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殿下はどうかされています
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鎧を着けたままの体が、ドサッとディアルトの体の上に倒れ込む。体勢を立て直す間もなく、ディアルトが逆にリリアンナを仰向けにした。
(嘘! 鎧も着ているから重たいですから! 殿下っ!)
「っあ……、でん――」
抵抗しようとすると、両手を掴まれ容易く片手でまとめられる。すぐに唇が訪れて、何度もリリアンナの唇を愛してきた。
――柔らかくて、気持ちいい。
マシュマロのような唇の感触に加え、ディアルトからは石鹸の香りがする。
フワフワとした心地に、リリアンナは混乱して抵抗するタイミングを失ってしまった。
通常の彼女なら、あり得ない失態だ。
やげてディアルトの舌がチロリとリリアンナの唇の内側を探ってきた。
(!)
腰のあたりがゾクッとし、リリアンナはとっさにディアルトから距離を取ろうとする。
しかし彼によって組み敷かれ、騎士であるリリアンナの力でもっても抗えない。
――いや、本気で抵抗しようとすれば、リリアンナはディアルトの急所を蹴ってでもこの状況から脱する事ができただろう。
しかしリリアンナの中にもディアルトを想う気持ちがあるからこそ、結局逆らえずにいた。
「ふ……、ん、……ぁ、あぁ」
クチュ……と舌で口内が掻き混ぜられ、息継ぎの合間にリリアンナの唇から艶冶な声が漏れる。
リリアンナの胸元は銀色の胸当てで守られているが、太腿は膝上のペチコートがあるのみで無防備だ。そこにスッとディアルトの手が入り込み、ねっとりとリリアンナの太腿を撫で回してきた。
「ん……っ、ン」
ゾクゾクと体を震わせたリリアンナは、とっさに両手でディアルトの肩を押してしまった。
「……は……」
ディアルトがキスを終え、リリアンナを見つめたままペロリと自身の唇を舐める。
やっと解放された頃には、リリアンナは顔を真っ赤にさせクタリと脱力していた。
「さて、約束通り起きないと」
ディアルトの寝姿は、トラウザーズを穿いているものの半裸だ。
ムクリと起き上がった彼は見事な上半身を晒し、リリアンナはまた劣情に苛まれて彼を見る。
(本当に目の毒だわ……。いい匂いがするし、鍛えた体も寝起きの顔も色っぽいし……。ああ、もう! こんな呆けていたら、護衛としてのお勤めを果たせないわ)
「ああ、いい目覚めだ」
黒髪をかき上げて笑うディアルトに、リリアンナはむっつりと怒って返事する。
「……昨日から殿下はどうかされています」
ゆっくり起き上がったリリアンナは、太腿が剥き出しになり乱れているスカートを直した。もしかしたら彼に下着を見られてしまったかもしれないという羞恥を、持ち前の無表情でやり過ごす。
「もう自分の心に嘘をつかないと決めたんだ。欲しいものは欲しいと言う。いいと思わないか?」
先にベッドから下りて伸びをするディアルトから、ポキポキと小さな音がする。しなやかな筋肉は美しい動物を思わせ、朝日を浴びる半裸は軍神像のようだ。
「……その姿勢は大変ご立派です。ですが今回の場合、私という〝相手〟がいることをお忘れなきよう」
冷静さを失わず、リリアンナもベッドから下りて乱れた衣服や髪を直す。
(……どうしたらいいの。二人で寝台から下りて衣服を整えるだなんて……。まるで情事のあとみたいじゃない。こんな場面をシアナ様に見られてしまっては、誤解を受けるわ)
月の離宮には、ディアルトだけではなく彼の母シアナも同居している。
実際のところディアルトの母――シアナは、息子がリリアンナを想っているのを全力で応援していた。リリアンナの性格や武勲、すべてを気に入っているシアナは、彼女をすでに嫁のように扱っている。母子そろってリリアンナにベタ惚れなのだ。
だがシアナに良くしてもらっている自覚はあれど、リリアンナは自分が彼女に認められていると思っていない。あくまで自分はディアルトの護衛なのだとわきまえている。
「でも、君。嫌がってなかったじゃないか」
続き部屋になっている衣装部屋へ向かいつつ、ディアルトが笑う。
「……殿下のお手が早いからです」
あたかも自分がディアルトに気があるという言い方をされては不本意で、リリアンナは脊髄反応のように言い返す。だがそもそもにしてキスを拒まないということ自体、ディアルトに気があるということを失念しているのだった。
それからディアルトが着替える間、リリアンナは寝室にあるソファで待っていた。
手持ち無沙汰に乱れたベッドを整えるのは、メイドの仕事を奪うことなので控えている。
だが早朝の沈黙の中、ディアルトが着替える衣擦れの音しか聞こえないというのは、いささか心臓に悪い。
(嘘! 鎧も着ているから重たいですから! 殿下っ!)
