5 / 109
お部屋にあるバラはどうされたのです?
しおりを挟む
翌朝、いつも通りの時間に起床したリリアンナは、軽装で走り込みに行く。
上は体にフィットしたシャツに、下はキュロットスカート。貴婦人たちなら下着同然と思う姿だが、リリアンナは構わない。
体力をつけるために走っているのに、わざわざスカートなど穿いていられない。
リリアンナはいつも、五つの宮がある外周を走っている。
リリアンナの姿にお目にかかろうと、早起きをする騎士たちの姿もある。
彼らのお目当ては、薄着のリリアンナと、走るたびにユッサユッサと重量を見せつける胸だ。
リリアンナの侍女は走る彼女に「お胸が垂れてしまいます!」と悲鳴をあげ、よりリリアンナの胸にフィットした下着を注文している。
そんな外野の秋波や心配をよそに、リリアンナは今日も外周を三周走りきった。
「お帰りなさいませ、お嬢様」
花の離宮に戻ってリリアンナを迎えたのは、侍女のアリカだ。
アリカはリリアンナよりも年上の二十七歳で、姉的存在でもある。
主がこの花の離宮で暮らし始めた時から、イリス家の屋敷からついてきてリリアンナの身の回りの世話をしている。主の早起きにもすっかり慣れていて、リリアンナが外周を走り終わる頃には、風呂の用意をしてくれている。
「まずはお飲み物を」
アリカが用意してくれる、水にレモンと塩、少しの蜂蜜を入れた飲み物は気持ちをスッキリさせてくれる。
ゴクッゴクッと喉を鳴らしてレモン水を飲んだあとは、毎日の恒例行事があった。
「ではお嬢様」
「ええ」
背筋を伸ばしてスッと立つと、巻き尺を手にしたアリカがリリアンナの胸周りを測ってゆく。
「お嬢様の年齢で、お胸が垂れてしまってはいけません。ほんの少しでも数字に変化がありましたら、より強力な下着を手配致します」
リリアンナのアンダーバストとトップバストを測り、肩から乳頭までも測る。
「……アリカはちょっと心配性だと思うのよ」
リリアンナも、侍女相手だと年相応の令嬢の話し方をする。
「何を仰るんです。リリアンナ様は確かに武人でもあられますが、その前に妙齢のご婦人です。体力や戦闘技術を磨くのも大事ですが、女性らしさを忘れてはなりませんよ?」
「……そう、ね」
「はい、宜しゅうございます。今日も完璧なプロポーションです」
計測が終わると、リリアンナは苦笑いをしてバスルームに向かった。
「朝食の準備ができております」
汗を流し、長い髪を流したままのリリアンナは、バスローブ姿で食卓に着く。
厚切りにしたトーストは二枚。一枚はバターと蜂蜜や季節のジャムを塗る。もう一枚は、ハーブや胡椒入りのチーズを塗って食べる。それがリリアンナのお気に入りだ。
加えてたっぷりのサラダに、コーンスープ。ハムやウィンナー、スクランブルエッグ。
貴婦人が食べるには量が多いけれど、リリアンナは人一倍体を動かしているので丁度いい。花の離宮の料理人も、リリアンナは美食家な上によく食べるので、働きがいがあると言っている。
「お嬢様、お部屋にあるバラはどうされたのです?」
アリカに訊かれ、リリアンナは一瞬喉を詰まらせる。
すぐに水を飲んで侍女を見ると、アリカは意味ありげな笑みを浮かべていた。そんな侍女を見てリリアンナは赤面し、しどろもどろになって説明する。
「……あ、あれは……。で、殿下に頂いたわ。どうしよう。お返しとか考えた方がいいのかしら?」
リリアンナの執務室のデスクには、一輪挿しにバラが挿されてある。有能な侍女はそれを見逃さなかったのだ。
「一輪のバラの意味は、『あなたしかいない』。赤いバラの花言葉は『情熱』『愛情』『美貌』『あなたを愛します』」
詩をそらんじるようにアリカが言い、リリアンナは目を丸くした。
「そ……そんな意味があったの?」
「お嬢様ほどの年齢のレディなら、皆様ご存じのことです。お嬢様が興味がなさすぎるだけです」
時々この侍女は、主に対して辛辣になる。
上は体にフィットしたシャツに、下はキュロットスカート。貴婦人たちなら下着同然と思う姿だが、リリアンナは構わない。
体力をつけるために走っているのに、わざわざスカートなど穿いていられない。
リリアンナはいつも、五つの宮がある外周を走っている。
リリアンナの姿にお目にかかろうと、早起きをする騎士たちの姿もある。
彼らのお目当ては、薄着のリリアンナと、走るたびにユッサユッサと重量を見せつける胸だ。
リリアンナの侍女は走る彼女に「お胸が垂れてしまいます!」と悲鳴をあげ、よりリリアンナの胸にフィットした下着を注文している。
そんな外野の秋波や心配をよそに、リリアンナは今日も外周を三周走りきった。
「お帰りなさいませ、お嬢様」
花の離宮に戻ってリリアンナを迎えたのは、侍女のアリカだ。
アリカはリリアンナよりも年上の二十七歳で、姉的存在でもある。
主がこの花の離宮で暮らし始めた時から、イリス家の屋敷からついてきてリリアンナの身の回りの世話をしている。主の早起きにもすっかり慣れていて、リリアンナが外周を走り終わる頃には、風呂の用意をしてくれている。
「まずはお飲み物を」
アリカが用意してくれる、水にレモンと塩、少しの蜂蜜を入れた飲み物は気持ちをスッキリさせてくれる。
ゴクッゴクッと喉を鳴らしてレモン水を飲んだあとは、毎日の恒例行事があった。
「ではお嬢様」
「ええ」
背筋を伸ばしてスッと立つと、巻き尺を手にしたアリカがリリアンナの胸周りを測ってゆく。
「お嬢様の年齢で、お胸が垂れてしまってはいけません。ほんの少しでも数字に変化がありましたら、より強力な下着を手配致します」
リリアンナのアンダーバストとトップバストを測り、肩から乳頭までも測る。
「……アリカはちょっと心配性だと思うのよ」
リリアンナも、侍女相手だと年相応の令嬢の話し方をする。
「何を仰るんです。リリアンナ様は確かに武人でもあられますが、その前に妙齢のご婦人です。体力や戦闘技術を磨くのも大事ですが、女性らしさを忘れてはなりませんよ?」
「……そう、ね」
「はい、宜しゅうございます。今日も完璧なプロポーションです」
計測が終わると、リリアンナは苦笑いをしてバスルームに向かった。
「朝食の準備ができております」
汗を流し、長い髪を流したままのリリアンナは、バスローブ姿で食卓に着く。
厚切りにしたトーストは二枚。一枚はバターと蜂蜜や季節のジャムを塗る。もう一枚は、ハーブや胡椒入りのチーズを塗って食べる。それがリリアンナのお気に入りだ。
加えてたっぷりのサラダに、コーンスープ。ハムやウィンナー、スクランブルエッグ。
貴婦人が食べるには量が多いけれど、リリアンナは人一倍体を動かしているので丁度いい。花の離宮の料理人も、リリアンナは美食家な上によく食べるので、働きがいがあると言っている。
「お嬢様、お部屋にあるバラはどうされたのです?」
アリカに訊かれ、リリアンナは一瞬喉を詰まらせる。
すぐに水を飲んで侍女を見ると、アリカは意味ありげな笑みを浮かべていた。そんな侍女を見てリリアンナは赤面し、しどろもどろになって説明する。
「……あ、あれは……。で、殿下に頂いたわ。どうしよう。お返しとか考えた方がいいのかしら?」
リリアンナの執務室のデスクには、一輪挿しにバラが挿されてある。有能な侍女はそれを見逃さなかったのだ。
「一輪のバラの意味は、『あなたしかいない』。赤いバラの花言葉は『情熱』『愛情』『美貌』『あなたを愛します』」
詩をそらんじるようにアリカが言い、リリアンナは目を丸くした。
「そ……そんな意味があったの?」
「お嬢様ほどの年齢のレディなら、皆様ご存じのことです。お嬢様が興味がなさすぎるだけです」
時々この侍女は、主に対して辛辣になる。
0
お気に入りに追加
471
あなたにおすすめの小説


