
ディアルトの声がし、リリアンナはスッと立ち上がる。
その表情も、もう動揺していない。いつものクールなリリアンナだ。
これから騎士たちに混じって朝稽古をこなすディアルトは、動きやすいシャツとトラウザーズのみという姿だ。
リリアンナが一度廊下に出て「お願いします」と言うと、ディアルトの身の回りの世話をしているロキアという従者が入室する。
三十二歳のロキアは、アリカの夫だ。そしてディアルトの兄のような存在で、いつも彼に助言をしている。側仕え同士が夫婦だというのに、肝心の主たちはもどかしい恋愛をしているのだ。
「リリアンナ様。今日も麗しく存じます」
「ありがとうございます」
ロキアはディアルトに黒い甲冑を着せるのを手伝いつつ、リリアンナと世間話をする。
「こら、ロキア。いつも言っているがリリアンナを口説くんじゃない。アリカに言いつけるぞ」
「恐れながら、アリカさんがこの場にいたら、私と一緒にリリアンナ様の美を賞賛していると思います」
ロキアはアリカと似た者夫婦だ。主に対してこの上ない忠臣なのだが、それゆえに正直すぎる所があり、主に忌憚なくものを言う。よってリリアンナもディアルトも、それぞれアリカとロキアに口で敵わないのだ。
リリアンナは目線だけでディアルトに「逆らうな」と言い、彼もそれに一つだけ静かに頷く。
「いつも通りのご予定で、お時間になる頃には朝食を用意しておきますね」
眼鏡をかけ黒髪を撫でつけたロキアも、精霊に愛された存在で目に若干金色が入っている。従者という役職だが、彼もその気になれば戦える。そのようなことはないのが一番いいのだが――。
「じゃあ、行ってくる」
甲冑を身につけたディアルトは、具合を確かめるようにピョンとその場でジャンプをしてから、部屋の隅に立てかけてあった剣を取った。
「行こうか、リリアンナ」
「はい、殿下」
そして二人は、門より外にある騎士の修練場へ向かった。
ディアルトは隣を歩くリリアンナの横顔を盗み見て、一人微笑んだ。
彼女は知らないことだが、ディアルトは毎日リリアンナが起こしに来るよりも早く起きている。
そしてリリアンナと鉢合わせにしない場所で、一人自主訓練をしているのだ。
リリアンナが起こしに来るよりも早く月の離宮に戻り、風呂に入ってから寝たふりをする。
愛しい彼女がプリプリ怒って起こしてくれるのを、毎朝心待ちにしていた。
ロキアには「面倒臭い人ですね」と言われているが、少しでもリリアンナに構ってもらえるのなら、どんな手段でも執りたい。
(それにもうすぐ……)
いずれ訪れるだろう〝出来事〟に思いを馳せ、ディアルトは覚悟を決めた目になる。
それまではリリアンナとのこの生活に身を浸し、甘い時間を味わいたいと思うのだった。
ディアルトが着替えているシーンを想像し、リリアンナは一人赤面する。
いつも一緒にいる相手だとしても、リリアンナにとってディアルトは憧れの王子だ。そんな人が繋がった空間で着替えているとなると、彼女だって胸を高鳴らせる。
「待たせたね」
「いいえ」
ディアルトの声がし、リリアンナはスッと立ち上がる。
その表情も、もう動揺していない。いつものクールなリリアンナだ。
これから騎士たちに混じって朝稽古をこなすディアルトは、動きやすいシャツとトラウザーズのみという姿だ。
リリアンナが一度廊下に出て「お願いします」と言うと、ディアルトの身の回りの世話をしているロキアという従者が入室する。
三十二歳のロキアは、アリカの夫だ。そしてディアルトの兄のような存在で、いつも彼に助言をしている。側仕え同士が夫婦だというのに、肝心の主たちはもどかしい恋愛をしているのだ。
「リリアンナ様。今日も麗しく存じます」
「ありがとうございます」
ロキアはディアルトに黒い甲冑を着せるのを手伝いつつ、リリアンナと世間話をする。
「こら、ロキア。いつも言っているがリリアンナを口説くんじゃない。アリカに言いつけるぞ」
「恐れながら、アリカさんがこの場にいたら、私と一緒にリリアンナ様の美を賞賛していると思います」
ロキアはアリカと似た者夫婦だ。主に対してこの上ない忠臣なのだが、それゆえに正直すぎる所があり、主に忌憚なくものを言う。よってリリアンナもディアルトも、それぞれアリカとロキアに口で敵わないのだ。
リリアンナは目線だけでディアルトに「逆らうな」と言い、彼もそれに一つだけ静かに頷く。
「いつも通りのご予定で、お時間になる頃には朝食を用意しておきますね」
眼鏡をかけ黒髪を撫でつけたロキアも、精霊に愛された存在で目に若干金色が入っている。従者という役職だが、彼もその気になれば戦える。そのようなことはないのが一番いいのだが――。
「じゃあ、行ってくる」
甲冑を身につけたディアルトは、具合を確かめるようにピョンとその場でジャンプをしてから、部屋の隅に立てかけてあった剣を取った。
「行こうか、リリアンナ」
「はい、殿下」
そして二人は、門より外にある騎士の修練場へ向かった。
ディアルトは隣を歩くリリアンナの横顔を盗み見て、一人微笑んだ。
彼女は知らないことだが、ディアルトは毎日リリアンナが起こしに来るよりも早く起きている。
そしてリリアンナと鉢合わせにしない場所で、一人自主訓練をしているのだ。
リリアンナが起こしに来るよりも早く月の離宮に戻り、風呂に入ってから寝たふりをする。
愛しい彼女がプリプリ怒って起こしてくれるのを、毎朝心待ちにしていた。
ロキアには「面倒臭い人ですね」と言われているが、少しでもリリアンナに構ってもらえるのなら、どんな手段でも執りたい。
(それにもうすぐ……)
いずれ訪れるだろう〝出来事〟に思いを馳せ、ディアルトは覚悟を決めた目になる。
それまではリリアンナとのこの生活に身を浸し、甘い時間を味わいたいと思うのだった。
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