「っあ……、でん――」
抵抗しようとすると、両手を掴まれ容易く片手でまとめられる。すぐに唇が訪れて、何度もリリアンナの唇を愛してきた。
――柔らかくて、気持ちいい。
マシュマロのような唇の感触に加え、ディアルトからは石鹸の香りがする。
フワフワとした心地に、リリアンナは混乱して抵抗するタイミングを失ってしまった。
通常の彼女なら、あり得ない失態だ。
やげてディアルトの舌がチロリとリリアンナの唇の内側を探ってきた。
(!)
腰のあたりがゾクッとし、リリアンナはとっさにディアルトから距離を取ろうとする。
しかし彼によって組み敷かれ、騎士であるリリアンナの力でもっても抗えない。
――いや、本気で抵抗しようとすれば、リリアンナはディアルトの急所を蹴ってでもこの状況から脱する事ができただろう。
しかしリリアンナの中にもディアルトを想う気持ちがあるからこそ、結局逆らえずにいた。
「ふ……、ん、……ぁ、あぁ」
クチュ……と舌で口内が掻き混ぜられ、息継ぎの合間にリリアンナの唇から艶冶な声が漏れる。
リリアンナの胸元は銀色の胸当てで守られているが、太腿は膝上のペチコートがあるのみで無防備だ。そこにスッとディアルトの手が入り込み、ねっとりとリリアンナの太腿を撫で回してきた。
「ん……っ、ン」
ゾクゾクと体を震わせたリリアンナは、とっさに両手でディアルトの肩を押してしまった。
「……は……」
ディアルトがキスを終え、リリアンナを見つめたままペロリと自身の唇を舐める。
やっと解放された頃には、リリアンナは顔を真っ赤にさせクタリと脱力していた。
「さて、約束通り起きないと」
ディアルトの寝姿は、トラウザーズを穿いているものの半裸だ。
ムクリと起き上がった彼は見事な上半身を晒し、リリアンナはまた劣情に苛まれて彼を見る。
(本当に目の毒だわ……。いい匂いがするし、鍛えた体も寝起きの顔も色っぽいし……。ああ、もう! こんな呆けていたら、護衛としてのお勤めを果たせないわ)
「ああ、いい目覚めだ」
黒髪をかき上げて笑うディアルトに、リリアンナはむっつりと怒って返事する。
「……昨日から殿下はどうかされています」
ゆっくり起き上がったリリアンナは、太腿が剥き出しになり乱れているスカートを直した。もしかしたら彼に下着を見られてしまったかもしれないという羞恥を、持ち前の無表情でやり過ごす。
「もう自分の心に嘘をつかないと決めたんだ。欲しいものは欲しいと言う。いいと思わないか?」
先にベッドから下りて伸びをするディアルトから、ポキポキと小さな音がする。しなやかな筋肉は美しい動物を思わせ、朝日を浴びる半裸は軍神像のようだ。
「……その姿勢は大変ご立派です。ですが今回の場合、私という〝相手〟がいることをお忘れなきよう」
冷静さを失わず、リリアンナもベッドから下りて乱れた衣服や髪を直す。
(……どうしたらいいの。二人で寝台から下りて衣服を整えるだなんて……。まるで情事のあとみたいじゃない。こんな場面をシアナ様に見られてしまっては、誤解を受けるわ)
月の離宮には、ディアルトだけではなく彼の母シアナも同居している。
実際のところディアルトの母――シアナは、息子がリリアンナを想っているのを全力で応援していた。リリアンナの性格や武勲、すべてを気に入っているシアナは、彼女をすでに嫁のように扱っている。母子そろってリリアンナにベタ惚れなのだ。
だがシアナに良くしてもらっている自覚はあれど、リリアンナは自分が彼女に認められていると思っていない。あくまで自分はディアルトの護衛なのだとわきまえている。
「でも、君。嫌がってなかったじゃないか」
続き部屋になっている衣装部屋へ向かいつつ、ディアルトが笑う。
「……殿下のお手が早いからです」
あたかも自分がディアルトに気があるという言い方をされては不本意で、リリアンナは脊髄反応のように言い返す。だがそもそもにしてキスを拒まないということ自体、ディアルトに気があるということを失念しているのだった。
それからディアルトが着替える間、リリアンナは寝室にあるソファで待っていた。
手持ち無沙汰に乱れたベッドを整えるのは、メイドの仕事を奪うことなので控えている。
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