「君を愛するつもりはない」と言ったら、泣いて喜ばれた
菱田もな
恋愛
完璧令嬢と名高い公爵家の一人娘シャーロットとの婚約が決まった第二皇子オズワルド。しかし、これは政略結婚で、婚約にもシャーロット自身にも全く興味がない。初めての顔合わせの場で「悪いが、君を愛するつもりはない」とはっきり告げたオズワルドに、シャーロットはなぜか歓喜の涙を浮かべて…?
※他サイトでも掲載中しております。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

思い出してしまったのです
月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。
妹のルルだけが特別なのはどうして?
婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの?
でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。
愛されないのは当然です。
だって私は…。

【完結】初めて嫁ぎ先に行ってみたら、私と同名の妻と嫡男がいました。さて、どうしましょうか?
との
恋愛
「なんかさぁ、おかしな噂聞いたんだけど」
結婚式の時から一度もあった事のない私の夫には、最近子供が産まれたらしい。
夫のストマック辺境伯から領地には来るなと言われていたアナベルだが、流石に放っておくわけにもいかず訪ねてみると、
えっ? アナベルって奥様がここに住んでる。
どう言う事? しかも私が毎月支援していたお金はどこに?
ーーーーーー
完結、予約投稿済みです。
R15は、今回も念の為

【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる
奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。
だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。
「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」
どう尋ねる兄の真意は……

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる